認知症保険の新商品が続々…どう選ぶ? 専門家が解説

認知症への対応を前面に打ち出した保険の発売が相次いでいる。医療・介護の費用をカバーするものに加え、「予防」を掲げ、発症前の段階にスポットを当てた保険も登場した。選択肢が増えた分、多様な条件を比較・検討するのがなかなか難しくなってきている。選ぶ際のポイントを専門家に解説してもらった。

「予防給付金」でMCIリスク検査

認知症保険の新商品が続々 多様な条件から選ぶポイントは?

「まずは70歳まで、できればその先も働き続けたい。保険がその助けになるのではと期待しています」。そう話すのは、さいたま市の会社員、河原井武次さん(64)だ。

河原井さんは10月、太陽生命保険が新たに発売した「ひまわり認知症予防保険」に入った。この保険は、認知症と診断されると最大100万円の「認知症診断保険金」が下りるが、加入から1年たった時点で認知症になっていなければ、3万円の「予防給付金」が支払われる。

その際に、認知症の前段階とされる軽度認知障害(MCI)のリスクをはかる血液検査を実施している医療機関を同社が案内してくれるので、「予防給付金」を使って検査を受けることができる。高リスクと判定された場合、さらに詳しい検査を受けてMCIかどうかを医師に診断してもらう必要があるが、河原井さんはその仕組みが「面白い」と気にいり、契約したのだ。

「予防給付金」は、その後も2年ごとに支払われる。お金の使い道は加入者の自由だが、河原井さんは、「検査を続ければ、自分の健康状態の記録にもなる。もし認知機能の低下が明らかになったら、すぐに医師に相談して、その先のことを考えたい」と、同社の勧める通り、MCIリスクの検査に使うつもりだ。

早期発見で予防目指す

同社は、16年に国内で初めて認知症保険を発売。今年10月までに40万件を販売する大ヒットとなった。この保険は、同社が定める認知症の状態が180日続いた場合に保険金が支払われる仕組みだったが、今回、新たに発売した「ひまわり認知症予防保険」では、認知症になる前の段階をターゲットにして給付を行うとともに、認知症と診断されたら、すぐに保険金を受け取って治療やリハビリに使えるようにした。

河原井さんを担当する同社大宮支社の陶山浩一朗支社長は、「認知症になってしまったら、今の医療では治すことはできませんが、MCIの段階なら、専門のトレーニングなどにより、認知機能が回復する可能性があります。早期発見に、ぜひこの保険を役立てていただきたい」と話す。

MCIで保険金を活用

同じく10月、認知症になる前の段階に着目した保険がもう一つ誕生した。損保ジャパン日本興亜ひまわり生命保険の「リンククロス 笑顔をまもる認知症保険」だ。医師にMCIと診断されると、骨折治療保険の認知症特約の保険金(最大500万円)の一部(5%)を受け取ることができる。

MCIに対して保険金が下りる保険は、国内で初めて。同社商品企画部の相田剛特命課長は、「MCIの段階で保険金の一部をお支払いすることで、認知機能のトレーニングなど、認知症への進行を抑える活動に保険金を有効利用できます」と、狙いを語る。

認知機能がさらに低下して認知症になったら、残りの保険金が支払われる。MCIの段階を経ずに認知症と診断された場合には、一度に全額が下りる。

太陽生命と同じく16年に初めて認知症保険を発売した朝日生命保険は、公的介護保険で要支援2以上と認定されると保険金が支払われる保険を10月に新設。介護の必要性が比較的軽い要支援で保険金が下りるのは業界初で、認知症保険や既存の介護保険と組み合わせて契約することで、症状が軽い段階から保障を受けられるようにした。

重度化で年金に上乗せも

発症前や、発症初期の段階に着目した各社とは対照的に、病気が進行して重度になった場合により手厚く保障するのが、富国生命保険が総合保険の特約として10月に新設した「あんしんケアダブル」だ。公的介護保険で要介護2以上と認定された場合などに年金の支払いがスタートし、認知症が進んで重度になると年金額が50%上乗せされる。認知症の進行に伴い、介護費用が増えるのに対応する仕組みだ。

三井住友海上あいおい生命保険は4月、医療保険と終身保険の介護特約を改定し、認知症の保障を強化した。認知症になり、同社の基準に当てはまる状態が180日以上続くと、最大300万円の「認知症一時金」が、「介護障害年金」に上乗せされる。

