「医師の過労死」後を絶たず 残業規制の対象外、労働時間増える意外な理由とは?

いよいよ4月から残業規制が始まる。でも医師は5年間は対象外だ。医師の働き過ぎ防止策は必要だが、病気になったとき、ちゃんと診察を受けられるのかも心配。医師の残業規制や課題について、石塚由紀夫編集委員に聞いた。

――なぜ医師は5年の猶予が置かれたのですか。

医師も過労死が後を絶たず、過重労働の防止策は必要です。ただ医師は人の命を守るという特殊な職業。一般的な雇用者と同様の上限規制を適用しては十分な医療サービスを提供できなくなる恐れがあり、仕組みや対策を慎重に検討する時間を設けました。

例えば、医師には「正当な事由がなければ診療を拒めない」という「応召義務」が医師法で課せられています。残業時間が上限に達した月に会社員は「これ以上、働けません」と断れても、医師には許されません。法制度のこうした矛盾も調整が必要です。

上限は2018年度末までに固める計画です。規制案を議論する検討会に厚生労働省は1月に原案を示しました。時間外労働の上限を原則年960時間とし、医師不足が深刻な地方の医療機関などには特例として年1900~2千時間の時間外労働を35年度末まで認める案です。

ただ検討会では反対意見が出ています。4月以降、一般的な雇用者に適用する上限規制は原則月45時間以内、年360時間以内。特別な事情があっても月100時間、年720時間を超えてはいけません。これらを大きく上回っており、医師の過重労働が防げない懸念があるからです。

医師の勤務時間の実態は

――医師はどれほど長時間働いているのですか。

厚労省が検討会に提出した資料では、週60時間以上働く勤務医は全体の4割を占めます。時間外労働は年約960時間以上で、原案通りでも勤務医の4割は残業を減らすなど働き方を抜本的に見直す必要があります。

総務省の調査で週60時間以上働いている人の割合を職業別にみると、医師は42%と全職種平均(14%)を大幅に上回り、長時間労働が常態化しています。

その原因を医師に尋ねた調査によると、診断書やカルテなどの書類作成、救急や入院患者の緊急対応、患者・家族への説明対応が上位に並びます。

最善の医療を提供するには先端技術や知識の習得に努めなくてはならず、自己研さんと仕事の境界があいまいなことも一因となっています。

18年、医大が女性の合格者数を意図的に抑制していた問題が発覚しました。背景には長時間労働に耐えうる男性医師を現場が求めているという事情もありました。医師の過重労働是正は優秀な人材を確保するためにも不可欠です。

――働き方改革で先進的な参考事例はありますか。

聖路加国際病院(東京・中央)は主治医制を見直し、複数の医師がチームで診療するようにしました。昼夜問わず主治医が呼ばれることはなくなりました。土曜の外来診療も、34科から14科に減らし、医師1人当たりの平均残業時間は月100時間弱から40時間前後に半減したそうです。

東京ベイ・浦安市川医療センター(千葉県浦安市)は医師でなくてもできる仕事をほかの医療スタッフに任せるタスク・シフティング(業務移管)に取り組んでいます。タスク・シフティングは医師の負担軽減につながると国も期待しています。

なぜ医師は長時間働く?

――医療のサービス低下につながらないですか。

医師の働き過ぎは医療過誤の遠因にもなります。残業規制は患者のためでもあります。先に挙げた先進事例以外でも、同様な取り組みを始めた病院があります。

ただ「なぜ主治医がいつもいてくれない」「平日は仕事なので老親の病状説明は日曜にしてほしい」といった苦情が患者や家族からあるそうです。

いつでも誰でも医療サービスを受けられるのは世界に誇れる制度です。ただ、医療を受ける側がそこに甘えていては制度が維持できません。不要な受診や過剰なサービスを避けるなど私たち一人ひとりにできることもあります。

■ちょっとウンチク 人口減、いずれ医師過剰

高齢化に伴い、今医師が足りない。だが人口減少でいずれ医師の需要は減る。厚生労働省「医療従事者の需給に関する検討会」は2018年5月に、28年ごろに約35万人で医師需給は均衡し、その後は供給過剰となり、40年には3.5万人余ると試算した。

医療制度は主に国民が負担する保険料で成り立つ。医師を増やせば残業は減らせるが、その財源を確保するための保険料を払うのは国民だ。将来供給過剰に陥る医師を増やすのは現実的な解決策とはいえない。一人ひとりの社会保険料負担を抑制するためにも、医師の働き方改革に協力する意義はある。




https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20190212-00010003-nikkeisty-bus_all