退職金も貯蓄もあてにならない「高齢者貧困」の実態

「ネットカフェ難民」や「ワーキングプア」など、若者の貧困が注目される一方で、深刻さを増すのが高齢者の貧困問題だ。

「人生100年」と言われる時代。老後の家計は最重要課題の一つであり、これから高齢期を迎える中高年以下の人にとっても決して人ごとではない。

貧困問題に詳しい経済アナリストの森永康平氏が現状を分析し、「自分だけは大丈夫、という甘い幻想は捨てた方がいい」と警鐘を鳴らす。

◆高齢者の貧困が急増!

貧困にあえぐ高齢者は、右肩上がりで増え続けている。

生活保護受給世帯の数は2000年から増加傾向にある。中でも「高齢者世帯」の数は突出している。2000年時点で33万世帯だったのが、16年時点で84万世帯と2.5倍以上に膨らんだのだ。

最近のお年寄りは健康で元気な人が多い。なぜ、貧困に陥ってしまうのか。

◆単身化というリスク

その原因の一つとして、高齢者世帯の「単身化」が挙げられる。

国勢調査などによると、一人暮らしをする人の中で、高齢者が占める割合は増加の一途をたどっている。そして、この傾向は今後も続くと予測される。核家族化や未婚化が進み、単身の高齢者が増える条件が整いつつあるからだ。

高齢者だけで生計を営む世帯は、子ども世帯からの扶助を期待しにくい。もちろん、仕送りという手もあるが、経済が停滞する中、別に生計を立てている親の面倒まで見る余裕はない、という子ども世帯が大半だろう。

実際、厚生労働省の16年度『年金制度基礎調査(老齢年金受給者実態調査)』によると、65歳以上の収入に占める公的年金(国民年金・厚生年金)・恩給の割合は78.8%に上る。いかに日々の収入源が限られているかがわかる。

高齢者世帯では最も多い年齢層である「65歳以上70歳未満」世帯の公的年金の平均受給額は、単身世帯の場合、年間136万9000円。これに対し、夫婦世帯は同241万1000円と、単身世帯より75%以上多く受給していることになる。

この年齢層の収入に占める年金などの割合は71.6%なので、年間の総収入は単身世帯で約191万円、夫婦世帯で約337万円と推定できる。

単身世帯に比べ、夫婦世帯は住居費や光熱費、食費など1人当たりの生活コストが下がる。逆に言えば、一人暮らしは高コストで貧困に陥るリスクも高いのだ。

◆夫婦なら大丈夫?

「自分には伴侶がいるから大丈夫」「退職金がある」「高齢になるまでに貯蓄が積みあがっているはず」――。そうした反論材料を並べ、「自分は貧困にはならない」と自信を持ち、老後を楽観視する人もいるだろう。

だが、そこには甘い見通しもあるのではないか。

まず、「伴侶がいるから大丈夫」という意見について検証してみたい。

生命保険文化センターの16年度『生活保障に関する調査(速報版)』によると、夫婦で老後生活を送るために必要とされる日常生活費は、最低でも月22万円。旅行やレジャー、子どもや孫との付き合いや世話などを楽しむ「ゆとりある老後生活」を送りたいなら、さらに12万8000円の上乗せが必要という。

仮に65歳で現役を退き、90歳までの25年間を夫婦で暮らすとすると、最低でも総額6600万円、「ゆとりある生活」を送ろうとすると同1億440万円が必要ということになる。

人事院の『民間企業の退職金、企業年金および、国家公務員の退職給付金2017年4月度調べ』では、民間企業と公務員の退職金の平均額は2499万円。

総務省の『高齢夫婦無職世帯の家計収支17年度調べ』では、年金を含む毎月の社会保障給付は19万1880円となっている。

夫がサラリーマン、妻が専業主婦の世帯で、夫婦で65歳から90歳まで生きるとすると、退職金や年金の合計額は8255万円だ。「最低限」の老後生活を送るなら1655万円の余裕があることになるが、「ゆとりある老後生活」を送ろうとすると2185万円不足してしまうのだ。

◆退職金はあてにできない

「自分は最低限でよい」という人も安心はできない。老後資金の柱の一つである「退職金」も過信は禁物だからだ。

先述した人事院の調査結果は、民間企業と公務員の退職金の平均額だ。例えば、人事院の発表では、16年度に定年退職した国家公務員の退職手当と共済年金給付を合わせた平均支給額が2537万円に上るなど、公務員の退職金は比較的手厚く、支給されないこともほぼないという意味で、公務員のOB・OGは有利といえるかもしれない。

