ただの肩こりじゃなかった! 重病を知らせる「痛み」8選

「痛い!」は身体のSOS。病気やケガに気づくきっかけになるが、痛む場所に原因があるとは限らない。思いも寄らない部位が痛いということも多々あるのだ。診断が遅れれば、それだけ治療は難しくなる。これだけは知っておきたい、重病が潜んでいる痛みについてまとめた。

九州在住の男性Aさん(50代)は、肩こりを感じて週に何度かマッサージ店に通っていた。しかし、一向に改善されない。整形外科を受診しようとした矢先、強い胸の痛みと息苦しさに襲われ、救急車で搬送された。医師の診断は、「急性心筋梗塞」だった。

「Aさんは幸い、適切な治療を受けたため、命に関わるようなことはありませんでしたが、そのとき医師から聞いて初めて“肩こりが心筋梗塞の症状”であることを知ったわけです」

こう話すのは、Aさんの治療を担当した小倉記念病院(北九州市小倉北区)循環器内科主任部長の安藤献児さんだ。

“痛み”は身体が発するSOS。だが、必ずしも病気になった臓器の周辺が痛むとは限らない。心臓の病気で肩に症状が出たAさんのように、思いも寄らない場所が痛むことがあるのだ。

「こうした痛みのことを、『関連痛』とか、『放散痛』と言います」

と説明するのは、総合診療医で、アメリカの家庭医療の専門医資格も持つ生坂政臣さん(千葉大学医学部附属病院総合診療科科長)だ。

一般的には関連痛は“病気になった臓器の周辺ではなく、別の場所だけに生じる痛み”、放散痛は“病気になった臓器の周辺と、別の場所の両方で生じる痛み”と区別される。

「とくに問題になるのは、関連痛。内臓由来のものと骨や筋肉由来のものがあり、絶対に見逃してはいけないのが前者です」(生坂さん)

ただ、こうした痛みから正しい病気を診断するのは、その分野に精通した医師でないと難しい。

「例えば、“肩が痛いから整形外科に行った”など、患者さんの自己判断で病気とはまったく関係のない診療科を選んでしまうと、誤診につながる恐れがあります。実際、それで医療過誤となった事例も珍しくありません」(同)

誤診とまではいかなくても、診断が遅れればそれだけ治療は難しくなる。わが身を守るためにも、「重病が潜んでいる痛み」は知っておきたい。身体の部位ごとに「誤解しがちな痛みのパターン」と可能性のある病気を紹介していこう。

(1)「左肩が痛い。肩こりが治らない」→「狭心症」「心筋梗塞」で命のキケンも!?

循環器内科医の安藤さんは、肩の痛みを引き起こす病気として、「狭心症」と「心筋梗塞」の二つを挙げる。肩こりや五十肩だと思って、整形外科や整体、マッサージなどに通っている人は、本当に肩が原因の痛みなのか、一度、疑ってみたほうがいいかもしれない。とくに左肩が痛んだら要注意だという。

狭心症は、動脈硬化によって心臓に酸素を供給する冠動脈の内腔が狭まり、血液の流れが悪くなって、心臓の筋肉(心筋)が酸欠を起こす病気。冠動脈が完全に詰まった状態が心筋梗塞で、酸欠になった心筋が壊死し、命にも関わる。

「最も患者数が多いのが、『労作性狭心症』。その代表的な関連痛である肩痛は、心臓に負荷をかけたり、体を動かしたりしたときに生じます。持続時間は3〜5分ぐらい。一方、『急性心筋梗塞』ではガマンできないほどの強い痛みが持続します。圧迫感や、締め付けられたような絞扼感を伴うことがあります」(安藤さん)

また、動脈硬化によらない特殊な「冠れん縮性狭心症」でも関連痛として肩痛が起こる。原因はわかっていないが、発症にはストレスなどが関係していると言われている。こちらは夜間や朝など、安静時に痛むのが特徴だ。持続時間は労作性狭心症よりも長めだ。

生坂さんは関連痛と単なる肩の痛みを見分ける“目安”を教えてくれた。

「肩こりや五十肩は“肩を動かすと痛む”。一方、関連痛は“肩の動きと関係なく痛む”。痛いところを動かしてみて『イテテ!』となれば様子を見ていればよいことが多く、動かしても痛みの強さが変わらない場合は、直ちに医療機関を受診したほうがいいということです」

(2)「歯やあごが痛い」→「心筋梗塞」「狭心症」の症状!?

