遺族年金はもらえるか 知っておくべき5つのポイント

老後のお金を考えるなら、配偶者が先立った後のことも頭に入れる必要がある。「遺族年金があるから大丈夫」と思いたいが、条件が合わずにもらえなかったり、金額が少なかったりといった落とし穴もある。早いうちから仕組みを知って生活設計に役立てたい。

■受け取る大半が妻 優先順位は子が高く 金額、予想より少ないことも

「最近はご主人の老齢年金の相談に夫婦で来る割合が増えた。その際に、遺族年金はいくらもらえるかを聞く人が多い」と社会保険労務士の望月厚子さんは話す。

遺族年金の請求書一式

夫1人で来ることもあれば、妻が夫の委任状を持って来ることもある。あとに残ることが多い妻の経済的な不安を映したり、夫がその妻の生活を思いやったりしての行動だ。

80代の母親が遺族年金を主体に年に200万円以上もらっているので、自分も同じくらいあるだろうと思い込んでいた50代の女性もいた。夫の遺族年金の見込み額を伝えたら絶句したという。

一方、子どもが成長した夫婦では生命保険を見直す際に、夫が亡くなった場合の遺族年金額を確認することがよくある。その金額を踏まえて、死亡保険金などを再考するからだ。

遺族年金は一家の働き手や年金を受け取っている人が亡くなったときに、残された家族のその後の生活を保障する。老齢、障害と並ぶ公的年金の3種類の給付のひとつだ。「遺族基礎年金」と「遺族厚生年金」があり、亡くなった人の年金の加入状況などによってどちらか、または両方が対象になる。

自営業やフリーランスといった国民年金の人は遺族基礎年金が、会社員や公務員など厚生年金の加入者なら遺族基礎年金と遺族厚生年金が当てはまる。

厚生労働省によると、遺族年金をもらっている人は遺族基礎年金の約10万人に対し、遺族厚生年金は約550万人と年々増えている。

大半が女性で夫を亡くした妻が多いようだ。平均の受取額はともに月8万円台。年金世代はこれに自分の老齢基礎年金などを加えた金額がその後の生活の基盤となる。

夫が亡くなると、残された妻の多くは遺族年金をもらえると考えるが、当てが外れることもある。

社会保険労務士の永山悦子さんは「遺族年金は残された妻に支給されるものだと思いがちだが、まず優先されるのは18歳未満の子ども」と指摘する。

遺族基礎年金は子がいないともらえない。遺族厚生年金も、受け取り順位の1位は子のある配偶者か子になっている。

仮に子が独立した夫婦で夫が先に亡くなったとしよう。

もし、妻とは別の女性との間に生活費の面倒をみていた18歳未満の子がいたとすれば、遺族厚生年金は子の方に支給される。妻がもらえるのはその子が18歳になって権利を失ってからとなるため、それまで妻には支給されないことが多い。

遺族年金はもらう人だけでなく、亡くなった人にも条件がある。これらについては知らなかったり、勘違いしていたりということも多い。その注意点を挙げると──。

■ポイント1 遺族なら誰でももらえる? 年収850万円未満、夫もOK

受け取る側には「亡くなった人に生計を維持されている」という条件がある。亡くなった人と同居、もしくは別居でも生活費を送ってもらっていたなどで生計を同一にし、原則として自身の前年の年収が850万円未満を指す。

経営者の妻で自らも役員をしているような人は年収の基準に引っかかるかもしれない。ただ「月収にすると約70万円とかなり緩く、たいていの妻は条件を満たす」と社会保険労務士の井戸美枝さんは説明する。いったん受け取り始めれば、年収が850万円を超えてももらい続けることができる。

そのうえで、遺族基礎年金は「子のある配偶者」と「子」が対象になる。

子がいなかったり、いても18歳を過ぎていたりすればもらえないわけだ。このため、社会保険労務士の森本幸人さんは「年配の自営業者の多くは遺族年金はないと考えた方がよい」と注意する。

