中国に狙われた「段ボール」、年末商戦にも影響か?

年末商戦好調で拡大の勢いが止まらないネット通販。それに伴い宅配便の個数が伸び、「段ボール箱」の個数も増える。通販・宅配・引越用の段ボール箱の需要は直近5年間で約6割伸び、需要も、箱の生産も、原紙の生産も右肩上がり。「紙離れ」に悩む製紙メーカーにとって“最後の希望”だ。リサイクルの優等生で国内の回収率は96~97%に達するが、それを生産量世界一の中国から狙われている。

●年末商戦真っ只中、「段ボール」のニーズも拡大中

日本でも世界でも年末商戦たけなわだ。

アメリカでは11月22日の感謝祭が明けた翌23日の「ブラックフライデー」から26日の「サイバーマンデー」を経てクリスマスまでは、景気を左右する年間最大の消費イベントだ。「好景気に陰り」と言われながら、全米のブラックフライデーのオンライン売上高は前年比23.6%増の62億米ドル(約7000億円)、サイバーマンデーのオンライン売上高は前年比19.7%増の79億米ドル(約8900億円)、11月1~26日トータルのオンライン売上高は前年比19.9%増の585億米ドル(約6兆6000億円)で、いずれも過去最高を更新した(Adobe Systemsの集計)。

中国では一足早く11月11日の「独身の日(光棍節)」から始まったが、その日の「アリババ」など主要ECサイトの取引総額は日本円換算5.3兆円で過去最高を更新した。

そして日本ではもちろん、12月は昔からお歳暮のシーズンで、ボーナスの支給日、クリスマスを経て大みそかまで、小売業にとって書き入れ時になる。日本でもアマゾン・ジャパンが12月7日午後から11日未明まで「サイバーマンデー」セールを実施した。

この年末商戦に限らず、アマゾン・ドットコムやアリババなどネット通販大手の売上増はとどまることを知らない。

リアル店舗と違ってネット通販は商品の配達がついて回る。その成長に伴って宅配便も成長し、宅配便で運ぶのに必要な梱包材「段ボール」も需要が伸びた。宅配便のトラックはより頻繁に走り回り、より多くの段ボールが使われる。ネット通販、宅配便、段ボールは「一蓮托生」で成長している。

●段ボールは9割がリサイクル

段ボールの需要拡大というと、環境問題を考えるかもしれない。だが、「ネット通販の隆盛→段ボールの利用拡大→パルプ原料の森林の伐採→植物の二酸化炭素吸収量が減る→地球温暖化が進行」という論法は、リサイクル分を差し引いて考える必要がある。日本では原料のほとんどがリサイクル資源でまかなわれ、その分、森林伐採を食い止めている。

段ボール原紙はもともとは木材を伐採して加工したパルプが原料だが、全国段ボール工業組合連合会(以下、連合会)によると、現在は古紙のリサイクル利用が9割以上を占め、木材パルプの使用比率は1割以下に減った。「新しい段ボールは、古い段ボールを溶かし、リサイクルしてつくられる」と言っても、決して間違いではない。

段ボールの製造は、まず製紙工場で「ライナー」と「中芯原紙」が抄造される。ライナーは外装の部分で、中芯原紙は外から見えない内部で箱の強度を増すための紙だ。

次の工程で中芯原紙をライナーでサンドイッチして段ボール原紙がつくられる(ライナーが片面だけのものもある)。組み立てれば箱になるように型をくり抜き、必要な個所を接着する。

たとえば引越の前に業者が持ってくるのはこの平たい形のダンボールで、ガムテープを貼って組み立てて引越の荷造りをする。産業用の金属部品のような比較的重い物を入れる段ボール箱は、接着剤やガムテープではなく金具で止める。

●データでわかる、“最後の希望”ダンボール

梱包材として産業界から家庭までひろく普及した段ボール。連合会が箱として組み立てる前の状態で面積を測った統計では、2017年に全国で年間142億㎡が生産された。リーマンショックで2009年に126億㎡まで落ち込んだが、その後は右肩上がりで増え続け、2016年にリーマンショック前のピークの2007年を超えた。連合会は2018年の全体の需要を144億㎡と予測しており、2009年比では14.0%増えた計算になる。

