低栄養が招く衰弱、筋肉減少 =「フレイル」「サルコペニア」の恐怖

高齢者は日常生活の活動量減少による食欲低下などから、食事を十分取らず低栄養状態に陥りやすい。その結果、全身が弱って外出することが難しくなる「フレイル」=用語説明=や、筋肉量が減少する「サルコペニア」になるケースもある。フレイルやサルコペニアの認知度は低いが、日常生活に大きな影響を与え、寝たきり状態を招く恐れもあるため、決して軽視できない。

フレイルやサルコペニアの症状は、加齢による全身の機能低下が目立つ75歳以上の高齢者で問題になっていた。しかし近年、糖尿病や慢性閉塞性肺疾患(COPD)、慢性心不全、肝機能障害などを患っている人の場合、50~60代でも前駆的な「プレフレイル」「プレサルコペニア」の症状が見られる。このような状態にどう対応したらよいか、専門医や管理栄養士に聞いた。

東京医科大学病院高齢診療科の羽生春夫教授

大事なのは全身状態

一部の若年性認知症などを除き、原則として75歳以上の患者の診療を専門とする東京医科大学病院(東京都新宿区)高齢診療科の羽生春夫教授(老年医学)は「高齢になればなるほど、病気の治療だけでなく、全身の状態をどれだけ良好に保てるかが重要になる。全身の状態の悪化を少しでも緩やかにすることが、患者がどれだけ自立的に日常生活を送れるかどうかを大きく左右する」と強調する。このため、初診時には認知症やうつ病などともに、「フレイルになっていないか」「サルコペニアの兆候はないか」といった点も含め、全身の状態の把握に努めるという。

一般的にはあまりなじみのないフレイルには、数値化され統一された判断基準はない。ただ、注意すべき複数の項目が提唱されている。主なものとして、(1)意図せずに年単位で生じた一定以上の体重減少(2)強い疲労感(3)歩く速度の低下(4)握力などの筋力低下(5)日常の歩行や家事など活動量の減少―などが挙げられている。このうち、該当するのが3項目以上ならフレイル、それ未満であれば、注意が必要なプレフレイルとされている。

しかし、実際にフレイルやサルコペニアの兆候があっても、医療現場で施せる治療は少ない。「基本的には、十分な栄養の摂取と散歩など低負荷の運動の励行が一番の対策だ。その意味では介護分野との連携が重要になってくる」と羽生教授は話す。このため「介護予防」「転倒予防」などを目的に地域で開催されているイベントに参加してもらうことも有効だ。羽生教授は「フレイルやサルコペニアは、適切な対応を取れば回復することができる。できるだけ早期に発見して対応することが大切だ」と指摘する。

63歳でピンチ

記者は63歳。身長は174センチほどだが、不摂生がたたり体重は50キロを割っている。記事に添える写真のモデルとなり、羽生教授に診察してもらった。二の腕の裏側の筋肉をつまんだり、両手の親指と人さし指を合わせて輪を作ってふくらはぎの最も太い箇所に当てたりする。後者では、作った輪から少しはみ出す程度のふくらはぎの太さが目安になる。記者の場合はスカスカ。「サルコペニアだね」。診断は迅速だった。

記者のような事例はもちろん、老年医療の対象にならない50~60代でプレフレイル、プレサルコペニアに陥っている場合は問題だ。放置していれば加齢による活動量や身体機能の低下が加わって本格的なフレイルやサルコペニアに移行し、持病の改善も身体機能の回復も難しくなる。本来なら医師の治療が必要になるが、この段階で治療に携わる専門医や日常の健康管理を担う地域のかかりつけ医の間では、フレイルやサルコペニアに対する認知度はまだ不十分で、治療が受けにくいこともある。

羽生教授は「高齢患者が増えてきた分野では、この問題に関心を向ける専門医も増えてきた。しかし、他の領域は目の前の病気の治療で手いっぱいの状態だ」とした上で、「老年医学を専門とする側からみれば、50~60代でプレフレイルやプレサルコペニアを発見しても、その患者を受け入れて適切な指導ができる診療科がほとんどない、これが最大の問題だろう」と課題を挙げた。

タニタヘルスリンクの管理栄養士・健康運動指導士の龍口知子さん

「キョウイク」と「キョウヨウ」

タニタヘルスリンクの管理栄養士・健康運動指導士の龍口知子さんは「低栄養はフレイルの原因の一つだ。外出するのが嫌になる。すると、おなかが減らないから、食べる量が減る。外出するのか、家に閉じこもるのかは健康に密接に関わっている」と話す。

龍口さんら同社のスタッフが自治体や企業を対象に開催する健康セミナーで繰り返す言葉がある。「キョウイク」と「キョウヨウ」だ。「教育」と「教養」ではない。「キョウイク」は、きょう行く所がある。「キョウヨウ」は、きょうは用事がある―という意味だ。「外出の機会があったり、他人とのコミュニケーションが保たれていたりすることが大事だ。自治体などが開催する健康維持や介護予防のための教室に参加することはとてもよいことだ」

10種類の食品を

龍口さんは「高齢者にとってなかなか取りにくいかもしれないが、取ってほしい食品群のチェックリストがある」と言い、10種類の食品を挙げる。10種類は、(1)卵(2)肉類(ソーセージやハムを含む)(3)魚介類(4)大豆製品(5)牛乳や乳製品(6)カボチャやニンジン、ホウレンソウなどの緑黄色野菜(7)ワカメやヒジキ(8)果物(9)イモ類(10)油脂―だ。「(1)から(5)はたんぱく室を摂取することで筋肉をつくる。(6)から(8)の食品は、ビタミンとミネラルが豊富。(9)と(10)はエネルギー源となる」と言う。

この食品一つを1週間で4、5回食べている場合は、「1点」とカウントする。龍口さんは「合計で9~10点を取ることができれば、生活の質(QOL)が高いと言える。大変かもしれないが、カレンダーに書き込んでチェックするなどして、点数を上げてほしい」と力説する。

運動面では、無理のないペースで毎日、歩くようにすることだ。「『きょうは○○歩』といった目標を掲げても、なかなか実行できないが、それは当たり前だと思ってほしい。『きょうはきのうより多く歩いた』『きょうは少し足りない』という意識を持ってもらえたらよい」

筋肉トレーニングなども有効だが、龍口さんはお金のかからない方法も勧める。「駅では、エスカレーターではなく、できるだけ階段を使う。ショッピングセンターに行った時は、駐車場の最も遠い場所に自動車を止め、店舗まで長い距離を歩く」。お金がかからない健康法だ。(了)

用語説明「フレイル」

欧米などの老年医学分野で使われる「FRAILTY(フレイルティ)」に対応する用語で、日本老年医学会が2014年から提唱。「加齢に応じて運動機能や認知機能などが低下して生活機能が傷害され、心身両面での衰弱がみられる状態」と定義する。一方で、「外部からの適切な介入・支援があれば、支障なく日常生活が送れるようになる」としている。




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