なぜ?災害高リスク地に高齢者施設 背景は

熊本県南部を襲った豪雨による河川の氾濫で、球磨村の特別養護老人ホーム(特養)「千寿園」の入居者14人が犠牲になった。

高齢者施設が被災し、居室で暮らす人の命が奪われる例は後を絶たない。そもそもなぜ、災害リスクがある場所への施設の建設が許されるのか。背景には、危険があると分かっていても、一律に立地を規制するのは難しい現行制度の限界がある。

「相当のクラスの雨だったということか…」

熊本県河川課の担当者は、水に漬かった千寿園の被害をこう振り返る。

園は、球磨川と支流「小川」が合流する地点に位置。球磨川水系は洪水の恐れがある「洪水浸水想定区域」に指定されており、園の一帯もこの区域に入っていた。

国土交通省の図面では、園の周辺は浸水した場合、水深が10~20メートル未満に達するとされている。国土地理院は今回、最も深い地点で9メートルほど浸水したとみており、恐れていた被害が現実のものとなった。

なぜ、このような場所に特養建設が許されたのか。

特養は一般的に、公募などで選ばれた事業者が建設地を選び、整備計画をまとめる。これを自治体に提出し、承認されると着工できる。

厚生労働省によると、洪水や土砂災害の恐れがある敷地に予定していると、自治体は場所を変更するよう助言はできるが、強制することはできないという。

福岡県の特養の男性管理者(63)は「行政は『地域のこの辺りに建設してほしい』という目安を示し、事業者はそこから敷地を探すことが多い。だが事業者が一度、予定地を決めると、行政もそれを覆すのは難しい」と打ち明ける。

国交省によると、災害の恐れがあるとして、福祉施設の建設を規制するルールは限られるという。

例えば、自治体が一定範囲を「災害危険区域」に指定すると、一帯では住宅や福祉施設の建設を規制できる。また、都市計画区域内の市街化調整区域でも、整備が一定制限される。

しかし、これらのほかは洪水浸水想定区域でも原則禁止されていない。土砂崩れの恐れが高い「土砂災害特別警戒区域」も対策工事などが必要だが、条件を満たせば建設できる。行政側が民間の開発行為を止めるのには限界がある。

「国の支援も必要だ」

一方で、自然災害による高齢者施設の被災は相次いでいる。2016年には岩手県の施設が台風で浸水し、入居者9人が亡くなった。西日本豪雨と昨年の台風19号でも被害が出た。

国はこれを受け、6月閉会した通常国会で都市計画法を改正した。

土砂災害の恐れがある地域では福祉施設や病院、スーパーなどの建設を原則禁止し、洪水浸水想定区域の一部でも福祉施設などの建設を厳しくする。ただ、施行予定は22年4月で、既存施設は法の適用外となる。

特養などの福祉施設は00年の介護保険開始後、山間部だけでなく市街地にも多く建てられるようになった。面会に訪れる家族の利便性などに配慮したためだが、市街地は川幅の広い河川も目立ち、氾濫すれば浸水のリスクは高まる。

介護現場に詳しい淑徳大の結城康博教授(社会保障論)は「事業者はより慎重に建設地を考える必要がある。洪水のハード対策では、建物を2、3階建てにし、エレベーターを設けて避難しやすくする対応が求められるだろう。大雨や台風の時に夜勤の職員を増やすなど、ソフト面の備えも不可欠。そのための国の支援も必要だ」と指摘している。 (編集委員・河野賢治)




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