連合会は実際に段ボール箱として利用された実績(製箱投入実績)も発表しており、2017年は面積換算102億8400万㎡だった。この数字も右肩上がりで2012年比11.9%増。用途別では「通販・宅配・引越用」は2017年、5億2600万㎡で全体の5.1%を占めたが、その伸び率は2012年比で約6割の59.8%増だった。全体の伸びをはるかにしのぐ成長ぶりで、ネット通販が段ボール需要を押し上げていることがこのデータでわかる。

連合会は2018年の需要予測で、「通販・宅配・引越用」はネット通販を中心に前年比8%以上の伸びをみせると見込んでいる。

段ボール需要の成長は、かつて稼ぎ頭だった新聞用紙も印刷用紙も大きく落ち込み「紙離れ」と言われて久しい製紙業界に、一筋の光明をもたらしている。

経済産業省の2017年の生産量統計によると、新聞用紙や印刷用紙などの「紙(洋紙)」はリーマンショック前は1900万トン前後で安定していたが、2017年は1458万トンで2012年比3.3%の減。10~20年前はIT機器の紙のマニュアルという“特需”があったが、現在はPDFファイルのマニュアルやオンラインマニュアルにとって代わられた。

化粧箱や段ボールなどの「板紙」は1193万トンで、2012年比9.5%増。段ボール原紙(ライナーと中芯原紙の合計)は968万トンで板紙全体の81.1%を占め、その成長率は2012年比で12.0%増。年平均2.4%増だった。

2012年と2017年を比較すると、トイレットペーパーやティッシュペーパーなど「衛生用紙」が2.3%増、プリンター用紙など「情報用紙」が1.8%増、百貨店の包装紙など「包装用紙」が0.7%増と増えたジャンルもあるが段ボール原紙の12.0%には遠く及ばない。紙と板紙を合わせた生産量2651万トンのうち36.5%と3分の1以上を占め、例外的な成長率をみせる段ボール原紙は、製紙業界にとって“最後の希望”と言ってもいい。

今の設備稼働率はフル稼働に近く、生産量トップの王子グループは2019年に段ボール原紙工場を新設すると発表した。生産量第3位の日本製紙は2017年10月に「段ボール研究室」を設置しR&D投資を積極化している。

●驚異的な回収率の日本は“段ボールの畑”

日本では古紙の回収・リサイクルは金属やペットボトルなどと比べても成績がよく、全体の回収率は2004年は68.5%だったが、2016年は81.3%に伸びた。国別では英国、韓国、フランスに次ぐ第4位である(財団法人古紙再生促進センター調べ)。

中でも段ボールは2016年で96.6%とその回収率は驚異的(全国段ボール工業組合連合会調べ)。2004年は84.0%だったが、2013年に95%を超え、2015年は97.2%で過去最高を記録するなど、まさにリサイクルの優等生と言える。廃棄物をリサイクルして金属資源を取り出す「都市鉱山」という言葉があるが、段ボールについて言えば都市に目に見えない“段ボールの畑”が存在するようなものだ。

回収した古紙は溶かされて「古紙パルプ」になり、新しい段ボール原紙を抄造する原料になる。古紙パルプは木材パルプに比べて製造に要するエネルギー(主に重油)の投入量が少なくてすみ、その分、二酸化炭素の発生が抑えられる。製紙業界の希望の星は、パリ協定(気候変動抑制に関する多国間協定)の優等生でもある。しかも木材パルプと比べると古紙パルプはその製造コストが原油価格の変動に左右されにくく割安なので、段ボール価格の安定にも貢献している。

日本の“段ボール畑”の特徴は、古紙でありながら新品に近く、不純物の混入が非常に少なく、パルプ原料としての品質が高い点にある。住宅が狭いため、宅配便を受け取って不要になった段ボールは数日後「資源ゴミ回収の日」に収集場所に出される。

事業所でも整理整頓がうるさく言われ、梱包資材の廃棄はスピーディーだ。ほかの紙や板紙、金属、プラスチックなどと混じらず、きちんと分別されて回収される。そのようにリサイクルの回転が早く、リサイクル・システムが確立していることが回収率を高め、品質を高め、供給力を高めている。

