コロナ禍の中で、家を失いペットと野宿 「私も犬も食べていない」

新型コロナ感染症に伴う緊急事態宣言などの影響で仕事を失い、さらに住む家までも失う人たちが増えている。その多くの人たちはつい昨日まで普通に働いていて、当然ながら中には犬や猫と暮らしてきた人もいる。

愛犬と野外で寝泊まり

作家の雨宮処凛さんは5月下旬、18歳になる老犬を抱っこした女性に会った。女性は、雨宮さんが世話人を務める「反貧困ネットワーク」が参加する「新型コロナ災害緊急アクション」に、「昨日から自分も犬も何も食べていない」と連絡してきたのだ。

雨宮さんはこう話す。

「私たちは『新型コロナ災害緊急アクション』を、数十の生活困窮者支援団体などで協力して3月に立ち上げました。女性はそこのメールフォームから相談を送ってこられたんですが、『犬も食べてない』という言葉に心がえぐらるような気がしました。すぐに団体の者が1人行って、ドッグフードと緊急のお金を渡しました」

話を聞くと女性は、仕事は細々と続けているものの、お金が足りなくてアパートを追い出され、所持金が尽き、犬と野外で数日間、寝泊まりしていたそうだ。

「そういったとき、私たち支援団体は臨時でビジネスホテルに泊まってもらうことにしているんですが、ペット可のホテルはやはり高いんですね。通常の倍ぐらいの値段になってしまいました。

公的な保護施設もあるにはあるんですが、環境が整っていなくて、正直私たちは女性をそこに行かせたくないと思っています。ましてや犬がいっしょだと、そうした施設にさえ入れないんです」

「犬を処分しろ」

お金がない、今日泊まるところがない、という人たちに向けて行政は幾つかの施設を用意するものの、大部屋に二段ベッドが並ぶだけでプライバシーが全くなかったり、個室でも衛生環境が非常に悪かったりと、このコロナ禍の中では特に感染防止のためにも宿泊をさせたくない。増してや犬や猫が一緒だと、そうした施設に入ることも不可能なのだという。

「女性はなんとかペットと一緒にホテルに宿泊してもらいました。でも、話を聞いたら私たちに連絡をしてくる前に、役所へ行って生活が苦しいと相談をしていたそうなんです。そうしたら『生活保護を受けたいなら犬を処分しろ』と言われたと聞いて驚きました。

生活保護を受けるのにペットはダメなんていう規則はありません。増してや処分しろなんて、動物愛護の観点からもまったく間違っています」

「もう役所には行きたくない」

女性は「犬を処分しなければいけないなら、もう絶対に役所には行きたくないです」と犬を抱きしめたそうだ。

「私にも大切な猫がいます。去年、つくしという14年いっしょに暮らした子をリンパ腫で亡くし、今はこの7月に16歳になるぱぴちゃんと暮らしています。ぱぴちゃんは14年ぶりに一人っ子になったせいで、すっかり甘えん坊になりました。

猫は私にとって大切な家族です。どんなに生活が苦しくなっても、手放すなんて絶対に考えられません。ペットと暮らす人なら、みなさんそうお思いでしょう?」

お互いが支えに

女性は現在、支援団体が所有するシェルターに犬といっしょに入ることが出来た。今後は支援者たちと相談しながら、生活を再建していく予定だ。しかし、こうした話を聞くと生活困窮者が「生活保護など公的支援を受けながら」ペットを飼うなんてぜいたくだと考える人もいるかもしれない。

「はたから見たり聞いたり、文字で読むだけだとそう思うかもしれません。でも、目の前で見てしまったらどうでしょうか? 見捨てることができますか? 女性といっしょにいた老犬はせき込んでいて息も苦しい状態でした。

ここで見放したら、この子は死んでしまうかもしれない。女性は住まいを失っても決して犬を手放さずにいっしょにいます。お互いに支えになってるんですよね。もし、犬に何かあったら、この女性も崩れてしまうんじゃないかと思いました」

命を守るために

せき込んでいた犬はその後、動物病院での治療も受けてもらっているという。そうした資金は、団体へ寄せられた寄付で立て替えてきたが、今後さらにペットと共に路頭に迷うケースが増えるのではないか?と、雨宮さんたちは今回新たに、反貧困ネットワーク内に「反貧困犬猫部」を立ち上げて寄付を募っている。

「この女性の後、やはり犬を連れた方が路頭に迷っているという話もありました。コロナ感染症の影響で仕事や住まいを失う人はこれからも増えることが予想されます。

ホテル代、フード代、病院代、まだ気づいてないけれど、今後もっとお金がかかってくることもあるかもしれません。小さな命を守るためのお金が必要なんです。ありがたいことに、すでに活動にご理解を示してくれている動物病院にも出会えました」

絶対に失いたくない存在

反貧困犬猫部には雨宮さんや、同じように貧困問題に長年取り組んできた「一般社団法人つくろい東京ファンド」の稲葉剛さんや、料理研究家の枝元なほみさんらも名を連ねる。

「稲葉さんは都内に、住まいを失った人がペットと暮らせるシェルターを作ろうと言っています。映画にもなった『ボブという名の猫』からネーミングして『ボブハウス』を作ろうと計画しているんです」

『ボブという名の猫』のボブは、6月15日に推定14歳で亡くなった。20代で路上生活を送っていたジェイムズ・ボウエンさんに「毎朝起き上がる理由」をくれたのは、ほかならぬボブだったのは映画をご覧になった方ならご存じだろう。

薬物中毒でもあったボウエンさんはボブがいたから立ち直ることができて、本を書き、それは世界中でベストセラーになった。

稲葉さんは「いろんなものを失う経験をしたからこそ、絶対に失いたくない存在がある」と、仕事や家を失い、路頭に迷う人にとって犬や猫、ペットがいかに大切かを言う。ちなみに稲葉さん自身も猫を飼っている。

今この時もひっそりと

雨宮さんによれば、こうした問題、実はすでに10年前、リーマンショックの頃にもあったそうだ。

「2009年の年末に東京のオリンピックセンターが「公設派遣村」として開放され、派遣切りに遭って住まいを失った人たちなどが集まりました。そこに入るための相談会には、ウサギを連れた人や、猫を連れたカップルも来ました。

でも、その頃より今後はさらに深刻になることが予想されます。まさか家を失うことになるなんて!と想像もしなかったような人たちが仕事を失い、住む所を失いつつあります。老犬を連れた女性もこれまで普通に暮らし、犬を育てる余裕がある生活をしていたわけです。

今このときも住まいを失い、路上で犬や猫を連れてひっそり飢えに耐えている人がいます。どうぞお力をお貸しください」

反貧困犬猫部のホームページはこちら→https://www.hanhinkon.com/%E5%8F%8D%E8%B2%A7%E5%9B%B0%E7%8A%AC%E7%8C%AB%E9%83%A8/

sippo(朝日新聞社)




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