東へ西へ進路は自在 浜松北高、自然体の「自主独立」 静岡県立浜松北高校の松本直己校長に聞く

NHK大河ドラマ「いだてん」 田畑政治 静岡県立浜松北高校(旧浜松第一中学校)の出身 文部大臣を務めた有馬朗人・元東京大学総長 南壮一郎ビズリーチ社長 ジャズピアニストの上原ひろみさん 松本直己校長 同年の浪人を含めた大学合格実績は東京大学の12人に対し、京都大学が20人、大阪大学も10人を数えた 浜松医科大学 浜松市 本田宗一郎が1946年に本田技術研究所を起業した「ホンダの発祥の地」 スズキやヤマハ 浜北の「3大行事」と呼ばれる学校祭、合唱大会、運動会も生徒会が主導する ヤマハや河合楽器製作所、ローランドなどの楽器・音楽関連メーカーが立地する「音楽の都」らしい行事 アクトシティ浜松 短編映画「未来のあたし」を撮った豊島圭介監督は浜北出身で、ロケに母校を選んだ クリエーティブディレクターの原野守弘さんもOB ゴディバ 浜松北高の歴史を示す「百周年記念資料館」 カレー研究家の水野仁輔さん 「地ソース」の旗手、トリイソースの鳥居大資社長 クイズ作家の日高大介さん 女性弁護士の草分け的な存在の渥美雅子さん 経営学者の大薗恵美一橋大学大学院教授 歌手の宇多田ヒカルさんをデビュー当時から宣伝面でサポートしてきた梶望さん 世界的なサックス奏者の須川展也さん 浜松ホトニクス 「やらまいか(やってみよう)」精神
水泳ニッポンの礎を築いたとされ、NHK大河ドラマ「いだてん」で後半の主人公になる田畑政治は静岡県立浜松北高校(旧浜松第一中学校)の出身だ。

静岡県有数の進学校で浜北と呼ばれる同校は、文部大臣を務めた有馬朗人・元東京大学総長や南壮一郎ビズリーチ社長、ジャズピアニストの上原ひろみさんなどを送り出してきた。

創立125年の節目を前に、松本直己校長から浜北がめざす教育や強みを聞いた。

■「医学部に強い公立」の評も

東海の地の利を生かし、首都圏と関西圏の両方に進学者の裾野を広げるのが浜北の特徴だ。

2018年3月の卒業生は394人(男子231人、女子163人)。

同年の浪人を含めた大学合格実績は東京大学の12人に対し、京都大学が20人、大阪大学も10人を数えた。

松本校長は「静岡県は地理的に横長。在校生や保護者が進路を柔軟に考える傾向がある」と、「東西自在」の進学実績を説明する。

18年春の実績に基づく民間のランキングでは、「医学部に強い公立高校」の全国トップに位置づけられた。

「地元に国立の浜松医科大学があることが大きい」(松本氏)といい、18年も17人が合格。

国公立の医学部には京大や広島大学などに31人が合格し、私立の北里大学、杏林大学、順天堂大学、独協医科大学、愛知医科大学などにも複数の合格者を出している。医療機関が多く、医師を志す風土が根付いていることも後押ししているようだ。

浜松市は、本田宗一郎が1946年に本田技術研究所を起業した「ホンダの発祥の地」としても知られる。

スズキやヤマハも本社を構える工業都市で、浜北生の保護者にも関連企業に勤める人が少なくない。理系志望が強まるのも自然な流れなのかもしれない。

18年の首都圏の私立大への合格実績をみると、東京理科大学が49人でトップとなり、早稲田大学の44人、慶応大学の25人を上回った。

■根付く自主の精神、進路選びにも反映

「自主独立」の校風で知られる。似たような校訓を掲げる高校は珍しくないが、実は浜北では「校訓」ではない。「学校教育目標」の中に「自主独立の精神を基盤として」と盛り込んではいるものの、もっと自然に根付いているという。だから、進路も「全校1200人に1200通りの選択があって当たり前」(松本氏)と多様性を重んじる構えだ。

およそ1200人が学ぶ校舎

たとえば、生徒は2年生になる際に文系と理系に分かれるが、選択は生徒の意思に任されている。

これは当たり前のように響くが、教員の人数や施設の制約に合わせようと文系と理系の志望人数の「誘導」を図る学校もあるのが現実だ。「浜北では生徒の希望優先。アンバランスになっても仕方がない」(松本氏)。生徒の希望に対応できるよう時間割づくりや人繰りに力を割いているという。

