定年後起業家が起こした野菜の物流革命

建設技師が定年後に起こした会社の製品は、野菜の鮮度保持剤だ。しかも、地元の竹やお茶を原材料に利用する。まったく未経験の分野で、なぜ革命を起こしたとまで言われたのか。

◆ 地元の竹とお茶を原料に

佐賀県に野菜の鮮度保持で革命を起こしたと言われる起業家がいると聞いて、佐賀駅に向かった。

駅からは公共交通が少ないため、車で山間へ20kmほど北上しなくてはならない。到着したのは、古湯と呼ばれるひっそりした温泉地の中心だ。

こんな所に、著名な企業があるのか半信半疑で向かうと、元建設会社の事務所をリノベーションしたオフィス前に「炭化」という看板が目に入った。

通された部屋には、フクオカベンチャーマーケット大賞、九州・山口ベンチャーアワーズ、九州アントレプレナー大賞といった賞状や盾、トロフィーが所狭しと並べられその実績の多さに驚かされる。

野菜や果物などの青果物専用の鮮度保持剤を販売する株式会社炭化(佐賀県佐賀市)は、2012年に入江康雄社長が起業した。株式会社竹中土木で建設部門技師をしていた入江社長が起業したのは会社員人生を全うした後の定年後だ。

九州はタケノコの産地として知られ「竹王国」だ。

近年は増え過ぎた竹林が放置され、地域を悩ませている。そこで、入江社長は当初、竹を何らかの製品にして販売してみようと考えたそうだ。だがそのアイデアは実らず、竹の吸着機能を使った鮮度保持に行き着いたという。

それが、竹炭とカテキンを混ぜて作った、鮮度保持剤「Tanka fresh.(タンカフレッシュ)」だ。その機能は、野菜の鮮度劣化の原因となるガスを吸着し、新鮮な状態を維持するという。

◆ 鮮度保持の仕組み

入江社長によれば、食品ロスは、野菜や果物などの青果物が最も多く、日本では35%ほどが捨てられているという。タンカフレッシュは、青果物の鮮度を保持することで食品ロスを減らすことができるのだという。

鮮度の影響因子を大きく分けると、呼吸、蒸散、雑菌、ガスの4種類。

植物が自ら体内糖分の消費やガスを放出するのが、「呼吸」だ。

呼吸している植物は、収穫などで切れば、その部分や気孔から常に水分が出て、葉がしおれ、黄化が始まる。これが「蒸散」だ。通常5%蒸散すると商品にならないと言われる。この呼吸と蒸散が最も鮮度への影響が高いという。

「ガス」は、青果物がエチレン、アルデヒト、アンモニアなどを放出することで成熟が早まったり、壊死を起こし自ら鮮度を下げてしまう。これは、一緒に保存している他の青果物にも影響を与えるので、何の処置もせず冷蔵庫に異なる野菜や果物を入れて保存すれば、さらに腐敗が進むことになる。

「雑菌」は、水洗いや運搬中の衝撃でつぶれるなどし、その傷跡からカビなどの発生によって腐敗が進む。

呼吸と蒸散は通常、冷蔵保存などで温度を下げることで呼吸と蒸散を抑えるが、タンカフレッシュは、排出したガスの吸着やカビの元となる菌を抑えることで鮮度保持を長くする。

◆ 植物由来の身近な原材料

主原料は、地域では身近な竹とお茶(カテキン)、コンブを活用、コンブから抽出したアルギン酸ナトリウムも加えても全て自然由来のものだ。

炭は、地元の竹を700℃ほどで焼き竹炭にする。700℃で仕上げる理由は、ガスの吸着率が最大化するからだ。

捨てられることが多い三番茶は、最も日を浴びてカテキン含有量が多くなる利点がある。そこで、佐賀産のお茶を有効活用した。その三番茶の茶殻を、80〜100℃の湯で煮出しカテキンを抽出する。

アルギン酸ナトリウムは、Caイオン反応を利用し、微細な粉末にした炭の粉とカテキンを混ぜ合わせるために使う。そうして完成したのが、粒状のタンカフレッシュだ。

その粒をパッケージに入れ製品にしたのがタンカフレッシュとなり、このまま家庭用冷蔵庫でも使用できる。青果物の種類や量で使い分けできるよう、サイズはSS〜Lで、2〜8週間の鮮度保持期間と、複数をラインアップし30〜150円で販売している。

一方、タンカフレッシュUVは、船便や列車などのコンテナ、トラック輸送といった長距離輸送、倉庫での保存用に流通現場での使用を目的にした。

装備はシンプルで、専用の金属箱に入れたタンカフレッシュを、ファンで、回転させ空気を循環させる。中央にはIoT機器も装着され、スマートフォンなどで管理できる。電源は電池でもコンセントからでも供給でき、消費電力6Wと省電力設計なので電池は3〜4週間持つという。

