「オンナだけが悪いのか。」特定妊婦たちの葛藤 相手にも家族にも見放された女性「私が悪いのか」

何らかの事情で、生みの親が育てられない子どもを、血縁関係のない夫婦に実の子として託す「特別養子縁組」。

取材班はこれまで長期にわたり、子供を育てられない女性たちを取材してきました。彼女たちの事情は、人それぞれ。取材内容を放送したり、記事を公開したりする度に、応援の言葉や、様々な意見が寄せられました。

その一方で「勝手に産んで、育てられないなんて無責任」などと、女性を一方的に非難する言葉も、インターネット上にはあふれました。

果たして本当に、オンナだけが悪いのでしょうか――。特別養子縁組の現場から、考えます。

あふれる“特定妊婦”への非難

児童福祉法では「出産後の子供の養育に、出産前からの支援が特に必要」とされる妊婦を、“特定妊婦”といいます。

赤ちゃんの“特別養子縁組”をあっせんする民間団体NPO法人「Babyぽけっと」は、こうした特定妊婦を支援する、「母子シェルター」を運営しています。

予期しない妊娠で仕事を失い、経済的に自立できないなど、居場所のない“特定妊婦”たちが、出産までの間を過ごします。そして出産後に赤ちゃんを、特別養子縁組によって、子供のない夫婦に託すのです。

女性に対する非難の声は、この団体にも寄せられているといいます。

「私たちへの批判もあります。(赤ちゃんを)勝手に産んで、育てられないのに産んで、人に育ててもらっている女性をなぜ助けるのかと――」(Babyぽけっと代表・岡田さん)

特別養子縁組とは

「特別養子縁組」は「普通養子縁組」と違い、生みの親との血縁を断絶し、養子であっても戸籍上に「実の子」として記載されるのが特徴です。子どもが6歳未満(※1)の場合に限り、「育ての親」が法的な「実の親」となるのです。

(※1 平成31年1月22日現在、法制審議会で6歳未満から15歳未満に引き上げる見直し案が検討されている)

居場所を失う特定妊婦たち

「Babyぽけっと」の「母子シェルター」で、心理カウンセラーとして特定妊婦たちを支える野口さん(仮名)は、私たちが取材に訪れた日、ある女性の相談を聞いていました。

シェルターで暮らしている、妊娠8か月の志帆さんです。志帆さんは、飲食店のアルバイトで生計を立てながら、交際していた男性と同棲していました。しかし最近になって妊娠していることがわかり、その事実を伝えたとたん、男性は親元に戻ってしまいました。

「この間、話しに行って、いろいろ大変だったんだってね」(野口さん)

「(交際していた男性と)調停になりそうです」(志帆さん)

「岡田さんから聞いた」(野口さん)

「最初は養育費を払うと言っていたんですけど。今になって法的な親子関係がないと言い出して、何も払わないんです。お金もいっさい」(志帆さん)

志帆さんは、両親とともに、交際していた男性の元を訪ねました。しかし男性からは、「一緒に子供を育てることはできない」と言われたといいます。

男性の言い分に怒った志帆さんは、せめて養育費だけでも払って欲しいと、弁護士に相談。そのアドバイスを受けて、男性に慰謝料の請求をしました。しかし男性は「貴殿の懐胎した胎児との親子関係の存否も不明です。よって貴殿の請求には応じかねます」と、書面で赤ちゃんとの親子関係を否定しました。

その後、志帆さんが親子関係を証明しようと、DNA鑑定を迫ると一転、男性から和解を求められ、慰謝料が支払われました。

しかし志帆さんのようなケースで、調停をして養育費が認められたとしても、実際にお金が支払われるのは、調停から1年半後の時点でも5割に満たないといいます。そのうえ、支払われたとしても、子供を育てるには十分な金額ではなく、女性たちの多くは金銭的に困窮することが多いのです。