「歯痛やあごの痛みも、心筋梗塞や狭心症の代表的な関連痛」と安藤さん。全身の病気に詳しい歯科医や口腔外科医であれば、心臓の病気を疑うかもしれない。ただ、患者全員に心臓の検査を受けるよう勧めるのは、現実的ではない。

「狭心症や心筋梗塞のリスクは高血圧や糖尿病、喫煙などです。こうした病気や生活習慣に該当する人は、歯痛があったときは、念のため循環器内科を受診しておいたほうがいいかもしれません」(安藤さん)

(3)「胸が痛い。まさか心臓の病気?」→女性は「微小血管狭心症」に気をつけて!!

一方、胸痛は多くの人が心臓の病気を疑うが、意外にも狭心症や心筋梗塞ではないこともある。安藤さんは、「表面が痛い、指で場所を示して『ここがチクチクして痛い』というような痛み方は、狭心症や心筋梗塞の可能性は低い」と言う。

女性で覚えておいたほうがいいのは、更年期を迎えたころに起こる「微小血管狭心症」だ。牧田産婦人科医院(埼玉県新座市)院長の牧田和也さんはこう説明する。

「一般的な狭心症と違って動脈硬化などがなく、一時的に起こる胸痛が特徴です。夜間に多く発症します」

牧田さんによると、微小血管狭心症は女性ホルモンのエストロゲンの低下が関わっていると考えられているものの、確証は得られていないという。

「検査で典型的な狭心症や心筋梗塞が見つからないが、症状が続く場合、年齢やエストロゲンの低下状態などから、総合的にこの病気と診断されます」(牧田さん)

(4)「みぞおちのあたりが痛む。胃炎かも」→「急性虫垂炎」で緊急手術!? 「PID」の可能性も

みぞおちの痛みがあれば、一般的には胃炎など胃の病気を疑う。だが、検査をしても問題が見つからず、そのまま家に帰ったら夜になって大ごとに──。実はこうしたケースは意外と珍しくない。

関連痛として、みぞおちの痛みをもたらす代表的な病気が、「急性虫垂炎」だ。消化器が専門の帝京大学医学部附属病院IBD(炎症性腸疾患)センター長の橋口陽二郎さんは、「たかが虫垂炎と侮ってはいけない。こじらせると命にも関わる」と話す。

虫垂炎はご存じのとおり、腸の右側にある虫垂(盲腸)に炎症が起こる病気。何らかのきっかけで炎症が起こり、虫垂に穴が開いたり破裂したりすると、そこから内容物の便などがおなかの中に散らばり、腹膜炎をもたらす。そうなると緊急手術が必要になる。

橋口さんによると、虫垂炎の痛みは臓器がある右側の下腹部痛ではなく、「むしろ、みぞおちの痛みやむかつき、吐き気などから始まるケースが多い」。半日から1、2日経ってから、右側の下腹部が痛み出すという。

「それだけに初期診断が非常に難しい病気です。胃の調子が悪くて胃に問題がない場合、その後も注意深く様子を見て、痛みが右腹部に移動してきたら、すぐに医療機関に行ってください」(橋口さん)

女性であれば、「PID(骨盤内炎症性疾患)」という病気の可能性も。産婦人科医の牧田さんはこう説明する。

「PIDは、クラミジア感染など、パートナーとの性交渉によって起こる子宮、卵管、卵巣周囲の感染症の総称です。急激に起こる痛みと発熱(ときに高熱)が特徴で、感染が進むと卵巣や卵管に膿がたまります。痛みは下腹部痛、性交痛が主ですが、肝臓にまで感染が広がる『肝周囲炎』を発症すると、右の季肋(きろく)部(肋骨の下あたり)が痛くなります」

もちろん、みぞおちが痛む病気は、急性胃炎、慢性胃炎、アニサキス症(寄生虫のアニサキスを食事で摂取したことで起こる食中毒の一つ)、胃潰瘍などさまざまだ。こうした病気ではないことを、検査できちんと確認してもらうことは大事だろう。

(5)「腰が……。ぎっくり腰? ヘルニア?」→「大動脈解離」で救急搬送!? 「膵炎」「尿路結石」の可能性も

キケン度が高いのは、腰が悪いと思っていたら、実は「大動脈解離」が起こっていたというケース。千葉徳洲会病院(千葉県船橋市)副院長の鶴田好彦さんは、「腰痛で絶対に見逃してはいけない病気」と語る。

大動脈解離とは、心臓から全身に血液を送り出す通り道で、全身で最も太い血管である大動脈の内側の膜が剥がれて、血液が流れ込んだ状態。喫煙者や血圧の高い高齢者に多い病気で、大動脈破裂などが起これば、一刻を争う。鶴田さんは言う。

「大動脈解離は突然、痛みが起こるため、多くは救急車で運ばれますが、高齢者では痛みの感じ方が鈍くなっていることがあるため、ガマンしてしまう。あるいは重い荷物を持ったときにたまたま発症したことから、ぎっくり腰だと思って整形外科を受診して、手遅れになってしまうこともあるようです」

