【特集】「医療的ケア児」家族の悩み 受け入れ施設の課題

生活する上で医療的な介助を必要とする子どもを「医療的ケア児」といいます。24時間付きっきりで医療的ケア児に寄り添う家族にとって一時的に子どもを預かってくれる施設は欠かせないものですが、その数は十分とは言えません。医療的ケア児がいるある家族を取材し、その胸の内を聞きました。

離れず寄り添う母 健康状態を常時チェック 

家の中で3歳離れたお兄ちゃんと遊んでいる兵庫県内に住む谷田翼くん(6)。自営業の両親と兄の4人家族で、母親の理絵さんは介助が必要な翼くんに付きっきりです。

「お兄ちゃんがよく遊んでくれる、寝るときもずっと一緒で。ずっと引っついて寝ています」(母・理絵さん)

翼くんが生まれたのは6年前。生まれる直前、理絵さんに子宮破裂が起こりました。このとき、翼くんの呼吸が止まってしまい、脳に大きなダメージを受けました。意識は戻りましたが脳性麻痺と診断され、医師からは「この子は一生歩いたり、食べたり、話したりが出来ない」と宣告されました。口や鼻からの呼吸がしにくくなり、1歳3か月で気管切開の手術を受けました。

「たんが溜まると吸引器でたんを吸います」(母・理絵さん)

翼くんはつばを飲み込むことができないため、頻繁にたんを吸引する必要があります。成長とともに回数も減ってきたといいますが、それでも1日40~50回ほど行わなければなりません。ベッドからの移動は理絵さんが毎回抱きかかえます。

「(体重は)今15キロです。なんか急に大きくなってきて、もう私も結構大変なんですけど、重いです。首が座ってない分、人より重たく感じますね」(母・理絵さん)

食事は1日4回。翼くん専用のペースト状のご飯です。

「栄養剤で『ラコール』って言います」(母・理絵さん)

口から食べ物を食べられないため、胃ろうの手術も受けました。注射器のようなもので胃に直接入れます。体がほとんど動かない翼くん。理絵さんはわずかな表情の変化で気持ちを読み取ります。翼くんの足にはセンサーを付けています。体内の酸素量などを常にチェックし健康状態に気を配ります。

「(最近は)状態も安定してるので、ずーっと見ているわけでもなく、でも気にしてないと。大きな発作が来るときは急に来るので」(母・理絵さん)

家ではひとときも離れずに、ずっと翼くんに寄り添って過ごします。

親と子どもが別々に過ごす“貴重な時間”

この日、理絵さんと翼くんが訪れたのは医療型児童発達支援センター「たじかの園」です。この園には、発達障がいなどがある1歳から就学前までの子どもたちが通い、リハビリや療育を受けています。翼くんは週に3回ここに通っています。この園では療育中、親と子どもが別々に過ごす時間を作っています。理絵さんも2時間ほど翼くんのケアから離れ、他の保護者とおしゃべりをします。理絵さんにとってこの時間がとても貴重だといいます。

「ちょっとずつ離れられるようになったので、心にゆとりもできたし、いろいろな情報も得られるので」(母・理絵さん)

たんの吸引など医療的介助は、法律で家族以外では医療従事者か一定の研修を受けた人しかできない決まりとなっています。

「理学療法士、作業療法士、言語聴覚士は吸引の研修を受けまして、喀痰吸引ができるような体制を整えています」(「たじかの園」高橋真奈美園長)

施設にとって、医療的ケアができる体制づくりが大きな課題となっています。

受け入れ施設不足の現状

医療的ケア児は全国に約1万8000人います(出典:厚生労働省)。医学の進歩によって救える命が増えた一方、障がいが残る子どもの数はこの10年で2倍になりました。しかし保護者らによると、受け入れ施設は圧倒的に数が足りておらず、情報すら手元に届かないといいます。障がい者の中でも医療的行為を必要とする点がハードルになっていると関係者は指摘します。

「看護師などの人材不足がある。普通の障がい児福祉サービスに加えて、医療的ケアに対応する設備が必要になってくる。それに関しても特に補助金がつくわけではないので、事業者が用意しなければいけない」(医療的ケア児支援協議会事務局 黒木健太さん)

翼くんの母親・理絵さんも、医療的ケア児を受け入れてくれる施設探しには苦労したといいます。

「どこに相談したらいいのか、全て自分でやらなければいけなかったので、もう本当の身も心もぼろぼろになって」(母・理絵さん)

ボランティア団体から支援の輪が広がる

そんな思いから去年3月、あるボランティア団体が生まれました。名前は「Wings(ウイングス)」。発起人は、理絵さんの兄・本郷朋博さんで、医療的ケア児と家族を支える目的で会を立ち上げました。

「妹がなかなか周りに相談できない、自分の中で抱えている状況だったので、そういうお母さんたちっていっぱいいらっしゃるのかなと思って。まずお母さんたちを集める座談会を開こうと」(理絵さんの兄・本郷朋博さん)

会では、孤立しがちな医療的ケア児を持つ家族同志をつなげたり、座談会に看護師や議員を呼び意見交換の場を作ったりしました。活動を通して見えてきたのは、一時も目を離せない子どもの医療ケアを背負った家族の深刻な悩みでした。

「医療的ケアがあるために学校への付き添いや待機を求められ、仕事を辞めざる得ず、収入が得られない」(座談会での家族の声)

子どもの預け先がないため、仕事を辞めて経済的に苦しむ家族の姿などが浮き彫りとなりました。

会では今後、行政に意見を提出し、支援の充実を求めていくことにしています。

「制度も少しずつ整ってきたところはあるが、やはり現場というか、福祉の担当者の方が医療的ケアの知識がなかったりとか、現場の対応っていうのはこれから求められるのかなと思っています」(理絵さんの兄・本郷朋博さん)

理絵さんも家族でイベントに参加する中で、少しずつですが支援の輪が広がっているのを感じています。

「本当に翼くんが生まれたのは(支援の輪を広げること)なのかなって、世間にいろいろ影響を与えてくれているので、翼くんのおかげかなと思います」(母・理絵さん)




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