なぜ日本最難関の東大医学部が、医師国家試験で合格率「55位」なのか

3月18日、第113回医師国家試験の合格発表がありました。

医学部は必修科目で1つでも単位を落とすと留年という、他学部出身者からは考えられない厳しさがあります。しかも国家試験の前には、医学部最後の関門となる卒業試験もありました。受験生は、試験が続く緊張の日々からようやく解放されたことでしょう。

栃木県の医大が7年連続トップに君臨

受験者10146人のうち合格者は9029人、合格率は89.0%と約9割です。この合格率は毎年発表されており、毎年あまり変わりありません。では、大学別の合格率はどうだったでしょうか。

医学部卒業生を送り出した80校のうち、1位は栃木県の「自治医科大学」でした。これで同大は7年連続1位となりました。合格率は99.2%。125人が受けて、不合格は1人だけ。新卒に限ると、合格率はなんと100%です。

自治医大は1972年に設立された比較的新しい大学ですが、私は隠れた「名門校」だと思っています。なぜなら、各都道府県が指定した医療機関に一定期間勤めれば、入学金や修学資金が実質的に不要となるため、全国から超優秀な学生が集まってくるからです。

私立といっても、同大は地域医療を担う人材を育成しようと各都道府県が共同で設立した公的な大学で、入学試験も都道府県別に2~3名しか選抜されません。そうしたこともあって、東大理3や慶應医学部に肉薄するほど偏差値が高いだけでなく、「地域に貢献する医師になる」というモチベーションの高い学生が集まってくるのです。

それが、医師国家試験の合格率の高さにも反映しているのだと思います。私は自治医大出身の医師を何人も取材していますが、頭がいいだけでなく臨床医としても優秀な人が多い印象です。これからも、国試合格率でトップクラスの成績を維持していくのではないかと思います。

国試合格率は、医師になるモチベーションのあらわれ?

合格率2位は「順天堂大学」(98.4%)、3位は「横浜市立大学」(97.7%)でした。順天大は前年4位、横浜市大は前年2位。この2校に限らず、ランキング上位にはだいたい毎年同じような顔ぶれの大学が並びます。

医学部の教員の中には「国試合格率が高い大学は、国試対策の授業ばかりやっていて、まるで国試予備校だ」と批判する人もいます。実際、「国試と同じ形式で進級試験をつくるよう大学から言われる」という医学部教員の話も聞いたことがあります。

もちろん、そのような面もあると思いますが、国試合格率が高いのは、やはり学生がモチベーションを落とさず、まじめに勉強した結果だと言えるのではないでしょうか。それに合格率の高い大学出身の医師には、自治医大と同様に臨床医として優れた人が多い印象があります。ですから、その点は素直に評価していいのではないかと私は思っています。

ワースト3の合格率は……

一方、名誉のためにあえて名前は出しませんが、もっとも合格率が低かった大学は71.9%と、受験者10人のうち3人が落ちる成績でした。ワースト2位、ワースト3位も合格率は80%に届きませんでした。

実は、下位にも毎年、同じような顔ぶれの大学が並びます。とくに70年代に設立された私立大学の名前が目立つのは否めません。これらの大学の中には、かつて「お金さえ積めば入れる」と揶揄され、金権入試が問題となった大学もあります(東京医大の事件があったので、「かつて」とは言えないかもしれませんが……)。

医学部人気が高まったおかげで、こうした大学の偏差値も上昇して、今では早稲田や慶應の理系学部に匹敵する難関となっています。ですから、一般の大学に比べると学力の高い学生が集まっているのは間違いありません。それでも国試合格率がふるわないのは、むかしからの体質をいまだに引きずって、勉強し続けるモチベーションを保ちにくい雰囲気が残っているのかもしれません。

「国試浪人が200人くらいたまっている」私大OBのぼやき

こうした大学では新卒の国試合格率が極端に下がらないように、国試に合格できる見込みのない学生は卒業をさせないと言われています。ある私大のOBから「6年間留年なく卒業して一発で国試に合格できるのは120人の同級生のうち40人くらい」で、「国試浪人が200人くらいたまっている」と聞いたこともあります。

医学部の大量留年が問題となったので、現在は多少改善されているかもしれませんが、留年や国試浪人が多いことを考えると、こうした大学の実質的な合格率(医学部入学者が最終的に国試に受かる割合)は、もっと低くなるでしょう。