遺族厚生年金は優先順位の1位が子のある配偶者と子で、2位が「子のない妻」などとなっている。前述のような事例は珍しく、実際には該当する子がないケースがほとんど。子育てを終えた世代では、夫が亡くなれば後に残る妻がもらうのが一般的だ。

妻に先立たれた夫も該当する。ただし、遺族厚生年金では夫は55歳以上で、もらい始めるのは60歳からという決まりがある。子も妻も夫もいなければ、父母や孫、祖父母が優先順位に応じて受け取れる。妻や夫は事実婚でもOK。

遺族年金の手続きをする際には、通常は死亡診断書や住民票、生計維持証明の書類などを年金事務所などに提出するが、事実婚は、これらに加えて結婚を証明する書類が必要になる。

■ポイント2 保険料は何年支払う? 原則25年、納付にも条件

2017年8月に老齢年金の受給資格期間が25年から10年に短縮された。これに合わせて遺族年金も10年になったと思っている人もいるだろう。

だが、遺族年金は変更なし。65歳を過ぎて老齢年金の資格を満たした人が亡くなっても、保険料納付済み期間(免除期間など含む)が25年に達しなければ支給されない。

被保険者が亡くなった場合はどうか。25年を満たしていれば問題ないが、足りなければ保険料の納付済み期間が全体の3分の2以上、または直近1年間の未納月ゼロといった条件がある。

ずっと会社員なら心配ないが、脱サラや転職で勤めていなかった期間が長いと注意が必要だ。現役世代でこれらの条件を知っていれば、その後の就労計画を再考する人もいるかもしれない。

Aさんが20年勤めた会社を辞め、転職を準備していた半年後に事故で亡くなった。すでに厚生年金の被保険者ではなかったので遺族厚生年金は出ない。子は18歳を過ぎていたのでAさんの妻は遺族基礎年金ももらえなかった。

国民年金では3年以上保険料を払った人が死亡すると納付月数に応じた「死亡一時金」が出るが、厚生年金に一時金の仕組みはない。Aさんは長く保険料を払い続けたのに、妻は何ももらえなかった。

遺族年金の金額はいくらか。遺族基礎年金は基本額が年約78万円(18年度)で、子の人数に応じた加算がある。一方の遺族厚生年金は亡くなった人の給料や保険料納付済み期間で変わる。

「途中、自営業などで国民年金の期間が長いと金額は少ない。一般的には老齢厚生年金の4分の3と覚えておくとよい」(社労士の永山悦子さん)

■ポイント3 一生もらい続けられる? 再婚したら権利を失う

遺族厚生年金はいったん支給が始まれば、原則、生涯もらい続けることができる。ただし再婚したら権利を失う。事実婚も一緒。

「遺族厚生年金をもらっている人が再婚を考えるときは、その年金額と新しいパートナーの収入とを見比べたい」(社労士の井戸美枝さん)。なお、30歳未満で子のいない妻の場合、遺族厚生年金の支給は5年の有期。一方で子のある配偶者や子がもらう遺族基礎年金は、子が18歳になった年度末を過ぎると受けられなくなる。

近年話題の「死後離婚」はどうか。一般に配偶者の死後、「姻族関係終了届」を提出して相手側の親や兄弟らと縁を切ることをいうが、配偶者死亡の際に確定した遺族年金の受給権とは関係ない。受け取り始めた遺族年金はもらい続けることができる。

妻が遺族厚生年金を受け取る場合、年齢に応じた加算があることも知っておきたい。

その代表が「中高齢寡婦加算」。40歳以上の子のない妻には年約58万円が遺族厚生年金に上乗せされる。この加算は65歳になるまで。以後は自分の老齢基礎年金を受け取る。

生年月日によっては65歳以降に「経過的寡婦加算」をもらえる人もいる。これらは、いずれも「寡婦」と付いているので妻を亡くした夫には出ない。

「65歳になると年金額はそれ以前より増えるイメージがあるが、中高齢寡婦加算が老齢基礎年金に置き換わると金額が減る妻もいる」(社労士の望月厚子さん)。

自身に国民年金の第1号被保険者(自営業者ら)の期間があってその間の保険料を払わなかったり、免除手続きをしたりしたケースだ。全額免除すれば年金額は半分しか増えない。

