「お酒は少しなら体にいい」がちょっと違うワケ

「お酒は少しなら健康にいい」という人がいる。本当なのか。

内科医の名取宏氏は「最近は、少量の飲酒でも健康に悪影響があるという報告が増えている。お酒を飲むのは楽しいことだが、リスクがあることを承知すべきだ」という――。

※本稿は、名取宏『医師が教える「最善の健康法」』(中外出版社)の一部を再編集したものです。

■全世界で男性の7.6%が“酒で死んでる”

「酒は命を削るカンナ」といって、大量のお酒を飲むのが体によくないことは、みなさんもよくご存じでしょう。

大量飲酒は肝臓に悪いだけではなく、各臓器のがん、膵炎、心臓病、脳血管障害、認知症といった様々な疾患のリスクを高めます。

世界保健機関(WHO)によると、お酒が原因となる病気や障害は200以上もあり、全世界で年間に330万人が亡くなっているのです。これは男性の死亡の7.6%、女性の死亡の4%に相当します。

私はふだんの診療で、アルコール摂取がリスクとなる患者さんには「お酒の量を減らしましょう」と伝えるのですが、みなさんは好きで飲んでいるわけですから、口で説明するだけではなかなか減りません。

中には「お酒の量は減っています。たくさん買い置きしていても、どんどん減っていきますから」と答えた患者さんもいました。

一方で、「酒は百薬の長」ともいわれ、少量ならかえって体によいという話も聞きます。

「Jカーブ効果」といって、横軸にお酒の量、縦軸に死亡率をプロットすると、大量飲酒では死亡率が高く、飲酒量が減るに従って死亡率が下がるが、飲酒量がまったくのゼロだと逆に死亡率が上がるという報告もあるのです。

私自身もお酒をたしなみますから、正直に言いますと「Jカーブ効果が実在すればいいな」と思っています。

少量飲酒が体によいという理屈はいくつかあって、アルコールは善玉コレステロールを増やします。また、血小板機能を抑制するため、動脈硬化や血栓形成を予防する働きがあると考えられます。

■「少量の飲酒でも悪影響」の報告が増えている

しかしながら、私の願望とはうらはらに、最近は少量の飲酒でも健康には悪影響があるという報告が多くなってきました。

195の国・地域を対象にした2018年のメタ解析では「健康上の害を最小にするアルコールの消費量はゼロ」という結果でした。

つまり、Jカーブ効果は観察できないのです。アルコールによる各種疾患のリスクをまとめたグラフでは、少量飲酒でリスクが下がることは示されません。

なお、虚血性心疾患のリスクだけに注目すれば、Jカーブ効果は観察されました。

しかし、その他の疾患、特にがんに対するリスクと相殺されました。

がんについては少量の飲酒からリスクが単調に増加するのです。アルコール自体とその代謝物はDNAを傷つけます。

私のような酒飲みがグラフを見ると、1日1杯程度のごく少量なら、健康によいとはいえないまでも、ゼロと変わらないように見えます。

この研究では、1日1杯は純アルコールにして10gと定義されています。日本酒やワインなら90ml程度、ビールなら250ml程度でしょう。

かなり少量です。健康のことだけを考えるならお酒は飲まないほうがいいですが、ごく少量なら大丈夫といえそうです。

ただ、医師としての経験から、このように説明すると拡大解釈してたくさん飲んでしまう人もいることを知っています。

ですから、念のためにはっきり書いておきますが、「少量であれば大丈夫だから」とお酒を飲むのはおすすめしません。お酒を飲むのは楽しいことですが、リスクがあることを承知の上で飲みましょう。私はリスクを承知し、私にとってリスクを上まわるほどの楽しみであると判断して飲んでいます。

■「休肝日があれば大丈夫」というわけでもない

「休肝日、つまり、1週間に数日間お酒を飲まない日を設ければ大丈夫」という意見もあるかもしれません。

日本人を対象に飲酒パターンと総死亡の関係を調べたコホート研究では、大量飲酒者(週に純アルコールで300g以上)においては、同じ飲酒量であれば休肝日の少ない人の死亡率が高いことが示されました。

素直に解釈すれば、「お酒をたくさん飲むなら、休肝日を設けたほうがいい」となります。

ただ、休肝日なしにお酒を飲むような人は、アルコール以外にも様々なリスク因子がありそうで、休肝日を設けるだけではリスクは下がらないかもしれません。

ただし、休肝日を意識することで全体的な飲酒量が減るならば意味があります。この論文では、休肝日は「日本の社会的信念」だと表現されています。海外では休肝日という概念は一般的ではないようです。