現在は、20m3対応タイプで20万円と40m3対応タイプで40万円の2種類あり、貯蔵は青果物の初期の品質や温度湿度など環境にもよるが1〜6カ月保存できるという。タンカフレッシュUV内の吸着剤の効果は、倉庫などでは3か月ほどだが、環境変化の激しい海外輸送コンテナ内では、都度変えたほうがいい。

入江社長は「青果物は一旦鮮度が落ちると、劣化の速度が速くなります。そのため、生産者に最も近い採取・運搬や集荷倉庫など初期段階から使用し、消費者に近いところまで使用するのが望ましいです」と話す。

◆ 数々の過酷な実証実験

効果の検証のため、国内はもとより海外でも過酷な実証実験を重ねてきた。

国内で、長野県から佐賀県を2日間かけ、トラックでレタスを運んだが、タンカフレッシュを設置した場合と未設置を比較した。設置したレタスに変色は見られなかったが、未設置では切り口から変色が見られた。

また、JR貨物による鮮度輸送検証では、JA全農(全国農業協同組合連合会)、全農物流株式会社などの協力を得て、福岡県から岩手県を5日間かけて往復輸送した鮮度実証実験では、葉色落ち、カビの発生も抑えることができたという。

一方海外輸送でも、ジャイカ(独立行政法人国際協力機構:JICA)と連携し、ニンジン、ハクサイ、トマト、イチゴ、レタスなどをベトナムのダラットからハノイ間およそ3, 000kmを保冷トラックで2回鮮度輸送実証。

農林水産省革新的技術実証実験では、九州大学・佐賀大学と連携し、初年度イチゴ、メロンなど12種を3週間蔵置試験後、2〜3年度に船便混載コンテナ輸送で日本〜香港、台湾を地方定期路線により3〜4週間実証。

日本から香港、台湾、シンガポール、カナダへの船便輸送3〜6週間を、メロン、サツマイモ、キャベツ、カボチャ、タマネギ、イチゴ、オクラなどで精力的に実証実験を重ねてきた。

「通常、鮮度保持にはCA(空気成分調整:CO25%、O22%など)を使用する設備が一般的です。これは設備投資が莫大なうえ、ランニングコストもばかになりません。タンカフレッシュは、今の倉庫に取り付けるだけで、大掛かりな設備は不要です。そして遠隔地にも運ぶことができます。導入コストを抑えて食品ロスをなくせばその分利益が上がります」と入江社長は説明する。

地域の自治体や大学などと協力し作り上げたタンカフレッシュは、青果市場流通センターなどでも使用されている。

◆ アジアを目指して

起業時の入江社長は、自治体の研究施設や起業制度などを積極的に活用し、経費を抑えるため、佐賀県のインキュベーションオフィスも活用した。実験や計測には、九州大学の計測機器を使い、母校の福岡大学の恩師にもアドバイスを求めるなど、福岡、佐賀など地域の頼れる機関をどん欲に活用した。

だが苦労したこともあった。炭だけではどうしても吸着力に限界があったが、カテキンを混ぜることで吸着力が上がるかもしれないことを知ったが、炭とお茶がどうしても混ざらなかったという。しかし、アルギン酸ナトリウムをつなぎにしてゲル化することで、混ぜ合わせることに成功した。

また、実験からできた少量の吸着材では、ガスの吸着効果を得ても、いざ大量生産のため大きめの炉で混ぜると、混ぜむらが出て品質が安定しなかったことも。

そんな苦労を乗り越えて開発したタンカフレッシュだったが、当初はあまり注目されなかった。

流れを変えたきっかけは、ジェトロ(独立行政法人日本貿易振興機構:JETRO)のジャパンフェスタに出展したことだ。

これで駄目なら止めようと決めていた矢先、ミャンマーではタンカフレッシュの仕組みが珍しいと、炭化の出展ブースは人だかりになったという。

そこに流通最大手の日本通運株式会社(日通)の担当者が訪れた。日通の担当者からは「ミャンマーだとすぐにカビが発生するので、何とかならないか」と打診されたという。そこで、後日カビ発生を抑制できる実証ができたことで、テレビ東京系列で放送されている経済ドキュメンタリー番組「ガイヤの夜明け」で取材を受け放送されると一気に火が付いたという。それからは、さまざまメディアでも取り上げられ注目された。

入江社長によれば、国内の流通市場は、従来型の仕組みでがんじがらめの状態だという。そのため、中小企業が簡単に参入できる市場ではなく前途洋々とは言えないようだ。そこで、高額な投資がしにくい反面、インフラなどが未整備のアジア諸国では関心が高いという。




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