【ABC特集】誰もがいつ発症するかわからない脳卒中 受けたいのに受けられない“リハビリ難民”が急増 悩む当事者たちは…

3年前、突然トイレを出た瞬間…

「ゆーっくり、息吐きながらフーッ・・・そうそうそう・・・楽にして、もう一度いきます。ゆーっくり、フーッ・・・」

大阪市内にあるリハビリ施設で、腕を動かす訓練を続ける男性。滋賀県甲賀市のお寺で住職を務める長谷川秀史さん、53歳。3年前、自宅でトイレから出た瞬間、突然意識を失いました。

「(体が)左にどんどん傾いていって、なんかおかしいとは思っていたが、何にもわからんしね。脳梗塞がこういうふうになるなんて何も知識もないしね」(長谷川さん)

半年間の入院後も、左半身にまひが残りましたが、月に1~2回、滋賀から大阪に通ってリハビリに取り組んでいます。

「半身まひだから正座ができないわけですよ。我々正座が仕事ですからね、(今は)まったく言うこときかないからね。でも正座ができるまでは戻りたいなと思って」(長谷川さん)

名門ホテルに開設された「脳梗塞リハビリセンター」は、保険外でも1カ月で60人あまりの利用があった

2カ月で30万円 完全自費のリハビリ施設

長谷川さんがリハビリを受けるこの施設は、医療機関ではありません。大阪の名門ホテル・リーガロイヤルホテル(北区)内に今年開設されたばかりの、いわゆる「保険外リハビリ」の施設で、東京で介護事業などを手がける会社が運営しています。

「極端な話、本当に保険使わなくて自費でもいいんでやりたいんだという声は、ずっと聞いていまして。それだけニーズがあるんであれば、思い切って完全自費の保険外(リハビリ事業)にチャレンジしてみようと」(運営会社「ワイズ」早見泰弘会長)

「Q.なぜリーガロイヤルホテル内に?」

「知らない人はたぶんいないというランドマークの立地でございますし、もちろんバリアフリーで駐車場もあって、宿泊もできて。かつ知名度も抜群ということでございましたので」(早見会長)

基本のリハビリプランは、60日でおよそ30万円。それでも、開業から1ヵ月あまりで、すでに60人を超える利用者があったといいます。

長谷川さんは以前、リハビリのために滋賀の自宅から神奈川県まで通っていた

受けたいのに受けられない“リハビリ難民”が急増

全国に110万人を超える脳卒中患者がいる今、こうした全額を自己負担するリハビリの需要が高まっている背景には、リハビリを受けたいのに受けられず、障害や痛みを抱える、いわゆる「リハビリ難民」と呼ばれる困難者の急増があります。長谷川さんも当初は、月に一度のペースでわざわざ神奈川県までリハビリを受けに行っていたといいます。

「自費だろうと何だろうと、1日でも早く治るんだったらそこに行きたいっていう気持ちになってたからね」(長谷川秀史さん)

“リハビリ難民”急増の理由は…

保険が使えるリハビリと、保険の適用外で受けるリハビリ。

両者の間に立ちはだかり、「リハビリ難民」を生み出しているのは、「日数制限」という壁です。

現在、脳卒中患者が医療保険を使って入院中にリハビリが受けられる日数は、「最大180日(=約6ヵ月)」に制限されています。この期間、食事やトイレ、入浴など最低限度の生活ができるようになれば、患者は退院を余儀なくされます。

無論、その背景にあるのは、膨らみ続ける医療費の抑制です。

「限界があるっていうか、この程度なのかなあと思ってね、病院のリハビリって」(長谷川さん)

退院しても保険の適用を受けながらのリハビリは可能だが…

では、退院した患者はそれ以上リハビリが受けられないのかというと、そうではありません。医療保険を使って、「外来」というかたちで病院でリハビリを受けたり、介護保険を使ってデイサービスや訪問リハビリを受ける、という手段は残されています。

しかし・・・。

「Q.現状デイサービスなどで、マンツーマンでリハビリを受けられる場所はほとんどないですよね?」

「ほとんどないですね。マンツーマンで受けるとしても、最大20分だったり40分だったりというところなので。それがたぶん週に何回かとか・・・1回とかしかないので、それではやはり改善したい所もなかなか改善してこないというのが現状ですね」(脳梗塞リハビリセンター大阪 郷胡佑輔施設長)

しかも、今月からさらにルールが厳しくなりました。要介護の人は、リハビリに医療保険が使えない・・・つまり事実上、病院での外来リハビリが受けられなくなったのです。

「体の機能の回復をあきらめたくない」「いずれは仕事にも復帰したい」と渇望する患者がたどり着く場所、それが、患者の希望に応じ、個々の症状や体力に合わせて理学療法士ら専門家がマンツーマンで対応する、全額自己負担の「パーソナルリハビリ施設」なのです。