そんな国内の優れた再生資源は、日本の製紙メーカーだけが独り占めできる、とは限らない。アジアの近隣諸国からも目をつけられており、特にいま活発に日本で段ボール古紙の買い付けに動いているのが、中国である。

中国は改革開放政策以来の経済発展に伴って段ボールの生産量が急ピッチで増加し、2017年は1年で4720万トンの段ボール原紙を生産し、2位アメリカ、3位日本、4位ドイツを大きく引き離しトップに立つ。

とはいえ、輸出比率が高いため段ボールは工業製品と一緒に海外に運ばれてしまい、国内のリサイクル・システムも日本ほど整備されていないため回収率は低く、段ボール古紙は慢性的に不足している。そこで、より高品質なパルプ原料を日本に求めるようになった。欧米よりも距離が近くて輸入運賃が安い上に、日本産は品質にも定評があるからだ。

財務省の貿易統計によると古紙全体の輸出量は21世紀に入って急増し、2017年は373万トンで輸出比率は17.7%だったが、そのうち段ボールの原料になる「クラフト紙及びクラフト板紙」は165万トンで約44%を占める。輸出先は中国が約65%を占める。中国からラブコールを受けて、日本産の段ボール古紙は重要な対中輸出品になっている。

●段ボールをめぐって日中貿易摩擦が起こる?

ところが2018年秋、段ボール古紙の価格に異変が起きた。夏ごろから上昇した段ボールの輸出価格(OCC/関東製紙原料直納商工組合発表)が10月、さらに上昇し、月末に1キロ30円台という歴史的な超高値圏に突入したのだ。

11月、12月も高止まりしている。5月に中国が環境規制の一環として輸入古紙の品質基準を厳しくした影響で輸出価格が落ち込んだのが、まるでウソのような急騰をみせた。

その原因は、報復関税合戦を繰りひろげる米中貿易摩擦にある。5月の輸入古紙の品質基準厳格化は質が劣るアメリカ産古紙を締め出す「非関税障壁」でもあったが、8月にはトランプ政権の対中関税発動に対抗して中国政府はアメリカ産古紙に25%の報復関税を課した。

それがアメリカ産古紙の価格急落、日本産古紙の価格急騰の引き金を引く。中国は、従来のアメリカ産の分まで日本産でまかなおうと「爆買い」に動いたからである。

日本では、秋は年末商戦に備えて段ボール原紙を増産する時期だが、レンゴーの一部の工場では原料調達難のため9月、逆に減産を余儀なくされた例もある。

海外から爆買いされて流通量が不足したら需要と供給のバランスが崩れ、製紙メーカーに納める段ボール古紙の価格も上昇する。メーカーはそのコスト高を吸収できなければ製品の価格に転嫁せざるをえない。11月、最大手の王子HDやレンゴー、大王製紙は1日から10%程度、日本製紙は21日から15%程度、それぞれ段ボール原紙の価格を値上げした。

人手不足が原因の宅配料金の値上げに梱包材の段ボールの価格上昇まで加わって、ネット通販各社は対応に追われている。一部では段ボール箱を紙袋に変えて自衛する動きも出ているが、コストの上昇を吸収しきれなくなれば配送料を値上げするか、商品の価格に転嫁して利益を確保しようとするだろう。

まだその動きは表面化していないが、対中報復関税合戦のツケが、いずれは流通の末端、最終消費者に回ってくる可能性がある。

さらに言えば、中国による段ボール古紙の爆買いが政治問題化する恐れもある。日本の製紙メーカーは納入業者に「輸出を控えてほしい」と要請するが、もし「段ボール価格のこれ以上の上昇は困る」と、産業界ぐるみで官庁が主導する輸出数量規制にまで発展したら、古紙の調達ルートが絶たれる中国は黙っていないだろう。工作機械への報復関税のような対日報復策に出ないとも限らない。今般の「段ボール・クライシス」は、米中間顔負けの日中貿易摩擦に火をつける危うさすら、はらんでいる。

大事は小事より起こる。ベルリンの壁の崩壊のように、歴史上の大事件がささいな出来事から始まったこともある。身近でありふれた梱包材の段ボールが、日本経済に思わぬ重大な事態を招くことも十分ありうる話だ。




https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20181221-00035827-biz_plus-bus_all