老親の家計管理を助ける 家族が医療費や役所通知確認

確定申告を手伝えば、年金額など年収把握

平日の夜。夕食を終えた筧家のダイニングテーブルでは、幸子と恵が食後のお茶を楽しんでいます。一方、良男はテレビのニュースを熱心に見ています。認知症の特集のようで、良男の表情が少し険しくなりました。

筧良男 会社の同僚が久しぶりに実家に帰ったらしいんだけど、特に父親について「最近、物忘れが激しくなってきたので認知症の検査を受けさせたい」と言っていたよ。

筧恵 高齢になって書類を見たり、手続きに行ったりするのがおっくうになると、子供が老親の家計管理の手助けもしてあげないといけないのかな。

筧幸子 認知症になる前の段階から多少のサポートをしたいわね。65歳以上の一人暮らしや夫婦のみの世帯は2017年に1270万世帯で全世帯の25%。4世帯に1世帯が高齢者のみで暮らしているの。親に衰えが見えてきたらなるべく家計管理も手伝ってあげるといいわ。

恵 でも、私はパパに「お金はどのくらいあるの」とは、とても怖くて聞けないわ。

良男 ……。

幸子 パパの同僚の人の場合、まずは医療費の管理から手伝ってみてはどうかしら。親としても子供に体調を気遣ってもらうのはうれしいものよ。

良男 そういえば同僚は、両親から「医療費が大幅に増えた」と愚痴をこぼされたそうだ。両親が加入する75歳以上が対象の後期高齢者医療保険制度の被保険者証を見ると、窓口で支払う自己負担割合が3割になっていたらしい。「昨年までは1割だったのにどうしてなのか」って首をひねってたよ。

幸子 75歳以上で課税所得が145万円以上だと「現役並み所得者」という扱いになって自己負担割合は3割になるわ。昨年は1割負担だったのなら、なにか大きな収入があって所得が増えたということはない?

良男 同僚によると、両親の年間収入は公的年金と企業年金、それに多少の株式の配当金があり、2人合わせて年間400万円程度。「年収はここ何年も変わらない」というんだ。

幸子 2人の年収の合計が520万円未満なら「基準収入額適合申請」という手続きをすれば1割負担になるわ。同僚の両親が年に一度の手続きを忘れたのじゃないかしら。申請して1割負担に戻せば、払い過ぎた医療費が還付されるの。あと、来年の確定申告で医療費控除の手続きを手伝えば、年金額など年収がわかるようになるわ。

恵 元気な親だときっかけがなさそうだけど……。

幸子 ファイナンシャルプランナーの北見久美子さんは「金融資産などに比べると、役所からの通知なら子供が見ても抵抗はないと思う」と話しているの。固定資産税の通知書を確認し、納税し忘れていないかをチェックしてもいいわね。家の話をきっかけに、火災保険や地震保険に加入しているかといった話題にもつながるでしょ?

良男 預貯金でいえば、来年1月から休眠預金を活用する取り組みが始まるそうだが、同僚の両親は大丈夫かな。

幸子 民間の金融機関では10年以上放置された預金が対象で、社会事業に生かすためにNPOなどの活動資金にしてもらう取り組みね。でも、預金が没収されるわけではなく、金融機関に申請すればいつでも払い戻してもらえるわ。今後、休眠預金がある顧客には郵送などで通知される予定なので、子供としては気をつけておきたいわね。

恵 株式などの金融商品の管理を手伝うには?

幸子 株式や投資信託を保有していると、証券会社から年に1回以上、「取引残高報告書」が来ているはずよ。複数の証券会社に口座を持っていて、一方の口座で利益が出て源泉徴収課税された場合も、別の口座で損失が出ていれば、確定申告で損益通算すれば課税された税金が戻ってくる場合があるわ。損失を引き切れない場合は3年間繰り越しができるの。

筧幸子(かけい・さちこ、48=上) 筧良男(かけい・よしお、52=中)  筧恵(かけい・めぐみ、25) 

良男 歩くのがきつくなって外出が面倒になったら預金の引き出しも大変になるよね。

幸子 子供が親の任意代理人になる方法があるわ。親子そろって金融機関で手続きをすれば、子供が一定の範囲で親の預金口座からお金を引き出せるようになるの。また、有料だけど、地域の社会福祉協議会の「日常生活自立支援事業」を利用するという手もあるわ。生活支援員という人が日常生活に必要なお金の引き出しなどを手伝ってくれるサービスで、利用する場合は面談して支援計画をつくり、協議会と契約を結ぶの。

良男 衰えがみえてきた高齢者の暮らしをサポートする仕組みはいろいろとあるんだね。

幸子 親の家計管理を手伝うといっても、実はモノの管理が大事よ。例えば、役所への申請で必要になるマイナンバーカードやその通知書、印鑑登録証などは役所関係のファイルにまとめておくとか、自宅の権利証や保険証券などは重要書類として保管場所を決めておくの。家計管理以外でも、たとえばふだん使う病院の診察券や健康保険証などはお薬手帳と一緒にしておくといいわ。役所からは無料で受けられるインフルエンザの予防接種や健康診断の案内が来ていることもあるから、受診を勧めて一緒に行くといいわね。そうして親とコミュニケーションをとっておけば、いざというときも慌てなくて済むんじゃないかな。

■自分が老いた際に役立つ

ファイナンシャルプランナー 北見久美子さん

離れて暮らす親の家計管理を手伝うのは大変だというイメージがあるかもしれません。しかし、急な病で倒れたり認知症になったりしてからでは、預貯金などの資産がどこにあるのか分からず、苦労する人が少なくありません。親の家に行った際には役所などからの書類をチェックしましょう。衰えてくると、難しそうな文書を読むのが面倒になりがちだからです。

兄弟がいる人は事前に役割分担を相談しておきましょう。その際、親から聞いていた土地など財産の状況が兄弟で食い違っていることがしばしば判明しますが、親に確認できれば正せます。親の家計管理を手伝うのは自分のためでもあります。自分が年老いたときの身の回りの整理、医療保険や税の控除の制度などについて知ることができるからです。




https://style.nikkei.com/article/DGXMZO38218520X21C18A1NZKP00?channel=DF280120166591&style=1