仕事を休んでも賃金67%給付も 知って得する「介護の手続き」

あなたにも、あなたの親にも、いずれ訪れるかもしれない介護。

具体的な計画はケアマネジャーに作ってもらうが、お金に関する話は聞きにくい面もある。給付金などの制度や介護保険外の便利なサービスなど、基本的なことを頭に入れておくと、介護の手続きにも役立つはずだ。

「私は一人息子で、ほかに頼る人もいなくて……。介護の交通費が月40万円ほどかかったこともあります」

自らの体験をそう振り返るのは、介護情報サイト「親ケア.com」を運営する横井孝治さん。生活総合情報サイト「All About」(オールアバウト)の介護ガイドも務めている。

両親の同時介護が始まったのが、2001年夏。統合失調症になった母(当時65歳)の代わりに家事をするため、週2回仕事で東京と大阪を往復する途中に三重県の実家に立ち寄った。掃除、洗濯、食事の用意などを続けたという。

介護の始まるきっかけは、大きく分けて二つ。

長期入院後、自宅で介護保険の居宅サービスを使うケース。もう一つは、認知症のような症状が出始めて日常生活に支障をきたすときだ。一人暮らしの親の家がゴミ屋敷になった、物忘れが増えて様子がおかしい、などの異変で気づくことになる。

横井さんの介護は後者のケースだった。

「介護保険制度が前年から始まったことは知っていましたが、自分のやっている家事が介護とは気づきませんでした。介護保険のサービスを使うため、地域包括支援センターで要介護認定の手続きをする発想もなく、半年ほど色々な失敗を繰り返しました。私のように介護の情報を得られず苦しむ人は、今も多いと思います」(横井さん)

その後、母が入院し、ひとり残された父(10年2月死去、享年83)は家事ができず、ゴミ屋敷に。横井さんが高額療養費の手続きなどで町役場を訪れたとき、親切に声をかけてくれたのが近くの居宅介護支援事業所のケアマネジャーだった。

居宅サービス利用の手続きを進めたところ、要介護1と認定された。その後は通所介護(デイサービス)に週3回通い、週2〜3回の訪問介護(ホームヘルプサービス)で、掃除や洗濯、食事の用意をしてもらうようになった。

突然介護に直面しても慌てぬように、サービス利用の流れを知っておきたい。要介護認定の判定が出るまでは1カ月ほど。自治体は結果が出るまで待つように指導しているという。

主任ケアマネジャーで、香川県内で居宅介護支援事業所を運営する「ウェルネス香川」代表取締役の壷内令子さんはこう話す。

「面談の際、利用者の状態や要望に応じて要介護認定されるかどうかを見極め、確実に要介護1以上に認定されそうな方(特に寝たきりや歩行困難な方)は暫定でプランを作り、サービスを始めることもあります」

要支援1・2に認定されたら地域包括支援センターでケアプランを作る。作成の際、デイサービスやホームヘルプの回数が制限され、家族の負担が増していることが問題になっている。

「同居の家族がいる場合、家族の分の食事の用意や洗濯、掃除は、基本的に介護保険のサービス外になります。自費を払えば家族の分もしてくれるサービスが地元にあるかどうか、ケアマネにぜひ聞いてください。例えば、コンビニやスーパーでの買い物代行、介護保険外での洗濯やお泊まりデイサービスの利用など、自費で使えるサービスはあります」(壷内さん)

横井さんは「いつまでも自分でトイレに行けるようにするため、訪問リハビリで、立ち上がって壁づたいにトイレまで歩いて自分で用を足すという訓練をやってくれることがあります」と話す。

室内に手すりやスロープをつける必要があれば、福祉用具のレンタルや住宅改修費の支給制度を使おう。据え置き型の手すりなら1カ月数百円、住宅改修は最大20万円分を1〜3割負担で利用できる。

介護保険制度は3年に一度改正され、新制度が生まれている。チェックを怠らないようにしたい。特に、15年から始まった介護予防・日常生活支援総合事業(総合事業)を知っておくとよい、と横井さん。

要支援1・2の人らが、デイサービスセンターなどで筋力トレーニングを受けたり、ホームヘルパーらの手助けを受けながら調理や掃除をしたり。

サービス内容は市区町村で違うが、従来の「予防給付」と同水準のサービスを提供する国基準相当型と、国の基準を緩和してサービスを提供する独自基準型とがある。独自基準型は、訪問サービスが週1回利用で1300円ほど、通所サービスは1700円ほどになる。

