肺がん(下)「待てば新薬で命が延びる」「妻から『死ぬ死ぬ詐欺』だと」……薬物療法が急速に進歩

近くの病院か? がん専門病院か?

――病院選びでは迷いませんでしたか。

長谷川  以前、患者会で40人ほど集まった時に、「皆さん、がんの専門病院に行きたいのか、それとも家の近くのがん拠点病院みたいなところがいいのか、どちらですか?」って聞いたら、8割ぐらいの方々が自分の家に近い病院を選んでいましたね。私自身、具合が悪くて駆け込んでいるので、近くの病院でした。僕は意図があってそれにしたわけではなくて、たまたまそうなったという感じですね。

田中  僕も人間ドックを受けていた、近くのがん拠点病院ですね。僕は胃がんのときも、そこのドックで見つかったのですが、その時は全摘と言われたので、セカンドオピニオン、サードオピニオンと受けたんです。別の病院で胃の上半分だけをとる手術を提案していただき、結局、そこで手術を受けました。

その経験があったので、肺がんもセカンドオピニオンをとろうかなと思ったんです。けれども、ステージ4で標準治療しかないということでしたし、主治医の先生も信頼できたので、その病院で治療を受けようと決めました。

鈴木  私はCT(コンピューター断層撮影法)を受けた内科のクリニックの先生が、「ここかここだけど、どっちがいい?」と、東京都内で治療実績が多い病院を2つぐらい挙げてくれて、通いやすさよりも、症例を多くこなしているところを選びました。

長谷川  いわゆる、がん専門病院ですよね。

田中  地方にいると、そういう病院にはなかなか行けません。

鈴木  専門病院は、外来の患者さんが、みんなスーツケースを持っていました。私は病院で働いていましたが、そんな光景は初めて見ました、それだけ地方から来る人が、かなり多い。

田中  泊まりがけで来られるんですね。もう何とかしたいっていう思いで。

紹介状があっても、すぐに診てもらえない専門病院

鈴木  私も紹介状を持っての予約なのに、なかなか診てもらえないんです。「もしかしたら手術も間に合わないぐらい」って言われていたので、そのことを伝え、「どこか隙間があいたときに、どの先生でもいいから見てもらえるように、受診日を決めてもらえませんか。その日はずーっと朝から待っています」とお願いしました。「じゃあ3日後ぐらいに、朝からいてください」と言われて、ようやく隙間に見てもらいました。それぐらい積極的にいかないと、早々に見てもらえないですね。

長谷川  たくさんの患者さんが訪れる病院では、入院する場合に「ベッドが空いたら入院できますので、電話を待っていてください」と言われることがあると聞いたことはあります。

田中  僕は地元の病院なので、それはないんです。ベッドが満床かどうかで、自分の治療が影響を受けるというストレスはないですよね。

鈴木  本当は、そうでなきゃいけないと思うんです。予約がいっぱいだから、重症の人が今苦しんでいるのに診ない、というのはおかしいと思うんですよ。

長谷川  たくさんの患者が訪れる専門病院では、もう宿命ですよ。地方でも今の専門病院みたいなことが起こっているみたいで、「紹介状を持ってきて並びます」と言っても受け付けないところがあるみたいです。単純に高齢化で患者数が多く、もうパンパンなんじゃないですかね。

「効く薬に出会えるのでは」 治験への期待

――肺がんでステージ4だと、病院による治療の違いはあまりないですか?

長谷川  基本、どこでも標準治療ができるよう、格差はなくなっていると思っています。ただ、がん専門病院や大きな病院では治験がありますよね。それを考えるかどうかで、病院選びも違ってくると思います。

田中  そうですよね。僕も最初の検査でEGFRとALK(注1)の遺伝子変異はなかったのですが、また、さらに遺伝子の検査をして、何か治験の対象に当てはまればいいなというのはありますね。ピンポイントで効く薬にも出会えるのではないかと。

長谷川  肺がんは特に、ゲノム医療と免疫チェックポイント阻害薬によって、常に治療が進化しています。治療と研究が混ざり合っているというか、同時に起こっているという感覚もありますよね。そういう意味では、大きな病院や専門病院に通っていると、自分が治療を選択できる機会は多いとは思います。

