肉は焼くより茹でるべし、魚は生で… 「老化の元凶」を退治する食事術

糖尿病の権威が提言「100歳時代の食卓」

細胞が老朽化する酸化が体の“サビ”であるならば、糖化は体の“コゲ”――。糖尿病の専門医であるAGE牧田クリニックの牧田善二院長は、糖化によって生成される100種類以上の構造物「AGE」が老化の元凶であると説く。その詳しいメカニズムについては前回に譲るが、骨にAGEが溜れば骨粗鬆症(こつそしょうしょう)のリスクが高まり、また糖尿病患者の代表的な合併症が腎症であるのも、腎臓がAGEの影響を受けやすい部位であるためだという。

AGEはタンパク質や脂質がブドウ糖と結合してできるが、われわれの体は水以外は、ほとんどタンパク質と脂質。糖質を摂りすぎてブドウ糖が余れば、どうなるか明白だ。だが、牧田院長によれば、これは体内で生成されるだけでなく、

「食品にも含まれ、食事を通して体に取り込んでしまうことが多い。また調理法によっても、AGEの摂取量はかなり変わります」

飽和脂肪酸を多く含む牛肉や豚肉をいくら食べても、肥満や生活習慣病に直結しない――と牧田院長は訴えるが、条件があるという。

「実は、最も危険なのが高温で調理することです。温度は揚げると170〜200度、オーブンや窯で焼くと300度にも達しますが、するとAGEが急激に増える。AGEの含有量は“KU(キロユニット)”という単位で表しますが、たとえば、皮なしの鶏むね肉を例に挙げると、生だと692KU、1時間茹でると1123KU、電子レンジで5分加熱すると1524KU、オーブンで45分焼くと6639KU、そして8分揚げると6651KUになります」

残念ながら、肉を高温に直接さらす炭火焼もAGEが多くなり、さらにコゲはAGEそのものだとか。牧田院長によれば、1日のAGE摂取量は、7千〜1万KU程度を上限にしたほうがいいという。

「AGEはコゲだと話しました。実際、AGEは茶褐色なので、概して茶色っぽい食べものは糖化が進んでいるといえます。たとえば、パンケーキのAGE含有量はざっと2300KU、ぶりの照り焼きが5千KU、焼き鳥も5千KU、ピッツァ6800KU、鶏のから揚げが7400KU、とんかつ7600KU。焼いたフランクフルト・ソーセージは1万KUを超えてしまいます」

食材として見れば、

「鶏肉はAGEの生成を防ぐビタミンB6が豊富で、抗糖化作用があるカルノシンも含まれる。また、豚肉は老化防止に高い効果があるビタミンB1がどの食品より豊富で、牛肉にはビタミンB1以上にAGEを抑制するビタミンB6が多い。みなすぐれています。しかし、肉にかぎらずどんな食材も、加熱する温度が高く、加熱時間が長いと、AGEが増える。だから、魚など生で食べられるものはなるべく生で食べて、加熱が必要であれば、低い温度でサッという程度にとどめたほうがいいのです」

AGE撃退に効果的な食材とは

では、どんなメニューがいいのか。横浜創英短大名誉教授の則岡孝子さん(栄養学)が補足してくれる。

「鶏肉のささみの棒棒鶏(バンバンジー)などは、レンジでごく短時間の加熱ならAGEの摂取をかなり抑えられます。これに抗酸化作用の高いトマトなどを添えると、なお老化防止にいいと思います。茹でた豚肉を使った豚しゃぶサラダをポン酢でいただくというのはいかがでしょう。また、糖化の抑制効果が高いビタミンB6は、牛や豚のレバーのほか、カツオやマグロ、サケなどのお魚にも多く含まれるので、カツオやマグロのカルパッチョはお勧めです。お酢を使うので、焼かなくても魚の臭みがとれます」

酢については、その効果を牧田院長もこう説く。

「油で揚げた魚は、AGEの含有量がかなり高いですが、酢でマリネして南蛮漬けにすると、酢の力でAGEが減ります。また、生の肉を単純にグリルするとAGEの量は約5倍に増えますが、グリルする前に酢に漬けると、AGEは2分の1にまで下がる。酢の代わりにレモンを用いても、同様の効果が得られます」

