近隣住民襲う竹林…放棄認められない“厄介な土地” 取材の舞台裏

西日本新聞が1月にスタートした「あなたの特命取材班(あな特)」。これまでに読者から2千件を超える調査依頼が寄せられ、100本以上の記事を掲載、全国から反響を呼んでいます。この記事は「近隣住民襲う竹林」と題した記事を書いた記者が、取材を振り返って改めて執筆したものです。

その電話は信じがたい内容だった。

「自宅の裏の崖から竹が落ちてきます。命の危険すら感じます」

昨年入社した新人記者である私にとって、新聞社にかかってくる電話への応対は大切な仕事の一つ。不正の告発から個人的な悩みまで、受話器を通じてさまざまな話を聞いた。中でも、福岡市西区姪の浜の女性(67)から「竹が落ちてくる」と相談された時は、頭の中で「?」が浮かんだ。今年2月のことだ。

「ただでも引き取れないと言われて…」

女性宅を訪ねた。裏の崖を見上げると、長さ5メートルほどの竹が幹の途中から折れてぶら下がっている。風にあおられ、今にも先端から落下しそうだった。庭の掃除中、「ストン」と背後に落ちてきたこともあるという。当たり方によっては命に関わると想像できた。

崖の上の土地の持ち主は何をしているのだろう。登記簿に記された所有者の住所は既に存在しなかった。近くの住人に尋ねても分からない。電話帳で同市西区の同姓の人に片っ端から電話をかけ、ようやく捜し当てた所有者は80代の女性。涙を浮かべながら事情を説明してくれた。

問題の土地は亡き夫から45年前に相続した。2001年に斜面が崩れ、市や消防が土砂を撤去してくれたが、以後の安全管理は「自己負担」。親戚に借金して工事代に充て、最近やっと返済したが、今度は竹が落ちてくるようになった。

足が悪く、自分では処理できない。年金生活で業者に頼む余裕もない。土地を手放そうと不動産会社や行政に相談したが「使い道がないので、ただでも引き取れないと言われて…」。

これまで工事にかかった領収書の束も見せてくれた。金額を足すと367万5千円になった。

そこで、素朴な疑問に行き着いた。土地は捨てられないのか。民法には「所有者のない不動産は、国庫に帰属する」とあるが、土地の所有権放棄について定めた条文はない。大学教授に聞くと、今回のような土地の放棄は、一般的に認められないという。

記事を掲載すると、土地を手放したくても手放せないという悲鳴が全国から届いた。相続したものの利活用できず、固定資産税や草刈りの負担に悩む人がいた。自宅裏に崖があって土砂災害特別警戒区域(レッドゾーン)に指定され、建て替えをしたくてもできないというSOSもあった。不動産はもはや、堅実な資産とは限らない。

人口減少、高齢化が進む日本社会。「厄介な土地」は増えていくのかもしれない。決して人ごとではないのだと思った。

土地所有者の女性がこぼした言葉が忘れられない。「もう自分にはどうすることもできない。うちの竹が人を殺してしまったら、死刑にでもしてください」




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