――未知の薬に対する怖さはないですか。

田中  それよりも治療できること、効くかもしれないということへの期待が大きいですね。

長谷川  ゲノム医療の世界になってくると、薬は逆算で作られています。原因を見つけて、その作用経路をシャットアウトするように作られます。つまり理屈がちゃんとあるので、外れがいっぱい入っているくじという感じではないです。効くときはすごく効いて、いきなり奏効率6割とか、普通の抗がん剤とは違うので期待しちゃいますね。でも、消えていく薬もいっぱいあり、本当に恩恵があるのかどうかはわからないですが。

田中  僕は、免疫チェックポイント阻害薬のオプジーボを半年使いました。「ああ、効いてきたな」というときもありましたが、2か月くらいしたら効かなくなりました。ただ、僕は1月から治療をしていませんが、先生は「免疫チェックポイント阻害薬が、時間がたってから効いてきているのかもしれんな」というふうに言っておられました。

長谷川  今、無治療で悪化していないんですか。

田中  そうですね。先週CTを撮ったんですけれども、そんなにすごく大きくはなっていなかったです。僕自身の免疫で安定しているのか、その免疫チェックポイント阻害薬というのが効いてきているのか、という話でした。

長い闘病 体力を維持しながら新薬を待ちたい

――無治療だと体は楽ですか。

田中  すごく調子いいですね。本当はすぐ次の治療を始めるという話だったんですけれども、僕自身がちょっと休薬して調子がよかったので、しばらく元気になる時期を設けたいというのがありました。それで先生と相談して了解をもらい、その間に運動とかして、体力をつけています。先が長いので、体力がすごく大事だと思っています。僕は治療を始めて4年になるんですけれども、その間に新しい薬もどんどん出てきて、以前は本当に絶望的だったのに、今はすごく希望が見えてきました。

長谷川  そうですね。僕が病気になったとき、患者仲間たちから「粘っていると新薬が出てきて、もっと生きられるかもしれない。だから粘ろうよ」みたいなことを言われましたが、当時は、それは単なる慰めの言葉だったんですよね。

田中  そうだったんですね。

長谷川  でも、今は本当なんです。ちょっと待っていれば本当に新薬が出てきて、命が延びるということが起きています。

田中  そうですね。僕の考えが正しいかどうかはわからないけれども、休薬の期間を少しずつ設けながら体力を維持して、できるだけ長く薬を待ちたいという気持ちがあります。抗がん剤をずっと使っていると、精神的にも参ってしまいます。家族に弱っているところ、つらいところを見せたくないということもあります。

――体重も減りましたか。

田中  最初すごく減りました。でも治療を続けていくには、やはり体力だと思って、しっかり食べて筋肉量を維持することは当初から考えていました。入院してすぐ、病院内で運動していたら、「一応病人ですから、ほどほどにしてください」って言われましたが、何か月かたっても体調よく続けていたら、看護師さんたちの見る目も少し変わりました。僕が通っている病院は、がん患者さんのフィットネスルームがあるんですよ。

鈴木  いいなあ、それ。

長谷川  「ワンツー、ワンツー」とかやっている人が、がん患者(笑)。

田中  主治医に運動の許可をもらってから、フィットネス外来で診察を受けてオーケーが出たら、その人の体力に合わせてマンツーマンでやってくれます。

長谷川  いいですね。確かに、腰椎とかに骨転移とかあると運動できません。折れちゃうので。でも、運動しないと筋力が落ちてしまうので、その人に応じた無理のない運動というのを考えてくれるっていいですね。

田中  そうですね。運動すると気持ちも全然違ってくると思います。がんになると、できないことがどんどん多くなりますが、逆に何か、ちょっと運動することで、できなかったことが少しずつできるようになったというふうになれば、気持ち的にも楽になります。

鈴木  東京都内にはないですか、長谷川さん。

長谷川  いや、危ない部分がなければ、自分でやればいいんですよ(笑)。

鈴木  いやいや、腰椎が危ないんです。

長谷川  運動はやめなさいって言われているんですか。

鈴木  再開してもいいって言われるんですが、怖いんです。もし折っちゃったら半身不随になって、突然明日から大変になっちゃう。とにかく怖くてできない。筋力がどんどん落ちて、体重もがた落ちで、良くないのはわかっているんですけど。

――やりすぎちゃうかもしれない?