しかし、民間企業の場合、退職金を支給する会社の数や支給額は、年々減ってきている。

厚生労働省の『就労条件総合調査』によると、17年は調査に応じた全国の企業3697社の2割強で退職金が支給されなかったという。退職金の平均額も年々減少。1997年の2868万円から2017年には1788万円に、なんと20年で1000万円以上減っているのだ。

退職金は企業の規模が小さくなればなるほど、支払われる金額も少なくなる傾向にある。

東京都の『中小企業の賃金・退職金事情』(18年)では、大卒者が定年まで勤め上げた場合の「モデル退職金」は、従業員数が100~299人の企業だと約1516万円、10~49人だと1136万円となっていた。

『2018年版 中小企業白書』によると、会社員のうち70.1%は中小企業勤めだ。

メディアが退職金について取り上げる時は、上場している大企業などを前提にすることが少なくない。会社勤めの人の相当数が退職金に期待し過ぎ、あてが外れてしまう可能性があるとは言えまいか。

◆「貯蓄できる」は本当か

若いうちからコツコツ貯蓄に励む人はいる。しかし、高齢になるまでに貯蓄が積みあがっているかもしれないというのは、「幻想」かもしれない。

総務省の17年『家計調査報告(貯蓄・負債編)』を基に作成した下表の左側を見ていただきたい。

堅実に貯蓄する人も、家の購入・改築や子どもの教育費などで、ローンを組むことは少なくない。それでも40歳以降は、貯蓄からローンなどの負債(借金)を引いた額がプラスとなり、貯蓄が増えていくように見えるだろう。60~69歳の部分では2177万円のプラスとなっており、これなら「ゆとりある老後生活」も夢ではない、と思うかもしれない。

だが、この表には実はカラクリがある。負債を一切抱えていない富裕層なども含めた、あらゆる人を対象にしているのだ。

一方、ローン返済中の人など「負債がある人」だけを統計の対象に絞り込んだのが右側の表だ。

40~49歳までは負債額の方が貯蓄額よりも多く、差額がマイナスになっている。負債を抱えている人の比率は全体の約3分の2を占める。

50~59歳でも5割以上の人が負債を抱えているが、貯蓄から負債を引いた額はプラスに転じる。そして60~69歳になると、負債を抱えている人は2割弱へと大幅に減り、差額は平均で743万円となる。ただ、これを実態に近い「リアルな貯蓄額」と考えても、およそ2割の人は1000万円に届いていない。最低限の生活をしても数年分の生活費にしかならず、老後の生活を支える「柱」と呼ぶにはやや頼りない気もするが……。

◆高齢者こそ「働き方改革」を

私たちはこの「高齢者の貧困問題」にどのように対応すればよいのだろうか。

「年金を繰り下げ受給すればいい」という声も耳にする。しかし、繰り下げる年齢までの雇用の問題がある。

定年退職年齢の引き上げを企業に義務付けることも議論されている。だが、現実的には、企業側が負担の大きさを訴えることが予想される。働く人の体力の問題もあり、現役世代と同じような働き方をするのは難しいだろう。

ならば近年、ベンチャー企業やIT企業などを中心に広がっている、働く時間を自ら決められる「フレックスタイム制」や、パソコンやスマートフォンを使えばどこにいても働ける「リモートワーク」といったシステムを多くの企業が導入し、高齢者雇用に生かしてみるのはどうだろうか。

コミュニケーション能力や専門技術など、長年培った経験や知識は、時代が変わっても生かせる場面は多い。いったんリタイアした高齢者と企業をマッチングさせるようなサービスも、今後求められるようになるのではないか。

現役世代に照準を合わせた「働き方改革」は進みつつある。働きすぎによる健康への害などを防ぐのが主眼だ。

筆者は、「高齢者の働き方改革」の必要性を指摘したい。お年寄りが生きがいを持ち、老後を豊かに暮らすための収入も得られるように、仕事を得やすくする改革だ。

現役世代の働き方改革を進めている企業では、社員の長時間労働の是正などの「効果」と、管理職への作業負担の集中などの「課題」が徐々に顕在化しつつあり、現役世代の働き方は徐々に変わっていくと見られる。そこに高齢者の経験や知恵を生かすチャンスが生まれるのではないか。そのための道を確立できれば、高齢者を貧困から救う「特効薬」にもなり得ると筆者は期待している。




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