命守る装置、もっと普及を 視覚障害者用「シグナルエイド」

JR駒込駅前(東京都豊島区)の横断歩道で七日未明、近くに住む視覚障害者の栗原亨(とおる)さん=当時(64)=が車にひかれて亡くなる事故があった。現場には音響式信号機が設置されていたが、日中しか誘導音が鳴らない設定だった。こうした事故を防ぐため、横断者が遠隔操作で音を鳴らせる装置もあるが、存在が知られていないのが現状だ。 

栗原さんは千葉市稲毛区の放射線医学総合研究所に勤務し、通勤ラッシュを避けるため早朝に自宅を出ていた。警視庁巣鴨署によると、七日午前四時半ごろ、横断歩道を渡っていてワゴン車にはねられた。歩行者用の信号は赤だった。現場の信号機は午後七時から午前八時まで誘導音を止めていた。

警視庁によると、都内では近隣住民への配慮などから、夜間や早朝に誘導音を消す信号機が大半。このため、視覚障害者を事故から守る「シグナルエイド」という装置がある。横断者が音響式信号機に向けてボタンを押すと誘導音が出るようになり、青信号の時間の延長もできる。約三十年前の発売以来、約二万七千台が出荷されている。豊島区盲人福祉協会は栗原さんの事故現場を訪れ、この装置で音を鳴らせることを確認した。

都や日本盲人会連合によると、視覚障害の手帳の保有者は都内で約四万人。障害者自立支援法に基づき、都内の大半の自治体で視覚障害者に装置を給付・貸与する制度がある。ただ、豊島区では給付対象の視覚障害者が約三百七十人いるが、二〇一〇年度以降に新規に給付されたのは十四個にとどまる。

豊島区盲人福祉協会は「区内の普及率は一割に満たないのでは」と推測する。区内の視覚障害者の渡辺昭一さん(70)も「知らなかったし、同様に知らない人も多いと思う」と話す。遺族によると、栗原さんもこの装置を持っていなかった。

豊島区盲人福祉協会は二十五日、装置の普及を促進する啓発活動を求め、区と巣鴨署に要望書を提出。武井悦子会長は「視覚障害者自らが安全を確保できるようになってほしい」と訴えている。日本盲人会連合は栗原さんの事故後、誘導音の二十四時間作動を求める声明を出している。

ただ、音響式信号機の普及率(一七年度末現在)は全国で11%、都内は15%にとどまる。豊島区の視覚障害の男性(52)は昨年十月、赤信号に気付かず横断歩道を渡り、車と衝突した。「一人で歩くときは、足音などで渡れるか判断するしかない。音響式信号機をもっと増やしてほしい」と求めている。

◆通勤ラッシュ避け悲劇 駒込駅前 ひかれて死亡の男性

栗原亨さんは東京大大学院在学中に緑内障を患い、視力をほぼ失ったが、一九八一年に原子核物理学の博士号を取得。短大の教官を経て、二〇〇六年から千葉市稲毛区の放射線医学総合研究所に勤め、先進医療「重粒子線がん治療」を解説する看護師向けのハンドブック作りなどに携わり、普及に貢献していた。

海外の視覚障害者とも交流し、家族には「目が悪くなって、よいこともあったよ」と語っていた。普段から白いつえを使い、曲がり角で立ち止まり、周囲を確かめるなど慎重だったという。

研究所によると、栗原さんはフレックスタイム制が認められ、十月から午前七時半の始業。電車で片道一時間以上かけて通勤し、午前六時半には職場に着いていた。通勤ラッシュ時に電車が事故などで止まると、乗客の流れが大きく変わるため、巻き込まれることを心配していたという。




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