鈴木  そうそう。自分の感覚が信用できなくて、きっとやり過ぎちゃうと思うので、やめておこうかなと。

田中  歩くだけでも違いますよね。

――長谷川さんは運動はどうですか。

長谷川  僕は背骨がもろく、コルセットをはめていますので運動はできないです。40歳ぐらいまではスポーツをやっていました。僕の人生の中で、運動というのはすごく重要な位置にあって、大好きだったんです。でも、僕の人生から運動は消えましたね。それに、肺が半分ないから、汗をかくと気持ち悪くなるんです。疲れて次の日は動けなくなっちゃう。そういう状況ですが、それを嘆いてはいなくて、その中で進んでいけばいいんじゃないのかなと思っています。

田中  僕も今は状態がいいですが、いつか運動ができなくなる日が来るかもしれないとも思うので、「できる間にやっておきたい」という気持ちもあります。

闘病の支えは家族、ペット、患者仲間

――闘病期間はみなさん違いますが、支えになるものは?

鈴木  やっぱり家族ですね。それから、ワンステップの中でみんなが頑張っている姿を見ると、支えになります。それで何とか頑張れているという感じです。

ペットの存在も大きいです。がんを発症する1年前に幼犬を飼い始めて、世話がすごく大変で、1年苦労して、やっと手がかからなくなったと思った頃に、がんだとわかりました。

最初は「何て手のかかる犬だ」と思っていましたが、今では、すごくいいセラピー犬です。気持ちが沈んで何もできない時期もありましたが、とりあえず平常に戻れたのは、犬のトイレを替えなきゃとか、ご飯をあげなきゃとか、犬の最低限度の欲求を満たすことができた、という小さいレベルのことからなんです。そこから日常が戻り出した感じでした。

もちろん夫も支えてくれますが、自信になっているのはワンコの世話ができているということで、この犬は私のセラピーのためにやってきたのかもって思うぐらいです。

――元看護師ということで、病気の知識は豊富だったのではないですか。

鈴木  私が勤めていた20年以上も前だと、がん治療のレベルも全然違うんです。肺がんといえば、抗がん剤の効かない大変な部位のがんだというイメージしか残っていなかったのですが、ワンステップで少しずつ知識を得ているうちに、「あ、こんなに進んでいるんだ」と初めてわかりました。

家で一人でがんの教科書を開くのは怖すぎたのですが、みんなの生の声で「こうだよ。ああだよ。こういう薬ができたよと」というのを聞くと、「もしかして私、大丈夫なのかな」と思えるようになりました。

――薬の副作用はどうですか。

鈴木  下痢をしたり、爪の回りが赤く腫れて、ささくれが 化膿 したみたいな感じになったりして歩きにくかったり、炊事がやりにくかったりしますが、今は比較的、皮疹は落ちついていて、きょうはたまたま下痢だけ……。私の場合、自覚症状が全くないので、「がんなんだ」という気持ちの落ち込みがメーンの症状かもしれません。どんながんでも、そうだと思いますが。

田中  僕も支えはやはり家族ですね。交代勤務の仕事をしていたので、以前は家にいないことも多かったんです。病気になってから妻とよく話をするようになりました。家族3人で一緒にご飯を食べるという当たり前のことがすごく幸せで、それがずっと続けばいいなという思いがあります。

あと、やはり娘の成長を見届けたいですね。孫でも抱けたらなと。そこまで頑張りたい気持ちはあります。あとはやはり、ワンステップの仲間ですね。地方だと患者会とかもなくて、孤立してしまう状況ですから。

――地元に患者会はないですか。

田中  肺がんの患者会はないですね。僕は長谷川さんのドキュメンタリー番組をテレビで見て、「あっ、すごい人がいる」って思ったんです。できる治療を自分で探して、手術も放射線治療もした。「ぜひ会いたい」と思って、神戸で講演されたときにお会いしました。

そこで、初めてステージ4の患者さんたちにも会いました。その頃の僕は「ステージ4=死」みたいなイメージだったのに、すごく元気な方ばかりでした。

その後、ワンステップの関係で情報をもらったり、大阪の患者会に参加したり、公開講座や日本肺癌学会の学術集会にも参加して、仲間が全国にできました。すごくみんな元気で、希望が出てきました。そんなに恐れることはないんだと。

「できないことではなくて、できることだけを数えて」と看護師

長谷川  すごくうれしいです。ワンステップに関して僕から言うと、みんな進行がんなんです。多分9割5分ぐらい。僕がステージ4だからというのもあるでしょうけれども、早期の方はほぼいなくて、みんな進行がんなんですよね。

単純に言うと、誰も死んだことがないので、死に対して震えているわけです。今日もそんな会話でしたけれども、そうした中でも、各個人がどうやって生きていくか、それは目先の治療のことも含めてなんですけれども、自分はどうあるべきかみたいなことを模索していくことが互いを勇気づけるんじゃないのかな、というのはすごく最近思っています。