「自分で育てたい」志帆さんの思い

ひとりで子供を育てたいと考えていた志帆さんですが、両親は強く反対。子どもを養子に出すよう勧めました。妊娠8か月の志帆さんは、相手の男性からも、両親からも孤立してしまったのです。

「子供をどうするか、色々な選択肢を考えたのですか?」(記者)

「いろいろ考えましたね。どうにか自分で育てられる方法はないかと考えたんですけど、なくて」(志帆さん)

「自分で育てたかった?」(記者)

「……」(志帆さん)

志帆さんは泣き崩れ、気持ちを言葉にすることができません。野口さんが、志帆さんの気持ちを代弁します。

「家族にも反対されてね、(志帆さんは)『私がおかしいのかな』って思ったんだよね。私はおかしくないと思うけどね」(野口さん)

「本当は養子に出さずに、育てたかったということですか?」(記者)

「……」(志帆さん)

泣き崩れながらうなずく志帆さん。志帆さんは妊娠が分かってからずっと、周りの考えを受け入れ続け、自分の思いを抑えてきました。その気持ちに、野口さんがそっと寄り添います。

“産んだ子を人に託す志帆さんの気持ちを、育ての親にちゃんと伝える”。野口さんは、そう決意しました。

育ての親へ命のリレー 噛みしめる生みの親の思い

志帆さんが、赤ちゃんを産みました。約2900グラムの、元気な男の子です。赤ちゃんの名前は、育て親となる夫婦が用意した候補の中から、志帆さんが選ばせてもらいました。

育ての親として命のバトンを受け取るのは、西田さん夫婦(仮名)です。6年間の不妊治療を経て、“特別養子縁組”で赤ちゃんを実の子として受け入れることを決めました。「Babyぽけっと」の職員が、大切に赤ちゃんを抱き、西田さん夫婦のもとへやってきました。はじめて目にする“わが子”に、夫婦からは笑顔がこぼれます。

生みの親の志帆さんから西田さん夫婦に託される命

「かわいい」「いらっしゃい!」(西田さん夫婦)

そして、野口さんは、赤ちゃんを産んだ志帆さんの思いを伝えます。

「志帆さんは、すごく自分で育てたかったんです。でも養子として託した以上、今度は赤ちゃんのためにも、親のためにも私が一番幸せにならないといけないと、言っていました」(野口さん)

「命をかけて、ふたりで大事にします」(西田さん夫婦)

6か月ぶりの母子再会 想像もしなかった未来

「Babyぽけっと」では、年に1度、特別養子縁組の家族が集まるシンポジウムを開催しています。ここに、西田さん夫婦と、生後6か月を迎えた赤ちゃんの姿がありました。夫婦は、このシンポジウムを通して、わが子にどう「真実」を伝えるか、学び、考えていました。

シンポジウムには、志帆さんも参加していました。野口さんが、出産後に自立できたら、赤ちゃんに会いに来るよう勧めていたのです。妊娠前は、飲食店のアルバイトだった志帆さんですが、出産後は実家に戻り、地元企業の正社員となりました。生みの親として、胸を張って赤ちゃんに会いたい。その一心で、半年間、頑張ってきました。

赤ちゃんの体重は、すでに8キロ。生みの親である志帆さんと、育ての親の西田さん夫婦は、はじめて顔を合わせます。

「お礼をずっと言いたくて、赤ちゃんを生んでくれて、本当にありがとうございました。」(西田さん夫婦)

「私こそ、産ませていただいてありがとうございました。(西田さん夫婦が)待っていていただいてなかったら、たぶん、赤ちゃんを産めていなかったので」(志帆さん)

妊娠に悩み、家族からも、交際相手だった男性からも孤立していた志帆さん。こんな日が来るとは想像もしていませんでした。

子どもを産み、託す。女性たちの事情は、人それぞれ。

私たちは、オンナだけを、責めることができるのでしょうか――。




https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190129-00010005-sp_ctv-soci