■水分を摂取しても「お酒の害」はなくならない

「水を飲みながらお酒を飲むとよい」という説もあります。

一般的にアルコールには利尿作用があるため、飲酒時には脱水に陥りやすいですから、水分を摂取するのはいいことです。でも、水分を摂取したからといって、お酒の害がなくなるわけではありません。

「お酒の種類によってはアミノ酸やポリフェノールを含んでいて、健康によい影響を与える」とも聞きますが、お酒に含まれる少量の成分を体に効果があるほど摂取しようとすれば、大量に飲むことになり、アルコールの害が無視できなくなります。

健康を気にしてお酒の種類を選ぶのではなく、楽しく美味しく飲むために選んだほうがいいと個人的には考えます。

「ウコンが二日酔いの予防や治療に有効」というのもよく聞く説です。

私が探した範囲内では明確なエビデンスは見つかりませんでした。

もしも食品や栄養素がアルコールの分解を助けることがあったとしても、その効果は小さいと個人的には考えます。ただ、経験的にウコンが効くと感じている人が使うのは別にかまわないと思います。

■「糖尿病」「膵臓の病気」でもお酒を飲んではいけない

では、お酒を飲んではいけないのは、どういう場合でしょうか。

まずは重い「肝臓病」の場合です。

アルコール性肝障害はもちろん、肝炎ウイルスや自己免疫といったアルコール以外の原因による肝臓病でも、アルコールが病状を悪化させます。

軽いうちであっても、できれば禁酒したほうが望ましいです。

血糖コントロールが悪い「糖尿病」の場合も、お酒を飲んではいけません。

アルコールがインスリンの効きを悪くして血糖が上昇したり、逆に薬が効きすぎて低血糖になったりします。

合併症がなく、血糖コントロールが良好なら、適量の飲酒はしてもよいとされています。ただし、指示された食事療法は守ってください。

アルコールと強い関係のある急性膵炎や慢性膵炎といった「膵臓の病気」の場合も禁酒です。

飲酒が原因で急性膵炎になったことがある人は、少量の飲酒でも再発する恐れがあります。

重症の急性膵炎は命にかかわる病気ですし、命が助かっても強い腹痛といった苦痛を伴います。

飲酒が原因の慢性膵炎も、禁酒以外に治療法はありません。慢性膵炎は糖尿病を合併することが多く、その点からも禁酒が必要です。

妊娠中、あるいは妊娠の可能がある場合も禁酒をおすすめします。

妊娠中の飲酒は、流産や死産、胎児の先天性異常のリスクを高めます。

アルコールによって生じる胎児の先天性異常を「胎児性アルコール症候群」といいますが、「これ以下の飲酒量であれば胎児に影響がない」という安全な量はないとされています。

ただ、ちょっとでも飲んだらアウトというわけではなく、妊娠に気づかず飲んでいたとか、お祝いの席で1杯だけ飲んだとかで、不安になったり、罪の意識を感じたりする必要はありません。

いずれにしても一定の割合で流産や先天性異常は生じるものです。子どもの障害や病気を母親の責任とみなす風潮が一部にありますが、病気の多くは誰のせいでもありません。

■「アルコール依存症」には専門家の診療が必要

世の中には、体に悪い、飲んではいけないとわかっていながら、どうしてもお酒がやめられない人もいます。

これは「アルコール依存症」という病気で、意志が弱いわけでも性格がだらしないわけでもないので、本人を責めても解決しません。

専門家による診療と家族の協力が必要です。アルコール依存症の診療を行っている精神科などの医療機関を受診していただくのがいいのですが、ご本人が受診を嫌がるようであれば、まずはかかりつけ医にご相談ください。

国際的にみて日本社会はお酒に寛容です。

コンビニでは24時間いつでもお酒を買えますし、テレビではお酒のCMをやっていますし、「酒の上でのこと」として酔っぱらったときの失敗は許容されがちです。

医学的なリスク以外にも飲酒運転やハラスメントなどの問題もあります。もっと広告規制や酒税の増税などの対策を行ってもいいのではないかと個人的には考えます。

名取 宏(なとり・ひろむ)
内科医

医学部を卒業後、大学病院勤務、大学院などを経て、現在は福岡県の市中病院に勤務。診療のかたわら、インターネット上で医療・健康情報の見極め方を発信している。著書に『新装版「ニセ医学」に騙されないために』(内外出版社)。




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