学童保育「責任重大なのに低待遇」な現場の怒り

小学生の子どもを持つ共働き世帯、1人親世帯にとって、放課後に子どもを預かってくれる学童保育はなくてはならない存在だ。「学童があるおかげで安心して働き続けられる」というのは共通の思い。

学童保育に通う子どもたちは年々増え続けており、待機児童問題も報道されるようになった。学童保育の認知度は上がってきたものの、地域によってその形態は千差万別。多様化という言葉では片付けられない、さまざまな格差が見えてきた。

待機児童問題が解消されないまま、また新年度を迎える。同問題は保育園だけに限ったことではなく、学童保育にも通じること。その理由は、どちらも預けたい子どもたちは増えているのに、現場では人手が足りていないからだ。

これまで2回にわたって、学童保育指導員について書いてきた。3回目は「学童保育指導員の仕事に関するアンケート」から見えてきた指導員の“胸の内”を明らかにしたい。

■学童指導員232人の本音

今回紹介するアンケートは2018年12月~2019年1月に実施。大阪府内の指導員に呼びかけたところ、大阪府を中心に和歌山県、神奈川県など6都道府県232人から回答を得た。

質問内容:  指導員として働くうえで困っていること、悩んでいることは? 
(複数回答、最大3つまで)

・待遇16.1%
・課題や困難を抱える子どもへの対応15.4%
・自身の指導員としての能力14.9%
・勤務体制10.5%
・学童保育所運営の「従うべき基準」の事実上撤廃の動き9.6%
・保護者とのコミュニケーション 8.6%
・子どもの言動 7.4%
・同僚とのコミュニケーション 7.0%
・保育内容 4.7%
・運営主体の運営方針 2.6%
・その他 3.2%

「指導員として働くうえで困っていること、悩んでいること」で最も多かったのは、人手不足の原因とも言われる「待遇」(16.1%)だ。

「待遇」についてさらに問うと、「少し不満がある」「とても不満がある」を合わせると7割近くが待遇に不満を持っていた。不満に思う理由で半数近くを占めるのが「給料が安い」。次いで「非正規であること」「昇給がないこと」。

そのほか「資格・経験年数が反映されない」(大阪府・30代女性・民間企業・パート/アルバイト・10~15年)という声や、「給料が安いので今後1人で生活をしていくとなったら難しいと思う。もう少し待遇がよくなればもっと続けていきたいし、続けられる」(大阪府・20代女性・保護者会・常勤・1年未満)という切実な願いがあった。

「退職金制度がない。1年雇用で毎年更新してきた。管理職もおらず非常勤しかいない現場で、子どもたちの命を預かり責任が重い仕事をしている。軽視されすぎだといつも感じている」(大阪府・40代女性・公立公営・非常勤・21年以上)という指摘も。

指導員はともすると、「子どもと遊んでいるだけの仕事」「子ども好きなら誰でもできる」と思われる。そうした軽視が根源にあると訴えている。

■対応しきれない「子どもたちの多様化」

次いで「課題や困難を抱える子どもへの対応」(15.4%)。発達障害などの傾向がある子どもたちが学童保育でも増えており、対応に追われる様子がうかがえる。

「しんどい子ども、グレーの子ども、いろいろな子どもがいる中で、専門の知識を持って保育をしなくてはならない」(大阪府・50代女性・公立公営・任期付短時間・4~6年)という声がある一方で、指導員の理解と対応の未熟さを感じさせる声や、多忙な中で向き合えないジレンマを訴える意見もあった。

また、「困難を抱え、宿題ができない、感情のコントロールができないなど、苦痛でいっぱいの子どもと『あくまで健常児として育てたい』親との齟齬が年々大きくなる気がする」(大阪府・50代女性・保護者会・常勤・10~15年)という困惑の声も上がった。

「自身の指導員としての能力」(14.9%)をあげた半数以上が、指導員歴「1年未満」「1~3年」「4~6年」の人たちだったが、10年以上の経験がある人も約3割いた。「指導員としての能力」と「課題や困難を抱える子どもへの対応」を同時に選んでいる人も少なくなかった。

経験の浅い人たちからは、「すべてに関して状況把握がしにくい。一日一日、バタバタして終わってしまって反省ばかりで心身的につらい」(大阪府・40代女性・公益事業団・パート/アルバイト・1~3年)という声も。責任の重さに疲弊している様子が伝わってくる。

4番目は「勤務体制」(10.5%)だった。

さらに聞くと、「少し不満がある」「とても不満がある」を合わせて約6割近くが勤務体制に不満を感じていた。理由は、「指導員の数が足りない」がトップで、「休日が少ない」「保育する子どもの数が多い」と続く。

それぞれのコメントからもわかるように、学童保育所は同じ大阪府内であっても、地域によって運営母体や雇用形態が異なる。

運営母体が子どもの保育中しか勤務時間と規定しないために「同僚との保育の打ち合わせができない」人もいるし、「勤務時間が長い」と負担に感じる人がいる一方で、もっと働きたいのに「勤務時間が制限されている」と嘆く人もいた。