軽い負担で公的保険を補う

介護大手のセントケア・グループのセント・プラス少額短期保険が2月に発売した「認知症のささえ」は、認知症で見当識障害(時間や季節、自分がいる場所などが分からなくなる症状)がある状態が90日続いた場合に、最大80万円が支払われる。

抗認知症薬「アリセプト」を製造・販売するエーザイから、認知症の発症や進行などに関するデータ提供を受けて、共同開発した。1年ごとの更新で、その間に認知症にならなければ保険料は戻ってこないが、80万円が一時金として支払われるコースでも、60歳男性の保険料(月払い)が月額650円という手軽さだ。同社の坂本英一郎社長は、「高齢化が進んで国の財政が厳しさを増す中で、今後、公的な介護保険の給付が絞られていく可能性が高い。シンプルな仕組みと軽い保険料負担で、公的保険の給付が目減りした分を補うことができれば」と利点をアピールする。

市場が拡大、参入相次ぐ

認知症保険への新規参入や新商品の発売が相次いでいる背景には、市場の急激な広がりがある。厚生労働省の推計によると、認知症の人の数は、2012年の約460万人から、25年には約700万人まで増える見通し。認知症になると見守りや介助に多くの人手が必要で、朝日生命が厚労省のデータなどを基に行った推計では、重度の認知症の人の年間介護費用は約110万円で、認知症がない人(約52万円)の2倍以上だった。16年には、線路に入って列車にはねられた認知症の男性の遺族が損害賠償を請求された裁判で、最高裁が鉄道会社側の請求を棄却したことが大きく報じられた。

認知症のリスクに対する社会の関心が高まる中、同年に太陽生命、朝日生命の両社が相次いで認知症保険を発売すると、ともに当初の予想をはるかに超える売れ行きとなり、各社が後を追って様々な保険が誕生した。

異なる条件、比較のポイントとは

不安の高まりを背景に、加入者が急増している認知症保険だが、ファイナンシャルプランナーの黒田尚子さんは、「認知症の診断から一定期間がたたないと保険金が下りないなど、条件によっては、必要な時にお金がもらえないこともある。認知症保険に入っておけば、すべて安心というわけではありません」と、くぎを刺す。

各社がそれぞれに特色を打ち出す中で、比較・検討するのが難しくなっている。「そもそもどんな保障が必要かは、年齢や健康状態、家族構成、収入や資産など、様々な要素によって変わってくるので、『よい保険』は一人ひとり違います」という黒田さんに、自分に合った保険を選ぶ際のポイントを挙げてもらった。

(1)保障の範囲

「『公的介護保険の要介護認定』や、『医師による認知症の診断』など、保険金が下りる条件はそれぞれ異なります。主契約である医療保険に特約として付けるものや、骨折もカバーするものなど、認知症以外に保障される範囲も様々。カバーされる範囲が広いほど、保険料にはね返ってくるので、自分に必要な保障を整理して検討しましょう」 

(2)保険金

「認知症になったとき、どれくらいの支払いを受けられるようにするべきなのかは、資産や収入も含めて考える必要があります。また、一定期間、健康を保つことができて保険を使わなかった場合に支払ったお金の一部が戻ってくるタイプはお得な気がしますが、元々、その分も含んで保険料が決められていることを忘れずに」

(3)加入者の条件

「保険に加入できる年齢は、商品ごとに異なります。また、認知症以外であれば持病があっても入れるタイプもありますが、その分、保険料は高くなります」

(4)保険料

「終身の保険の場合、より若いうちに加入すれば、それだけ保険料を長く払い続けることになりますが、月々の支払いは軽くなります。また、掛け捨ての保険は損だと感じる人も多いようですが、安い保険料でいざという時に備えることができるという利点もあります」

(5)保険金請求の支援体制

「認知症になったら、自分で保険金を請求できるか分かりませんし、家族がいても、代わりにやってくれるとは限りません。保険の内容を家族にも説明してくれたり、営業担当者や専門の支援チームが手続きをサポートしてくれたりする場合もあるので、各社の体制を確認しておきましょう」

黒田さんは、「認知症になった時、どんな生活を送りたいと希望していて、そのためにはどういう保障が必要なのかをよく考えましょう。限られた家計費から保険料を支払うのですから、生活の中での認知症保険の優先順位を冷静に判断する必要があります。場合によっては、保険に入らず、貯金で備えるという選択もあり得ます」と話している。




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