夫の死後、第3号被保険者(会社員らに扶養される配偶者)から第1号に変わると、妻は自分で国民年金保険料を払う必要があるが、面倒なので免除申請する人も少なくないという。

■ポイント4 夫の年金の4分の3でない? 65歳から妻の年金と調整

最も多い勘違いは、亡くなった人の年金全体の4分の3をもらえるというもの。実際には遺族厚生年金の金額は老齢厚生年金の4分の3であって、老齢基礎年金などは対象外。「思ったより金額が少ない」という人がいるのはこのためだ。

65歳より前に遺族厚生年金をもらうときは、自分の60代前半の老齢厚生年金と遺族厚生年金のどちらか有利な方を選ぶ。

妻がもらうときは金額が高い遺族厚生年金を選ぶ人が多い。65歳からは自分の老齢厚生年金と遺族厚生年金とで支給額の調整をする。以前は65歳までと同様にどちらか選べたが、現在は仕組みが見直されている。

まず自分の老齢厚生年金を全額受給し、その金額が遺族厚生年金額(亡くなった人の老齢厚生年金の4分の3)より少ない場合、差額を遺族厚生年金として受け取る。

65歳の前と後で厚生年金の名目上の支給額は変わらないが、非課税の遺族厚生年金部分が減るので手取りが減少することもある。

この調整を知らず、「自分の老齢厚生年金に遺族厚生年金が丸ごと上乗せされると思い込んでいる妻も少なくない」(社労士の永山悦子さん)。

夫を亡くした50代後半のB子さんは遺族厚生年金はあったが、自分の年金を増やしたいと厚生年金に入って働いた。65歳が近づいて年金額を調べると、老齢と遺族合計の厚生年金額は全く増えていなかった。自分の老齢厚生年金額が遺族厚生年金額を超えなかったので、差額部分が減っただけ。合計の厚生年金額には影響がなかったからだ。

老齢基礎年金は増え、健康保険料と介護保険料を会社が半分負担してくれるメリットはあった。だがB子さんは「知っていたら厚生年金に加入しないで働いたのに……」と後悔する。

その場合、60歳以降は国民年金に任意加入して老齢基礎年金を満額に近づけたうえで、付加保険料を払ってさらに上乗せするという選択肢もあっただろう。

■ポイント5 「繰り下げ」は不利? 受取額は65歳時点で計算

最後に、もらい始める年齢を遅らせる「繰り下げ」をしていた人が亡くなったときの注意点を見てみよう。これについては、老齢年金と遺族年金を比較すると理解しやすい。

例えば、ある夫が老齢年金のもらい始めを66歳以降に遅らせれば受給額が増えるが、亡くなった場合、妻がもらう遺族年金は、夫の65歳時点の老齢年金額を基に計算される。

もらい始める前の待機中に亡くなっても同じ。「繰り下げた人が先に亡くなると意味を失ってしまう」(社労士の森本幸人さん)。繰り下げはもともと、本人の年金額を増やすのが目的のため、長生きをしないとメリットを十分に得られないというわけだ。

受取額は減るが、65歳より早くもらうことができる「繰り上げ」受給にもデメリットがある。

例えば、国民年金には、第1号被保険者(自営業者ら)の夫が亡くなったとき、10年以上の納付期間があるなどすれば、妻は「寡婦年金」と呼ばれる年金を受けることができる。

だがこのときに妻が自分の老齢基礎年金を繰り上げていたら、寡婦年金はもらえない。また、老齢基礎年金を繰り上げてもらい始めてから配偶者を亡くすと、65歳になるまで遺族厚生年金を併給して受け取ることはできない。

もうひとつ、厚生年金には60歳を過ぎた人が働きながら年金を受け取ると、年金額の一部、または全額が支給停止になる「在職老齢年金」という制度がある。

この仕組みで「年金が全額停止になっていた夫が亡くなると、遺族年金はもらえないと思っている妻がいる」(社労士の望月厚子さん)。実際には支給されるはずだった年金額に基づいて遺族厚生年金を受けることができる。一部停止でも同様だ。




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