がん患者の介護保険利用「末期」の記載が不要に

がん患者が、体力が落ちて介護保険を使いたくなった時、保険適用を申請する書類に「末期がん」と記す必要はありません--。厚生労働省が先月、全国の都道府県に向けてこんな文書を出しました。「自分や家族のことを“末期”と書くのはつらい」との声が数年前から上がっており、これに応えた形です。がんの患者・家族団体や医師らは「これを機会に、がん患者は積極的に保険を使い、介護サービスを受けてほしい」と訴えています。

◇40歳から使える介護保険

がんが進むと体力が落ち、起き上がることさえつらいような状態になることがあります。

この時に介護保険が使えると、ヘルパーさんが家事や買い物、患者の入浴などを手伝ってくれる▽看護師さんが来て看護してくれる▽車いすや、リクライニング装置がついて起き上がりやすい介護用ベッドなど福祉機器を借りられる--などのサービスを、低額の自己負担(本来かかる額の1~3割)で受けられます(具体的なサービス内容は、介護の必要性がどの程度と認定されるかで違います)。

介護保険は高齢者のものだと思われがちですが、実は、一定の条件を満たせば、40歳から使えます。そしてこの保険を使うには、市町村や区に申請して「要介護(支援)認定」を受ける必要があります。

40~64歳の患者の場合、従来はこの認定の申請書に、自分の病状を「末期がん」や「がん末期」と記載しないと、認定を受けられない場合が大半でした。それが今後は、ただ「がん」と書けばよくなったのです。

「末期」との記載が求められていたのには、次のような事情がありました。

介護保険法によると40~64歳の人がこの保険を使えるのは、がんや認知症など「特定疾病」と呼ばれる16種類の病気にかかった場合だけです。そして、がんの場合はさらに、医師が「回復の見込みがない状態に至ったと判断した」という条件がつきます。

厚労省はこれまで、この条件の説明としてホームページで「末期がん」という言葉を使っていました。このために多くの自治体が、申請書でこの言葉を求めていたのです。

◇「末期」と言われたくない

これは、がん患者や家族にとって使いにくい制度でした。

がん患者の就労支援などをする一般社団法人「CSRプロジェクト」(本部・東京都千代田区)が2016年に、40~64歳で亡くなったがん患者の遺族を対象に実施した調査では、回答者200人のうち、患者が生前に介護保険の使用を「申請した」人は72人(36%)だけでした。

申請しなかった128人(64%)に理由を聞くと「末期がんという言葉に抵抗があった」「(患者が)末期がんだと知らなかった」などが挙がり、「がん患者が使える制度だと知らなかった」も目立ちました。

自らも04年に乳がんと診断され、今は同プロジェクトの代表理事を務める桜井なおみさんは、この結果を「『末期がん』だと言われるのは、患者も家族もいやです。医師も患者に『末期がんです』とは言いにくく、結果として『あなたは介護保険が使える病状です』とも伝えません。だから『使える制度だと知らなかった』となるのです」と説明します。

さらに「患者が要介護認定を受けないと、家族は『介護休業』や『介護休暇』を取りにくい。その結果、仕事を休めずに『最期に寄り添えなかった』と悔やむ家族や、逆に介護のために離職する家族が目立ちます」と指摘します。

なお厚労省によると、法律上は、要介護認定がなくても患者が他の条件を満たせば、会社は休業や休暇を認める必要があります。でも桜井さんは「実態は、認めない会社が多い」と言います。

◇余命は医師にも分かりません

また医師からみると、「末期がん」という言葉は「余命わずか」という印象を与え、心情的な問題に加えて、医学的にも使いにくいのだそうです。「余命の予測は専門医にもできない。できないことが過去の研究で証明されている」(勝俣範之・日本医科大武蔵小杉病院教授=腫瘍内科)からです。

こうした事情を踏まえて桜井さんは16年11月、自身がメンバーを務める厚労省の「がん等における緩和ケアの更なる推進に関する検討会」で、「末期がんという名称をぜひ変えていただきたい」と訴えました。検討会は同年12月に検討内容をまとめた報告書を出し「末期がん」という書き方の改善を求めました。

◇「改善しました」

それから2年あまりたち、今年2月19日に厚労省は都道府県に対し「要介護認定の申請書に『末期がん』との記載は不要で、単に『がん』との記載があればよい」という趣旨を連絡したわけです。同省は同時に、ホームページから「末期がん」の言葉を削除しました。

同省は「介護保険の対象は、がん患者の一部だけなので『末期がん』と書いてもらう方が行政側には分かりやすかった。一方でこの言葉は法律や政令になく、法的には記載の必要はなかった」と説明。「患者に嫌がられてまで記載させるものではない」という判断に至ったと言います。今後、「記載不要」について全国に周知徹底を図るそうです。

◇介護保険を積極的に使いましょう

桜井さんは「ようやく事務連絡が出てよかった。『末期がん』と言われるのは抵抗があるが、法律上の条件である『回復不能』なら『がんは治らないかもしれないが、つきあいながら生きていこう』と思えます。

自治体のホームページや介護保険の説明用パンフレットなどにはまだ『末期がん』の言葉が残るが、いずれ消えるでしょう」と喜びます。そして「介護サービスを使うことで、患者は生活の尊厳を保てます。特に1人暮らしの患者には大きい。

がん患者は急に容体が悪化することがあるので、早めに主治医に相談して介護保険の使用を申請し、必要になったら使うことを勧めます」と訴えます。

勝俣さんは「がん患者さんに介護が必要になれば、診断書はいつでも書きます。40歳以上は全員、介護保険料を払っているのだから、患者は保険を使わなければ損です。ぜひ使ってほしい。一方で、申請したのに『認定を受けられなかった』『認定される前に亡くなった』という方はまだ多い。行政はこれを機会に、積極的に介護保険の使用を認めてほしい」と話しています。




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