それに注目すべきは「新卒」だけでなく、「既卒」の合格率です。実は新卒者の合格率は全体で92.4%と高いのですが、既卒者の合格率は56.8%で、しかも受験回数が多いほど合格率が下がる傾向があります。これが何を意味しているかというと、何回チャレンジしても、国試に合格できない人がいるということです。

私立の医学部だと、6年間で安くて約2000万、高いところだと5000万円近くかかります。留年すればさらに授業料が何百万円もかかりますし、国試予備校に通えばそこでも数百万円の授業料が必要です。よほどのお金持ちなら別ですが、せっかく医学部に入ったとしても、6年間ストレートで卒業して国試に一発合格できなければ、大出費になることを保護者は覚悟しておく必要があるでしょう。

東京大学医学部の合格率が「55位」の理由

では、受験偏差値でも、医学部ヒエラルキー(伝統的な序列)でもトップに君臨する「旧七帝大」はどうでしょう。合格率が一番よかったのが東北大の94.0%で15位、次が名古屋大の91.7%で30位、大阪大が90.6%で45位、京都大が89.8%で50位、東京大が89.0%で55位、北海道大と九州大が88.0%で59位でした。

旧七帝大のパッとしない成績を意外に思った人も多いのではないでしょうか。とくに、受験偏差値が全大学・全学部の中で最高の英才たちが集まる東大医学部の合格率が平均と同じで、順位も中の下なのが目を引きます。

実はこれも毎年のことです。受験が得意な東大医学部の人たちがまじめに取り組めば1位になっておかしくないと思うのですが、どうして国試ではふるわないのでしょうか。それにはいろいろな理由が考えられます。

まず、旧七帝大のような伝統ある大学では、国試対策の授業やテストをほとんど行いません。

現役時代から国試予備校に通うような人も、プライドの高い旧七帝大の学生では少ないはずです。ほとんど自助努力で国試に挑むことになるわけですから、偏差値が高い人たちといえども対策が不十分で、落ちる人がいるということなのでしょう。

ただし、東大医学部OBから、こんな話を聞いたこともあります。こうした超難関校に入ってくる人たちの中には、受験界の頂点に入ることが目的になっていて、医学そのものにあまり興味が持てない人もいるというのです。

とくに医学は、臓器、器官、骨、神経、血管、組織等の名前を細かく記憶しなければならない解剖学が典型ですが、大量暗記を求められることの多い学問です。

難しい問題を工夫して自力で解くことに快感を覚えるような高偏差値の人の中には、大量暗記をバカらしく思ってしまう学生もいると言うのです。

そのような学生にとって、臨床医になるための勉強を6年間も続けるモチベーションを保つのは大変なのかもしれません。それに、東大や京大でも、国試浪人したのに再度落ちてしまう人がいます。やはり、どんなに高偏差値の大学に入っても、ずるずると国試浪人を繰り返し、あげく医師になれないで終わる人がいるのです。

「医学部に入れさえすれば勝ち」という誤解

受験生や保護者の方々の中には、お金をたくさん使ってでも、とにかく「医学部に入れさえすれば勝ちだ」と思っている人がいるかもしれません。しかし、医師国家試験の結果を細かく見ればわかる通り、医学部に入っても全員が簡単に医師になれるわけではないのです。

法学部に入って弁護士にならなかったとしても、誰も不思議には思いません。しかし、医学部に入ったのに医師になれなかったとしたら、医学部合格を祝ってくれた人たちには言いづらく、本人も家族もつらい思いをするのではないでしょうか。

将来的に、国が「医師余り」と判断したら、9割の国試合格率をもっと下げる可能性だってあります。

実際、歯科医師国家試験の今年の合格率は63.7%と6割台でした。

かつてはもっと高かったのですが、歯科医院が「コンビニより多い」と言われる余剰状態となったため、国が政策的に合格率を下げたのです。医師国家試験だって、今年医学部に入る人たちが卒業する6年後にそうならないとは限りません。

来年、医学部受験を考えている受験生や保護者の方々は、こうした現実があることもふまえたうえで、それでも「医師になる」という強いモチベーションを保ったまま、6年間勉強を続ける覚悟があるどうか──その点もじっくり考えたうえで、進路を決めてほしいと思います。




https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20190325-00011143-bunshun-life