もし、ワンステップがそういう場だとすれば、それはとてもうれしいです。それをもっと広げて、全国の方々と、例えばSNSなりを使ってつながっていけるといいなと思います。

あと、支えについては家族の話が出たので、僕はちょっと違うことを言うと、看護師さんからもらった言葉をすごく大切にしています。「長谷川さん、できないことではなくて、できることだけ数えてください」と言われたんです。

進行がんの場合、命の限りを告げられて、これもできない、あれもできないってなっていくんですよね。実際、僕は肺が1個なくて、階段を上れば息はハアハアするし、小走りもできない。ちょっと転べば、下半身附随になるかもしれない。

好きだった運動ができないのも悲しいことの一つですよね。できないことは増えているんだけれども、それでも、必ず何かできることはあるというのが、その言葉で、それは支えになっていますね。

僕は仕事も趣味も継続できませんが、ワンステップの活動はできています。永遠のデスクワークで、ひたすらパソコンを打ち続けているんですが、誰でも、自分の今までのものを生かして、できることは必ずあると思います。

正しい情報を知れば、極端に恐れることはない

――肺がんの診断を受けたばかりの人にアドバイスはありますか。

田中  肺がんは死亡率も高いですし、他のがんとちょっと違う感じがします。思うのは、正しい情報を集めてほしいということですね。ネットにはいい加減な情報も多いので。正しい情報を知れば、そんなに極端に恐れることはないということはわかると思います。

あと僕も、ほかの患者さんと出会えてすごく元気をもらっているので、今度はお返ししたい気持ちがあり、地方でもそういう患者会をつくりたいと考えています。そういう場があれば参加して、ぜひ患者さんの話を聞いてほしいです。

鈴木 やはり、どうしても気持ちが落ち込んで、外に出たくなくなりますが、勇気を出して同じ病気の方に会いに行ってみることをお勧めします。家に閉じこもっていても、何か解決策が見つかるとは思えないので。

田中  頑張らないといけないという気持ちが出ると思いますが、つらくて泣きたいときもあるので「泣きたいときには泣いて。頑張らなくていいよ」って言いたいです。

弱い自分をさらけ出す場も必要

鈴木  私も最初、ワンステップに行ったとき、自己紹介で経過を話し出すと「うわーん」て泣いちゃう状態でした。でも、来ている人たちは「うんうん」って聞いてくれるんです。すごく恥ずかしかったんですが、「そんな時期もあるんだよ」という感じで見てくれていたのかなと思います。

取り乱しても全然オーケーというか、逆に取り乱せる場に行った方がいいですね。多分、家では弱い自分は隠したいと思いますが、がんの闘病中だったら弱いところを見せたっていいじゃないですか。その場として患者会を利用してもいいですよね?

長谷川  もちろんです。

鈴木  いろいろな愚痴とか、はけ口になっちゃうかもしれないけれども、それですごくほっとできたり、不安が減ったり、本当にものすごい効果があると思います。がんの告知を受けたら、そういう場が必要だと思います。

田中 僕も車の中で、わざとそういうふうに追い込んで、泣いてすっきりするみたいなことも何回かありました。車の中なら1人になれるので。今では、そんなこともあまりなくなりましたが、 罹患 してしばらくはそんな状態でした。

カウンセリングより患者仲間とのおしゃべり

鈴木 混乱して気持ちの整理ができていないとき、精神診療科にかかって心理療法士さんのカウンセリングを受けたのですが、それよりもワンステップに参加して、他の患者さんといろいろなおしゃべりをした方が回復効果があったと思います。

田中 もし仲間がいなかったら、こんな感じではいられないと思います。僕の場合、「がんです」って言わないと、外見だけではがん患者と思われません。妻には「死ぬ死ぬ詐欺」(笑)とか言われるくらい、仲間に元気をもらっています。

――ワンステップ以前に、肺がんの患者会は少なかったんですか。

長谷川  ほぼなかったと思います。予後が悪かったので。今は、みんな生き延びるようになり、患者会が作れるようになりました。日本肺がん患者連絡会という横のつながりがありますが、肺がんの患者会は今、全国に13あります。それとは別に、SNSのつながりとか、独自のつながりもいっぱいできています。

(注1)ALK……未分化リンパ腫キナーゼの略称。ALK遺伝子が他の遺伝子と融合してALK融合遺伝子ができると、がん化を促進する。この融合遺伝子がある場合に有効な分子標的治療薬が開発されている。




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