浜北の「3大行事」と呼ばれる学校祭、合唱大会、運動会も生徒会が主導する。学校側は生徒の取り組みを見守り、「頼られたら助ける」という距離感を保つ。

なかでも特徴が際立つのが7月の合唱大会だろう。

ヤマハや河合楽器製作所、ローランドなどの楽器・音楽関連メーカーが立地する「音楽の都」らしい行事だ。

会場は国内有数の本格的音楽ホールである「アクトシティ浜松」。

「目の色を変えて打ち込む生徒が多い。ピアノを弾ける生徒がクラスに必ずいるのも浜松らしい」(松本氏)。こうした行事は生徒のパワーのバロメーターにもなっている。特に9月の運動会が例年以上に盛り上がると「教師側は『今度の大学入試はうまくいきそうだ』と感じる」のだそうだ。

■「異才」育つ環境、地域の理解も

松本氏は「地方公立のよさと強みを大事にしたい」と繰り返す。一番の「よさ」は、地域の理解だ。

たとえば、浜北には有力進学校では珍しくない「特進コース」がない。一般的な特進コースは、東大や京大を目指す生徒を集め、特別のカリキュラムを用意する。松本氏は「進学実績を意識しないわけではないが、自主独立の考えを地域に理解していただいている。地域と二人三脚で進んでいけるのが、地方公立のメリット」と話す。

浜北の役割について松本氏は「大きな器をつくってあげるのが、我々の役目。生徒のキャパシティーを広げたい」と説明する。人の命を預かる医師の道を志す生徒が多いこともあり、「点数さえ取れれば構わないという発想は危うい」。地域や社会の期待を学校側が理解しているのも浜北の魅力だろう。

「強み」は卒業生とのつながりだ。

アイドルグループ「欅坂46」の織田奈那さんが高校生役で出演した短編映画「未来のあたし」を撮った豊島圭介監督は浜北出身で、ロケに母校を選んだ。

この映画づくりを支えたクリエーティブディレクターの原野守弘さんもOBで、「日本は、義理チョコをやめよう。」と呼び掛けた、チョコレートブランド「ゴディバ」の広告でも知られる。

浜松北高の歴史を示す「百周年記念資料館」。オリンピック関連の資料も展示されている

浜北出身の「異才」も多い。

カレー研究家の水野仁輔さん、「地ソース」の旗手、トリイソースの鳥居大資社長、クイズ作家の日高大介さんなど多士済々だ。

女性では、女性弁護士の草分け的な存在の渥美雅子さん、経営学者の大薗恵美一橋大学大学院教授が知られる。歌手の宇多田ヒカルさんをデビュー当時から宣伝面でサポートしてきた梶望さん、世界的なサックス奏者の須川展也さんら、音楽の関係者もいる。ノーベル賞の苗床になった光関連メーカーの浜松ホトニクスにも出身者が少なくない。

■卒業生との絆、幅広い授業に

こうした卒業生が課外授業を行う機会もしばしば設けられる。18年だけでもCMディレクター、弁護士、起業家、勤務医などが母校の教壇に立った。「様々な分野で活躍する卒業生が在校生に刺激を与えてくれる。卒業生組織の活動が盛んなのも、生徒に多様な選択肢を示してくれている」と、松本氏は「縦の絆」の価値を強調する。

気風の面では、積極性が浜北の特徴という。

たとえば、18年の高校生模擬裁判選手権(日弁連主催)の関東大会では、浜北が優勝した。東京地裁を舞台に架空の事件を通して法廷闘争を繰り広げた。「理系以外のコンテストでも、募集を告知すると、すぐに参加者が集まる。知的におもしろがる気質が強い」。松本氏は浜北に息づく「やらまいか(やってみよう)」精神を頼もしくみる。

浜松市が首都圏や関西圏と程よく離れているせいか、「生徒も保護者も視野が広い。ダイバーシティー(多様性)が求められる時代にふさわしい学び方や進路を選択しやすい」(松本氏)

一般に「二兎(にと)を追う」という言葉は、どっちつかずの悪い判断とされるが、浜北では「二兎も、三兎も追う」のが当たり前の態度だ。「勉強だけで終わらないのが浜北魂」という松本氏は、浜北生の欲ばりなチャレンジの背中を押し続ける構えだ。




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