揚げ物好き、焼き物好きにも、救いの道は残されているのである。

では、肉や魚のほかにAGE撃退に効果的な食材はなにか。牧田院長はエキストラバージンオリーブオイルや赤白ワインなどを挙げるが、さらに、

「アリシンによる強力な殺菌作用が期待できるのがネギ。これはビタミンB1が体内で持続的に働くのを助けるので、ビタミンB1を多く含む豚肉や大豆食品を一緒に摂ると、AGEによる老化を妨げると考えられます。ほうれん草に含まれるα-リポ酸は抗糖化作用が強く、AGEが体内に蓄積するのを防ぐ働きがある。これはトマトにも豊富です。ブロッコリーに含まれているスルフォラファンも、抗糖化作用が強いうえ、AGEの生成自体を予防できる。キノコ類にはビタミンB群がたっぷり含まれるほか、β-グルカンが免疫細胞のマクロファージの効果を高め、生活習慣病を強力に防いでくれます。ほかに、牡蠣はビタミンB群が豊富で抗糖化作用があり、強い抗酸化作用があるビタミンACEが多い。栄養が凝縮した食材です」

朝昼夜で3対5対2

薬味のようなものもバカにはできない。

「ごまはビタミンB1が豊富で、体内の老化を防ぐほか、ごまだけに含まれる抗酸化物質ゴマリグナンには、アンチエイジング効果のほか、肝機能を回復する力も期待できる。また、ハーブやスパイスは全般に、抗AGE作用および抗酸化作用が期待できます」

体内の糖化を防ぐという意味では、食べ方も大事だという。牧田院長は、「夜に向かうほど厳しい糖質制限を行い、朝昼夜の糖質摂取量のバランスを3対5対2くらいにすべき」だと訴える。

その理由は先の則岡さんによれば、

「夜は副交感神経の働きが活発になるので、ただでさえ代謝が進んで太りやすくなる。AGEを避ける意味でも控えめが肝要です」

また、空腹時に一気に糖質を摂ると血糖値が上がりすぎるので、間食を我慢するよりもむしろ、

「同じ量ならちょこちょこ食べたほうが太らない」と、牧田院長。総合内科専門医である秋津医院の秋津壽男院長も説く。

「AGEの防止では、血糖を上げないこと、食後に血糖値が急上昇する血糖スパイクを防ぐことが大事。3食のうち1食は炭水化物を抜くくらいでいいと思う」

がんやアルツハイマーも

ところで、タンパク質に入り込んだAGEが体の機能を劣化させることには触れたが、実はそれだけではなく、牧田院長は、

「もっと直接的に病気を惹き起こす側面があります」と言うのである。

「人間の体には、異物が体内に入ると撃退する免疫システムがあり、AGEが発生すると食細胞のマクロファージがこれを貪食します。ところが、マクロファージは食べるときに炎症を起こさせるので、AGEが蓄積した臓器には慢性的な炎症が起きる。最近、この炎症が動脈硬化やがんの一因ではないかという学説も出ています。体内にAGEを多く抱えていると遺伝子エラーが起こりやすく、これががんの発生に深く関わる、と主張する人もいます。人間の細胞は新陳代謝で新しい細胞を作るとき、遺伝子をコピーしますが、糖化が原因でコピーにエラーが発生し、がんが発生しやすくなるというのです」

牧田院長は、糖尿病患者のがん発症率の高さが、この説を裏づけると説く。実際、日本糖尿病学会と日本癌学会が2013年に発表した、10年間の追跡調査の結果では、糖尿病患者の発症率は糖尿病でない人にくらべ、大腸がんは1・40倍、肝臓がん1・97倍、膵臓がんは1・85倍である。

また、アルツハイマー型認知症についても、

「この病気の人に認められる老人斑は、アミロイドβというタンパク質が蓄積してできたアミロイド線維です。札幌医大精神科の先生と共同研究したところ、この老人斑に大量のAGEが含まれているとわかりました。メカニズムはまだわかっていませんが、AGEがアミロイドβと結合し、脳細胞に沈着するのではないかと考えています」

ただし、怖がる必要はないという。

「AGEの多くは、タンパク質が新陳代謝で入れ替わるときに一緒に消える。代謝回転が遅いタンパク質もありますが、たとえば血液中のタンパク質は数分から数カ月で入れ替わる。入れ替わったあと、新たにAGEを溜めなければ、血管がもろく硬くなるのを防げます。意識さえしていれば100歳も夢ではありません」

100歳まで生きたくない、という人はいても、病気になりたい人はいないだろう。食事のひと工夫で病気を防げれば、それに越したことはないではないか。




https://news.goo.ne.jp/article/dailyshincho/life/dailyshincho-552343.html