注意する目安として、生坂さんは「腰よりも上の痛み、背部痛があるときは気をつけて」と話す。

「腰は、悪い姿勢などで最も負担がかかる部分。椎間板ヘルニアなど整形外科的な病気は脊椎の下側、つまり腰に現れやすい。一方、脊椎のなかでも負担が軽いのが背部。そこが痛くなるような場合は、やはり大動脈などの病気を疑ったほうがいいと思います」(生坂さん)

ほかにも、腰や背中の痛みは、「逆流性食道炎」や「胸膜炎」などの食道や肺の病気、「膵炎」「尿路結石」などの膵臓や泌尿器などの病気が隠れていることもある。急に痛み出した場合は注意しよう。

(6)「おなかが痛いくらいは、ガマンしよう」→「腸閉塞」で緊急手術!?

多かれ少なかれ誰でも経験したことがある、下腹部の痛み。横になっていればよくなるケースもあるが、キケンな痛みのこともある。

橋口さんは、「腹部の手術を受けたことがある人で、急な痛みがあったら腸閉塞を疑ってほしい」と話す。おなかを大きく開けた開腹手術だけでなく、腹腔鏡手術や帝王切開でも腸閉塞は起こることがあるそうだ。

「手術後の腸閉塞というと、手術後1年以内で発症することが多いのですが、以前私たちが実施した調査では、手術から2、3年経過してからも起こることがあり、7年後に発症した事例もありました」(橋口さん)

腸閉塞は腸の通りが悪くなる病気で、手術後の癒着(臓器同士がくっつくこと)が原因であることが多い。便を通そうと腸は無理やりに蠕動運動を起こそうとするため痛みが出る。波のある強い腹痛が特徴だ。おならが出にくい、おなかが張る、吐き気などが出ることもある。

「腸がねじれると壊死してしまう。そうなると緊急手術をすることになります。病気の重さと痛みの強さはだいたい比例します。はじめはガマンできていた痛みが、ガマンできなくなってきたら、受診のタイミングだと思ってください」(同)

(7)「頭痛持ちだから仕方がない」→「くも膜下出血」「脳出血」に注意!!

地域のかかりつけ医として在宅医療などを行う、鈴木内科医院(東京都大田区)の鈴木央さんが気をつけているのは、頭痛持ちのキケンな痛み。「くも膜下出血」や「脳出血」だ。くも膜下出血とは、脳を覆うくも膜の下にある動脈が出血する病気。動脈瘤という動脈のコブが破れることで発症する。脳出血は脳内の細い動脈が破れて出血する病気。血圧が高い人に見られる。

「急に頭痛が起こった人であれば、キケンな頭痛かどうか真っ先に考えます。問題は頭痛持ちの人。今までとは違った痛み方をすると訴えられた場合、くも膜下出血などがないか、必ず確認しています」(鈴木さん)

ちなみに、キケンではないが、「副鼻腔炎」など鼻や目、耳の病気でも頭痛が起こることがある。

(8)「ふくらはぎが痛い。歩きすぎ?」→「下肢閉塞性動脈硬化症」で足が壊死!?

下肢閉塞性動脈硬化症は、下肢の血管が動脈硬化で詰まることで起こる。そのまま放っておくと足の壊死にもつながる。

「歩くと生じるふくらはぎの痛みが特徴です。片方に起こることが多い。整形外科の病気である脊柱管狭窄症と間違えやすい病気ですが、問診などで鑑別診断は可能です」(安藤さん)

なぜ関連痛や放散痛が起こるのか。患者の症状などから病気を診断するエキスパート、総合診療医の生坂さんが解説する。

「関連痛や放散痛で覚えておきたいのは、『体性痛』と『内臓痛』です」

体性痛は皮膚や骨、関節などが傷ついたときに生じる痛みで、太い神経によって伝わる。「ここが痛い」と指をさせるような痛みだ。

一方、内臓痛はその名のとおり、内臓が病気などで障害を受けたときに生じる痛みだが、神経が細くて、かつまばら。「何となく奥のほうが痛い」とか「痛む場所がはっきりしない」というのが特徴だ。

「関連痛や放散痛が起こるメカニズムはこう。内臓痛を伝える神経は、体性痛を伝える神経と脊髄で合流して、脳につながります。そのため内臓の痛みを体性痛と脳が誤って認識し、心臓の痛みでも肩やあごが痛い、というように感じてしまうのです」(生坂さん)

ちなみに、痛みがあると「がんでは?」と不安に思う人も多いだろう。だが、今回の取材で多くの医師が話していたのは「がんの場合、初期症状で痛みが出ることはほとんどない」ということ。たいていは無症状で、あっても出血(下血や血便、不正出血など)や体重減少など、痛み以外の症状から始まる。痛みで見つかる場合は、残念ながら進行しているケースが多いという。




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