そのほか「有資格者の欠員が何年も続いていることがしんどい」(大阪府・30代女性・公立公営・非常勤・1~3年)や、「高齢の指導員が増えている。年齢で判断するのはよくないことだと思うが、人手不足、欠員解消のために誰でもいいから採用している感じがする。結局、すぐ辞めてしまう方も多くなり、現場が困る」(大阪府・40代女性・公立公営・任期付き短時間・21年以上)など、指導員の質が確保されていないことを伝える声も。

■「従うべき基準」撤廃への不安

5番目は、「学童保育所運営の『従うべき基準』の事実上の撤廃」(9.6%)。

従うべき基準は、2015年の子ども・子育て支援制度の中でスタート。1カ所40人につき指導員は2人以上、うち1人は都道府県の研修を受けた「放課後児童支援員」であることが義務化された。

しかし、基準を満たす指導員を確保することが難しいという一部地方自治体の声に応えて、政府は事実上の基準の撤廃を閣議決定した。今後は、所定の研修を受けていない職員1人でも可能となり、自治体の判断に委ねられることになる。

「学童保育運営の『従うべき基準』の事実上の撤廃に不安を感じますか」という問いに対しては、「とても不安」が61.2%、「少し不安」が18.1%で、約8割が不安を感じていた。

具体的に不安を感じることを聞いたところ、「無資格者が1人で保育する環境が生まれ、子どもたちのケガや病気の対応が困難になる。一人ひとりの子どもや家庭との関わりが十分にできなくなる。

指導員の働く環境として、トイレにも行けない、休憩すら取るなと言われているようだ。緊急時に複数で相談したり確認することで安全性を保ってきたが、その体制自体が崩れてしまう」(大阪府・40代女性・公立公営・非常勤・16~20年)、「災害時に子どもの安全を守れない」(大阪府・30代男性・保護者会・常勤・1~3年)など、子どもたちの安心・安全を危惧する声が目立った。

「今の『子ども50人に対して指導員2人』という自治体の独自基準にも疑問があるのに、さらに基準が下げられると指導員として仕事の責任を果たせない」(大阪府・30代男性・公立公営・任期付短時間・10~15年)という声や、「学童がどんなところかまったくわからず、机上だけで決めている。子どもたちをモノとしてしか見ていないのか!特にケアが必要な子どもたちには丁寧な保育が必要!!」(大阪府・40代女性・公立公営・非常勤・21年以上)という怒りの声も。

また、保育の質が低下し、社会的地位の確立が遅れるとの指摘も多かった。

「以前のように誰でもできる仕事だと思われる」(和歌山県・40代女性・NPO法人・常勤・10~15年)や、「この4年近くで学童保育や指導員の専門性や重要性が認知されるようになってきた。自分たちもさまざまな研修会等に参加して自己研鑽しているが、緩和されることで現指導員の士気が下がり、保育の質の低下につながる」(和歌山県・40代女性・NPO法人・常勤・7~9年)など。

「将来的には、保育士と同じように国家資格になってほしい。それほど専門的な仕事だと思う」(神奈川県・40代女性・地域運営委員会・常勤・21年以上)と願いを伝える人もいた。

■アンケート結果から見えたもの

誰にでもできる仕事と思われることにより、待遇や勤務体制の悪化を危ぶむ声も多数。

「収入が減ると辞める人が出てくると思う。自分なら辞める」(大阪府・30代女性・民間企業・パート/アルバイト・7~9年)、「保育士として働いていた頃、資格がない人がアルバイトとして入ってきたことで、負担が大きくなった。有資格者が辞めたという経験があるから、同じことが起きないか不安」(和歌山県・40代女性・民設民営・パート/アルバイト・1~3年)。

「指導員はどんどん辞めていき、学童保育の未来がなくなる」(大阪府・30代男性・公益財団法人・非常勤・10~15年)や「詰め込み保育になり、本来の待機児童対策にはならない」(大阪府・20代男性・民間企業・常勤・1~3年)など、逆効果だと指摘する人も。

だからこそ「国は、どの地域でも指導員を目指したいと思えるような処遇改善を行うことで、指導員不足の解消をして、そのうえで、子どもたちにとって安心できる居場所としての学童保育を責任を持って実施してほしい」(大阪府・40代男性・保護者会・常勤・10~15年)という提言もあった。

指導員として10年以上働いた経験があり、自身の子どもを学童保育に預けている代田盛一郎大阪健康福祉短期大学教授(児童文化・遊び論)は、「アンケート結果からは学童保育の多様化と同時に、その格差の広がりが示されたとも言える。従うべき基準の撤廃は、さらなる負のスパイラルを生む可能性がある。

大人の事情によって、基準を骨抜きにしてはいけない。待機児童を解消するために指導員の“量“を選ぶか“質”を選ぶかではなく、量も質も求めていく必要がある」と話している。

須藤 みか :
ノンフィクションライター




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