打倒コンビニ、通販…スーパーが始めた“掟破り”

普段の食事はコンビニエンスストアの総菜で済ませ、旬の野菜はネット通販で注文する――。

便利さ、手軽さがもてはやされる時代に、スーパーマーケットは苦戦しながらも売り上げ増を維持している。

ドラッグストアなども生鮮食品販売に参戦する“小売り戦国時代”を勝ち抜くため、各地のスーパーがいかに知恵を絞っているのか。全国の店を巡り歩く「スーパーマーケット研究家」の菅原佳己さんに解説してもらった。

◆小売りは“戦国時代”に

全国スーパーマーケット協会が発行する「2019年版スーパーマーケット白書」に、“小売り戦国時代”の実態が報告されています。2013年時点と2018年時点の商品購入額の業態別構成比を比較したところ、コンビニエンスストアやドラッグストアが「主食」「酒類」など多くの項目でシェアを伸ばす一方、スーパーは、ほとんどの項目でシェアを減らしています。

それでも「スーパーマーケット販売統計調査資料」(流通3団体合同スーパーマーケット販売統計調査)によると、2018年の総売上高は前年比101.1%とわずかですが増えています。

全国の「ご当地スーパー」など、地域密着型のスーパーマーケットを回っている筆者は、その理由の一つに、顧客が「つい買ってしまう」「また行きたくなる」などと思うように、様々な工夫を凝らしていることがあると感じています。

◆基本の「買わせる」心理テクニック

元々、スーパーの店内には、お客が気づかぬうちに「つい買いたくなる」仕掛けが施されています。

入店するとまず、かごやショッピングカートを目にしますが、これはより多くの商品を買わせようとする仕掛けです。アメリカが発祥とされますが、米小売り大手ウォルマートは「ショッピングカートを利用する人は、そうでない人の約4倍購入する」と分析しています。

肉の売り場に「焼肉のたれ」、生鮮品売り場のきゅうりの近くに「浅漬けのもと」などが陳列されるのは、1品でも多く買ってもらおうとする工夫の一つです。

地方のスーパーでは、その土地の食文化を反映させることもあって、高知県なら「鰹(かつお)のたたき」の横に「にんにく」、山形県では秋の芋煮シーズンには「里芋」「こんにゃく」「芋煮のたれ」など必要なものすべてが、一つのコーナーにまとめられています。

こうした陳列方法は、ライバルとの競争激化や消費者のニーズの変化に合わせて進化しています。

◆陳列のセオリーを崩す

最近、“陳列のセオリー”を変えるスーパーが目立っています。

スーパーの陳列は、お客が店内を左回り(反時計回り)に進むようにレイアウトされるのが通例です。右利きの人が多いので、商品を右側に近づけて、より多くの商品を手に取りやすくするための仕掛けの一つです。

入り口の近くには、季節の変化を感じさせるフールツや野菜を置き、色と香りで旬の雰囲気を出し、購買意欲を誘うことが意図されています。次に肉類、飲み物、総菜などの順になっていて、店内の中心には調味料や菓子類など、たまに買うものが置かれています。

しかし、高知市の「サニーマート山手店」では、左回りのスタート地点にパンと総菜、さらにすぐに調理できる商品を鮮魚・精肉の中心に配置させた個性的な構成となっています。

高知市は総務省家計調査で「飲酒代(2人以上の世帯、2015~17年の平均)」が1位で、「宴会の数が多く、出席すると家族のために料理を作る時間が少なくなるため、夕飯用の総菜と翌朝食べるパンが売れる」というのが理由と、高知県のスーパー関係者に聞きました。

ヤオコー(本社:埼玉県川越市)のように、総菜売り場を入り口近くに置く店舗もあります。

◆総菜市場が拡大

なぜ、お客が最初に目にする商品を「総菜」にしているのでしょう。かつては食材を購入して、それを自宅で調理して食べるというスタイルが主流でしたが、最近は共働き世帯や高齢者の独居世帯が多くなり、手軽に利用できる総菜の需要が増えています。

日本惣菜協会(東京)によると、2017年の市場規模は10兆555億円(前年比2.2%増)となっています。ここでいう総菜は、日持ちしない調理済み食品を指していて、「コロッケ」「鶏のから揚げ」「にぎり寿司」などが含まれます。

総菜の市場規模を業態別で見ると、食品スーパー(食料品の販売額比率が70%以上のスーパーなど)が2兆6205億円、総合スーパー(衣食住にわたる各種商品を小売し、いずれの販売額も70%未満など)が9212億円であるのに対して、コンビニは3兆2289億円となっています。スーパーにとって、需要が増えている総菜市場でお客さんを取り戻すことが重要なのです。

