交通費はどちらが持つのが鉄則? 正しい「遠距離介護」とは?

同居から別居・遠距離介護の時代へ。その道のプロによると、地元へ帰る「Uターン介護」、自分の家で同居する「呼び寄せ介護」は2大間違いだという。では、ふるさとの親はどうやって介護すればいいのだろうか。

実際に遠距離介護を始めてからわき上がる、よくある疑問をまとめた。離れて暮らす親のケアをする人たちを支援するNPO法人パオッコ理事長の太田差惠子さん、4年以上にわたって遠距離介護を続けてきた、ノンフィクションライターの中澤まゆみさん、都内で居宅介護支援を行う主任ケアマネジャーの渡辺孝行さん(たから居宅介護支援)が答える。

■救急車で運ばれたら?

親が救急搬送されたからと言って、それが命に関わるようなケガや病気でないこともある。「まずは冷静に、情報収集を」と中澤さんは呼びかける。自身は出張先の京都で「母親が救急車で搬送された」という電話を父親から受けたことがある。

「父は焦っていましたが、母がそれほど緊急性を要さない状態のようだったので、すぐには帰れないと伝えました。その後、訪問看護師に電話で状況を聞き、翌日、帰省しました」

情報収集先として頼りになるのが、ケアマネだ。

「親御さんの担当ケアマネの名前や、居宅介護支援事業所の連絡先を介護保険証などわかりやすい場所に記しておけば、万が一、搬送されても、そこの医療機関が担当ケアマネに連絡をとることができます。また、今年4月の介護保険法改正で、ケアマネが担当する高齢者の介護や医療に関わる情報を入院先の医療機関に積極的に提供するしくみができました」(渡辺さん)

■親が一人暮らしで心配

夫婦二人で暮らす場合と違い、一人暮らしの介護は同じ遠距離介護でもより不安が高まる。そんなときに利用したいのが、“見守りサービス”だろう。見守りサービスにはカメラなどを用いたものから、郵便局や宅配サービスなどが通常の仕事にプラスして実施しているものなど、さまざま。太田さんは言う。

「サービスを導入する際は親にきちんと説明するように。とくにカメラの設置はプライバシーの問題があるので、勝手に取り付けないこと。本人が嫌がっているのに付けるとトラブルになりますし、コンセントを抜いてしまうので見守りになりません」

身近な見守りとして強い味方になるのは、“ご近所さんの存在”だ。帰省する際にはお土産を用意して、近所にあいさつ回りをしながら親の様子を聞くといいだろう。

■いつ帰ったらいいのか?

遠距離介護が始まってからも、土日より公的機関の開いている平日が望ましい。帰省すると家の片付けや買いものも含め、ヘルパーに日ごろお願いできない用事を頼まれるため、ゆっくり休んでいる暇はないようだ。とくに、今は介護する側も60代、70代と高齢化している。遠距離の場合、移動による体力的な負担も大きい。ここでも無理をしないことが大事だ。

「サロンに来る遠距離介護の家族の話では、実家に帰るのは1〜2カ月に1回という人が多い。ただ、それは家庭の事情や介護の状況にもよります」(太田さん)

中澤さんは「親の変化を知るには、月1ぐらいの帰省が望ましい」という。

「状況が安定しているときは頻繁に帰らなくてもいいと思いますが、こまめに電話などで連絡を取っておくことは必要でしょう。親の年齢が若ければ、スマホやタブレット型の端末でテレビ電話機能を使えるかもしれません」(中澤さん)

また、ケアプランを変更するなどで、医療・介護に関わる人たちが集まる「サービス担当者会議」があるときは、帰省して参加したほうがいい。

■交通費はどうする?

遠距離介護でたいへんなのは帰省の交通費。飛行機で行き来しなければならない場所であれば、その負担はかなりのものになる。

「どちらかというと、男性は自分で払い、女性は親に頼ることが多い。ですが、親に出してもらえるなら、そうしたほうがいいと思います」(太田さん)

製薬企業のファイザーが2016年に実施した「介護の日 全国47都道府県“親子の介護予防ギャップ”意識調査」によると、自身の介護に関して、「不安や危機感を持っている」と回答した親世代(65歳以上の男女4700人)は、約5割。「子どもと自身の介護について話をした経験がない」は8割強だった。一方、「将来起こりうる親の介護に対し、危機感を持っている」と回答した子世代(65歳以上の親を持つ男女4700人)は7割強にも上った。

遠方に住む子どもやその家族に介護をお願いする。そうなった場合、親はどんな心構えが必要なのだろうか。高齢者の生活問題を研究する第一生命経済研究所ライフデザイン研究部主席研究員の小谷みどりさんは、「まず、自分の老いや、昔より体力が落ちたことを受け入れること」とアドバイスする。

「それは、ヘルパーさんがキッチンに入るのをためらわない、ということです。身の回りのことができなくなったとき、外部の福祉サービスを受けられるのであれば、そこは任せたほうが家族も安心します。サービスを使うことで空いた時間を、夫婦や自分の楽しみのために使えばいいんです」

家事を外部の人間に代行してもらうことに抵抗がある場合は、まずは「お試し」でやってみるとよいそうだ。

介護が必要になる前に、子どもに話しておきたいこともある。

「『どんな介護を受けたいか』という場合、施設に入るか・入らないかとか、資産がどうかという内容になりがちですが、自分にとって大事なものは何か、どんな時間を過ごすのが好きか、といったことを子どもに知ってもらうことも大事です」(小谷さん)

“これからの暮らし方”を具体的に形にしておくという意味で、小谷さんが勧めるのが、「任意後見制度」だ。成年後見制度の一つで、認知症などで判断能力が低下したときに裁判所の手続きによって行われる「法定後見制度」と違って、元気なときに将来に備えて利用するものだ。

自分で選んだ代理人(任意後見人)に、自分の生活や介護、財産管理について代理権を与える契約(任意後見契約)を、公証人のつくる公正証書で結ぶ。かかる費用は1万数千円程度で、子どもでも代理人になれる。

「遠方の家族に対して、自分たちの日々の暮らしや価値観などを伝えるいい手段だと思います。任意後見制度がすべてではありませんが、自分たちがどう暮らしていきたいのかを、しっかり伝える。それは介護をする側の負担の軽減にもつながる。子どもたちへの“思いやり、メッセージ”です」(同)

もう一つ。介護にかかる費用は親が持つのは、介護の鉄則。そのための一つの方法が、親の財産を子どもに託して身内で管理、処理するための仕組み、「家族信託」だ。福祉関係に詳しい弁護士の外岡潤さん(法律事務所おかげさま)はこう説明する。

「対象となるのは現金や不動産などの財産。子どもは委託された現金や不動産を管理し、その財産を親のために使います。後見制度と違い、家庭裁判所のお世話になることなく財産を自由に処分できる点がメリット。もちろん介護費用にも充てることができます」

家族信託の主役は、子どもではなく、あくまでも親。有効な方法の一つだが、いま注目されている相続対策だけに、一度、家族が集まったときに話しておいてもいいだろう。




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