「介護が必要かなと思ったら、地域包括支援センターに行き、要介護認定を申請します。場所もセンターの存在も、知らない人が多いのが実情です。親の住む地域を管轄するセンターを調べましょう」(横井さん)

センターは市区町村に最低一つある、要介護者や家族のよろず相談窓口。自治体のパンフレットをもらい、介護保険外の自治体独自サービスも調べよう。

■お金の悩み、どう解決、仕事と両立支援制度も

介護サービス利用時の自己負担は原則1割。

昨年8月から、年金を含む所得が280万円以上の人は2割、340万円以上だと3割に引き上げられた。同じ月に使ったサービスの利用者負担の合計が限度額を超えると、超過分が高額介護サービス費として戻る。

「自己負担が2〜3割の方が、特養や老健に入ろうとすると、月20万円以上かかることがあります。ホームヘルプサービスを利用し、毎月の介護費用を高額介護サービス費で低く抑えられれば、サービス付き高齢者向け住宅や住宅型老人ホームのほうが安くなる場合もあります」(壷内さん)

筆者は母(85)の介護が始まった11年前、介護にお金を使いすぎて貯金が底をつきそうになった。

そんなとき知ったのが、同居しつつも住民票の世帯を分ける世帯分離。

同じ住所で世帯主が2人になる。役所の窓口に住民票の異動届を提出し、健康保険課や介護保険課で保険証の再発行手続きをする。私が申請したときは、親子間の世帯分離について理由を窓口で聞かれることはなかった。

当時、母は私の扶養家族で、私の収入と母の年金が世帯所得として合算され、介護保険料が計算された。世帯分離で母は住民税非課税世帯になり、介護保険料が年5万円ほど減った。

また、特養(特別養護老人ホーム)のショートステイでの施設サービス(ユニット型個室利用)は、負担限度額が定められており、1日の食費が1380円から390円に、居住費が1970円から820円に減った。

その後、母はケアハウスに移り住んで特養に入らなかったが、仮に特養に入ったとすると毎月の居住費と食費の負担は10万500円から3万6300円に減ることになる。

親子ではなく、夫婦の世帯分離はハードルが高い。

15年から、世帯全員が住民税非課税でも預貯金が単身1千万円、夫婦2千万円を超えると負担限度額の認定を受けられなくなった。世帯分離は、負担能力を世帯収入でみることに着目した“裏技”的な方法だが、認定要件に注意したい。

親が遠方に住む遠距離介護の場合、ご近所さんが頼りになる。

「地方では地元での行事が大切にされます。そのタイミングで帰省し、民生委員さんや地区の青年会の人にあいさつする方もいます。見守りをしてくれたり、家のなかで倒れたときに代わりに救急車を呼んでくれたりするので、介護が必要になってからは実家のご近所さんと顔なじみになると安心できます」(同)

親元に帰る際は、日本航空や全日空の国内線の介護帰省割引を使える。日本航空の東京‐福岡間だと、大人普通運賃4万3600円が2万7900円になる。

介護する家族が会社勤めならば、仕事と介護を両立できるサービスを使おう。

母と2人暮らしの30代の会社員女性は、60代の母がアルツハイマー型認知症に。要介護1で、デイサービスに通える日数は限られており、母の面倒をみるために会社を辞めることを考えた。

そんなとき、介護休業や介護休業給付の利用を上司に勧められた。

介護休業は家族1人につき通算93日まで。原則無給だが、介護休業給付(休業開始時の賃金日額×支給日数×67%相当)をもらえる。

女性はこの制度を使い、3カ月間で介護の体制を整えた。小規模多機能型居宅介護と賃貸住宅が併設された施設へ引っ越し。施設は家族も同居でき、女性の帰宅時まで母を世話してくれたので、3カ月後に職場復帰できた。

小規模多機能型居宅介護を利用する際は、施設に直接申し込む。

それまで居宅サービスを使っていたら、当初の契約を打ち切ることになる。「せっかく世話になったのに申し訳ない」「一から人間関係を築くのは面倒」とためらう人も多いが、女性の場合、母が要介護1で自己負担は月約1万1500円(食事代別)で済んだ。月〜金曜にデイサービスに通うプランを作り、土日は別の兄弟が面倒を見て、仕事と両立できたという。

介護される側とする側が共倒れにならぬよう、負担を抑えられる制度をうまく生かしたい。




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