◆社長がマイクパフォーマンス

コンビニやネット通販ではまねがしにくい取り組みをして、お客さんから「選ばれる」ことを目指す店は他にもあります。

山梨県北杜市にある「ひまわり市場」では、那波(なわ)秀和社長がプロレスのリングアナウンサー風のマイクパフォーマンスで商品を紹介することで人気となっています。

土日の正午と午後4時から、40枚限定の「歴史的メンチカツ」が販売されるときに、そのパフォーマンスは最高潮に達します。

「あと2分で、当店で開発したメンチカツが登場だぁ! かつて、こんなメンチカツがあったであろうか? 松阪牛7割、鹿児島産黒豚3割の黄金比率のまさに歴史的メンチカツ! 歴史を変える、当店料理長自慢のメンチカツ、さあ、揚げたてが今、目の前に!」

よく考えると何が歴史的なのかわかりませんが、お客さんたちはメンチカツの載ったカートに行列を作り、1枚450円という決して安くない値段にもかかわらず、毎回完売します。

ひまわり市場では、商品説明の「ポップ」も変わっています。例えば「契約農場の特大しいたけ」のポップには、こんなことが書かれています。

「誰よりも血糖値を気にする男・エンドウが言う。ただデカイだけじゃダメなんだ。旨くなけりゃ」

「エンドウさん、誰?」と思わせて注目をひきながら、味の良さだけでなく健康にも良いことを宣伝しているのです。

実は、こうした取り組みは7年ほど前に始めたそうです。大量に仕入れて低価格を実現する大型チェーンに対抗するため、価格が少し高くても、その分だけ品質が良いことを知ってもらおうという試みだそうです。

◆寄り道したい「ホッ」とする場所へ

最近、売り上げを伸ばしているスーパーの多くに共通しているのが、ひまわり市場のように、「店内の雰囲気」作りに力を入れていることです。

山梨、愛知、高知、福岡、熊本など全国の700を超えるスーパーで店舗を活性化するためのデザイン・設計を手がけ、いくつもの人気店を生み出した店舗プロデューサーの横山和夫氏に、その秘訣(ひけつ)を聞きました。

横山さんは、店の雰囲気を「佇(たたず)まい」と表現します。

お客が訪れたくなる店を作るための仕掛けは、まず、店の中の様子が外からうかがえるようにすることです。そのために、店の前面は全面ガラスばりにします。さらに重要なポイントは、夜の照明にあるといいます。

外壁のライトアップと店内を暖色系の照明にしただけで、売り上げが2、3割増えた店舗があったそうです。ぬくもりと安心感を得られるように演出したことで、つい寄り道したくなるような「佇まい」を作り出しました。仕事帰りに温かく出迎えてくれる場所、「ホッ」とする場所として、お客に選ばれているようです。

◆「いらっしゃいませ」をやめる

店の雰囲気作りは、照明を変えることだけではありません。

繁盛店に最も必要なのは魅力的な「人」。

どんなにいいデザインの店舗を作っても、働く人々が生き生きとしていなければ商売にならないと言います。横山さんが店側に強く求めているのが、「いらっしゃいませ」ではなく、「おはようございます」「こんにちは」などとお客さんに挨拶(あいさつ)することです。

なぜなら、「いらっしゃいませ」には返す言葉がないため、コミュニケーションのきっかけにならないからだそうです。

目指しているのは、今は少なくなってしまった商店街の小売店の接客やサービスかもしれません。

◆ワクワクできる空間を作る

単に商品を手に入れるだけなら、ネット通販は便利ですが、店に足を運ぶことで得られる日常の小さなワクワクが、忙しい毎日の中で求められているようです。

店に入ったときに食べ物の香りに誘われます。化粧室が清潔だと心地よく、洗面所に小さな花が飾られているだけで安心感を得られます。さらに、きびきびと気持ちのいい接客をするレジ係の人がいれば、精算のために並ぶ時間ですら楽しいものとなります。

「あの店でまた買い物をしたい」という気持ちは商品だけでなく、空間とコミュニケーションがつくり上げるものだと気づき、実践しているお店が、“小売り戦国時代”を勝ち抜いているのです。

■プロフィル

菅原 佳己( すがわら・よしみ )

1965年、東京都生まれ。夫の転勤に伴い、転居を繰り返す中、各地の地元のスーパーを訪れて研究を始める。現在は名古屋市在住で、1女の母。著書に『日本全国ご当地スーパー 掘り出しの逸品』(講談社)、『日本全国ご当地スーパー隠れた絶品、見~つけた!』(同)、『東海ご当地スーパー珠玉の日常食』(ぴあMOOK中部)など。




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