「Q.滋賀からわざわざここまで通われているのは、楽しみがあるから?」

「うんうんうん。だってここが唯一、(体の機能が)回復できる場所と思って信じてるしね」(長谷川さん)

ただ、問題はやはり「費用面」です。脳卒中の後遺症で働けない人にとって、高額の費用を長期間にわたって負担することは至難の業だと思われるのですが・・・。

「必ずしも富裕層だけのものじゃないなと思っています。というのもやはり40代50代で脳卒中になって、例えば今のプランを1回もしくは2回やることによって復職できれば、結果生涯賃金がもしかしたら上がるかもしれないし。そういう意味で言うと、やはり40代50代くらいまでの方は必然性があるので通ってきている」(運営会社「ワイズ」早見会長)

子育て真っただ中の30代で発症

兵庫県西宮市・JR西宮駅前の商業ビルの中にある保険外のリハビリ施設。ここで歩行訓練をする土井畑京子さん(54)は、美容関係の仕事をしていた37歳の時に脳出血を患いました。

「そのときは子どもがまだ小さかった(10歳と6歳)。子育て真っただ中で、『なんで私が』というのがいちばんですね」(土井畑京子さん)

「Q.なにか予兆みたいなものはなかったんですか」

「頭が痛いというのはあったが、それはただの肩こりみたいなもので、そんな頭の中がどうかなってるなんて全然思わなかったです」(土井畑さん)

さらに土井畑さんを襲ったのが、退院後の“リハビリ難民”生活でした。

「(外来リハビリが)2年で打ち切りになって、リハビリができない時期があった。ここから良くなるんじゃないかというときに打ち切られてしまって、どうなっていくんやろ、とすごく不安になった」(土井畑さん)

発症から17年。藁をもすがる思いで地道にリハビリを続け、今は月1回、大阪・河内長野市の自宅から2時間近くかけて、こちらの保険外リハビリの施設に通っています。

土井畑さんが取り組む「脳のリハビリ」。体の使い方を意識することで、より大きな効果をねらう

一人でできるリハビリを目指して

土井畑さんをマンツーマンで指導する理学療法士の生野達也さん(40)は、体への意識を少し変えるだけで、リハビリの効果はより大きくなると話します。

「脳に感覚が意識されると、その瞬間に動きの指令が少し変わるので、力が入りやすくなったり、緊張していたのが抜きやすくなったりしていくという『脳のリハビリ』というのが特徴ですね」(「動きのコツ研究所」代表・生野達也さん)

例えば、椅子から立ち上がるとき、ついつい麻痺していない側に体重をかけてしまいますが、逆に、麻痺している側のお尻と太ももをどっしりさせることを意識するだけで、ラクに立ち上がれるようになるといいます。

また、足を一歩前に踏み出すときには、麻痺していない側の足にしっかりと重心をかけ、麻痺している側の足がフワッと軽くなる意識を持つことが大事だといいます。

「(自宅で)一人でリハビリができるようになれば、そのリハビリ以外の、ここに来る以外の時間も有効活用できますし、セラピスト(理学療法士)とのリハビリを卒業できるというのをひとつの大きな目標にしています」(生野さん)

「語り合う場」で“リハビリ難民”減少へ

さらに生野さんは、“リハビリ難民”をひとりでも減らすためには、当事者同士が集える場をつくることが必要だと訴えます。

「(回復の)ちょっとずつの前進をみんなで『すごいね!』とか喜び合って認め合ったりすることができる空間を作れれば、すごくそれだけでパワーがもらえるんですよ。モチベーションも上がって、すごく救われた気持ちにもなるんですね」(生野さん)

土井畑さん自身も、脳卒中経験者が月に1回集まって語り合う交流会、「未来へつなぐ会」の中心メンバーです。参加する人たちは、自らの体験談を率直に話します。

「こうして(外に)出てくることはすごくうれしいことなんですよ。また、出ることによって脳も活性化されるんですよ」(21年前に脳出血を発症した大阪・住之江区の女性)

「リハビリは全国、九州から東京、名古屋と回りました。西城秀樹さんとも一緒にやりました」(3年前に脳梗塞を発症した長野・松本市の男性)

「ストレスたまって、僕が家内にきつく当たっているのは反省せなあかんとこやと思います。この場を借りて、おかあちゃんごめんなさい(笑)」(2年前に脳梗塞を発症した大阪・岸和田市の男性)

自分の経験を、同じ悩みを抱える人たちのために生かしたい

悩みを抱え、引きこもりがちな人たちのために、一歩でも踏み出せる場所を作りたい。それが土井畑さんの願いです。

「みんなで話をしているうちに笑顔になれるし、話もできるし、私自身は17年間の経験があるんで、それが本当に財産やと思ってるんですね」(土井畑京子さん)

超高齢社会がピークを迎える2025年には、150万人の“リハビリ難民”が生まれるともいわれるなか、広くて深い「受け皿」が、今、社会に求められています。




https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190430-00010000-asahibc-hlth