診療「言葉の壁」なくしたい 日系3世、ブラジル人の通訳20年超 浜松

訪日外国人が体調を崩し、医師の診察を受けるには「言葉の壁」が立ちはだかる。

九千人以上のブラジル人が住み、国内有数のコミュニティーを形成する浜松市で、医療通訳を務める日系三世がいる。

田中ルーデス千江美さん(52)=同市東区。専門性が高い医療通訳のなり手は不足しているが、「言葉が分からず不安な人を一人でも助けたい」という思いで、四半世紀にわたって続けてきた。 

「足はいつからどんなふうに痛むの?」「痛みはいつもじゃなくてたまに?」

同市中区で内科、小児科などの外来と在宅医療を担う「ひかり在宅クリニック」。田中さんは月三回の木曜午後、診察室に立ち、患者と医師の通訳をする。予約はブラジル人でいっぱいだ。

双方の言葉をノートにメモし、伝える言葉やニュアンスが正確かどうか、スマートフォン内蔵の辞書での確認を欠かさない。

「命に関わる場合もある。自分の言葉に必ず責任を持つのが私のルール」。患者にとって、田中さんは気軽に何でも相談できる友達のような人。携帯電話には昼夜を問わず連絡が入る。

田中さんはもともと、医師でも看護師でもない。

一九九〇年ごろ、仕事を探しに来日し、同市内のカセットテープ組立工場で働いた。二人目の子どもを授かった二十三歳の時、産婦人科で「日本語が分からなくてすごく不安になった」。分からない単語をその都度辞書で調べて語学力を身に付けた。

二十五年ほど前、日本語が話せない友人から「病院に付き添ってほしい」と頼まれ、診療所や総合病院で患者に付き添うようになった。

クリニックの川島裕也院長(37)は日本語が分からないブラジル人患者の多さに問題意識を持ち、知人のつてで田中さんに声を掛けた。昨秋から、クリニックでブラジル人を優先的に診療する時間帯を設けた。

川島院長は、田中さんについて「存在はかなり大きい。来院する患者さんも言いたいことを言えるようになり、私もしっかり情報を伝えられるようになった」と信頼感を口にする。

◆五輪控え、東京も強化急務

医療通訳者の活動は首都圏でも広がっている。

日本政府観光局によると、今年三月の訪日外国人数は、過去最高の二百七十六万人(前年同期比5・8%増)。来年の東京五輪・パラリンピックを控え、態勢強化が急務となっている。

NPO法人「AMDA(アムダ)国際医療情報センター」(東京都新宿区)は一九九一年から、全国の病院で診察時に電話を利用した通訳を無料で実施。現在は英語、スペイン語、中国語、韓国語など六カ国語に対応している。約三十人の通訳が登録している。

依頼は都内の外国人からが最多だが、二位が神奈川、三位が沖縄、四位が京都で、観光地を中心に全国から要望がある。

同センターの担当者は「二〇一七年度の通訳の依頼は、前年度比で六割増えた。応えきれない面もある」と実情を明かす。「珍しい言語の依頼も増えているので、電話通訳の強みを生かして質の高いサービスを拡充したい」と話す。

都庁では、救急で来院した日本語が話せない外国人に対応するため、中国語やタイ語など六カ国語の電話による無料の通訳サービスをしている。 

<医療通訳者>

外国人が医療サービスを母国語で受けられるようサポートする。国家資格はなく、一般社団法人日本医療通訳協会(東京)が英語、中国語、ベトナム語、韓国語などで検定試験を行っている。

静岡県国際交流協会によると、県内の病院で働く専属通訳者は少なく、大半の医療機関が通訳者の同行を原則としている。同協会は2017年度から、県の委託事業で養成講座や病院への通訳者紹介を実施。現在は79人(ポルトガル語、中国語など)を医療通訳者に登録し、18年度は11病院に44件を紹介した。




https://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201905/CK2019051302000243.html