「負動産」と化す実家…どうすればいいの?

地方で生まれたが、現在は都市部で働いていて、実家に戻る気はないという人もいるだろう。しかし、親が亡くなるなどして、いざ「相続」となった時にはどうすればいいのだろうか。「住む予定もないし、売却してしまおうか」と考えても、実家が過疎地などにある場合は資産価値が下がり続け、買い手がなかなか見つからないケースも想定される。相続問題や不動産に詳しい藤戸康雄氏に、対策について解説してもらった。

鮮明になる都市と地方の不動産「二極化」

日本は現在、「人口減少社会」「超高齢化社会」に突入しています。地方には人口が減少したり、住民の大半が高齢者という地域も散見されたりする一方、若者は都市部に流れ込み、築数十年の狭くて古いアパートでも賃貸需要が高まっているケースが見られます。

今年3月に発表された公示地価を見ると、東京都の特別区は3.9%の上昇となりました。低金利や雇用の回復でマンションの需要が伸び、地価が大きく上昇しています

一方、長らく経済が低迷していると言われていた関西でも、中国や東南アジアからの観光客が急増。大阪圏(大阪、京都、神戸など)の商業地では、ホテルや商店などの出店が目立ち、東京圏の商業地(3.7%増)を上回る4.7%の上昇となりました。名古屋圏の商業地も、5年連続で上昇しています

3大都市圏を除く地方でも、特に各地の中核的な政令指定都市(札幌、仙台、広島、福岡)で上昇が目立ちました。4市の平均は、住宅地が3.3%増、商業地が7.9%増と、それぞれ5年連続で上昇しています。

しかし、このほかの地方では、地価回復の兆しが見えにくいのも事実です。地方圏の全調査地点のうち52%は下落が続いています。今後、不動産の「二極化」は一層、明確になると筆者は見ています。

生産緑地解除で都市近郊も下落?

また、東京、大阪、名古屋などの大都市圏にも「2022年問題」と呼ばれる問題に揺れている地域があります。

2022年問題とは、都市部に点在する「生産緑地」(農業を営むことが義務付けられる代わりに、相続税の納税猶予や固定資産税が低額に抑えられる都市農地)の指定が解除されることによる、住宅地の供給過剰の懸念を指しています。

1992年に指定された3大都市圏の生産緑地は約1万3000ヘクタール(東京ドーム約2800個分)に上るとされます。指定期間は原則30年で、解除後は、自治体に買い取りを申し出ることができることになっています。

しかし、実際には買い取ってもらえないケースも多いとみられ、その場合は大量の土地が不動産市場にあふれ出し、周辺の地価も暴落するのではないかと指摘されています。こうした生産緑地は東京・世田谷区や練馬区にも存在するのです。

地価暴落を回避すべく、17年の法改正で、30年目を迎えた生産緑地はさらに10年ごとに生産緑地指定の延長を申請できることになりました。

ひとまず「土地売却ラッシュ」は避けられそうですが、10年延長する場合も農業を続けるなどの条件があります。農家も後継者不足に陥っており、近い将来、都市部の生産緑地が不動産市場にあふれ出てくるのではないかと筆者は考えています。

実家はもはや「負動産」?

地方も全体的、長期的に見れば人口減少傾向で、売却希望の不動産が増え、供給過剰の構図がすでに明確になっています。「不動産には必ず、資産価値がある」という時代は、終わりを迎えつつあると言えるでしょう。

今後は、売ることも貸すこともできず、税金や管理費などの「赤字」を垂れ流すだけの不動産もたくさん世に出てくるかもしれません。これでは「負の財産」だとして「負動産」と呼ぶ人もいます。

全国で深刻化する「空き家問題」。14年の国土交通省の「空き家実態調査」によると、売却の手続きなど「何のアクションもしていない空き家」の割合は、東京など大都市圏の都市部でも12.1%。大都市圏以外の郡部に至っては17.7%に上り、地方の空き家の処分がいかに難しいかを示しています。建物を取り壊す経費を土地の売却で賄おうとしても、それが難しいケースもあるのです。

東京都心で駅から近い、俗に言う「勝ち組エリア」の不動産なら、相続税対策に頭を悩ませることはあっても「売ることも貸すこともできない」といった悩みを抱えることはないかもしれません。しかし、地方の実家などの「負動産」を相続する人にとっては、売ったり貸したりできるか、建物を処分する費用が賄えるかは大問題です。

「負動産」を相続することになる可能性があるなら、「親が亡くなる前にやっておくべきこと」を知ることが重要です。

土地がすんなり売れない……

地方の多くの地域で、土地の値下がりが続いている今。親から相続した土地も、住む予定がないなら、値下がりが見込まれる場合は早めに売っておくのが賢明です。

ただ、不動産は売りたいと思ってもすぐに売れるものではありません。買い手がつきそうでも、相手は「買っても大丈夫か?」と徹底的に調べますし、買い手に融資する銀行も担保価値を把握するために物件調査を行います。

その際重視されるのは、「売り主本人と登記名義人が同じかどうか」、「隣地との境界が確定している土地か」などの点です。銀行などは、専門家に依頼して調査します。

実家は、親が購入した不動産であれば通常、親の名義になっています。ところが、父親が祖父から譲り受けた家の場合、仲介業者に売却を依頼した段階で、初めて祖父の名義のままになっていることがわかるケースもあります。その場合、業者から「売主の名義に変えていただかないと売ることはできません」などと言われます。

しかし、仮に数十年前に亡くなった祖父の名義のままであれば、「相続人」が相当な数になる可能性があるのです。例えば、祖父の兄弟姉妹や、その子どもたちなどです。

戸籍などをたどって「誰が相続人か」を確定させるだけでも大変です。さらに、やっとの思いで相続人が判明しても、祖父から父への相続に関する遺産分割についての協議書への署名、実印の押印、さらには印鑑証明書の添付まで、他の「相続人」たちに求めなければならないのです。

見知らぬ「相続人」が手間賃を請求…

こうしたケースでは財産の分割を要求する「相続人」がいる一方、地方の土地や建物の価値が高くないことを承知している人も少なくないので、「署名・押印する代わりにいくらかもらえないか?」と言われるケースが多いと聞きます。

この場合、「手間賃」として数万円程度要求されるケースもあるようです。仮に、複数の相続人がお金を要求してくれば、名義を変えるだけで数十万円かかりかねません。

また、境界を確定する際には、土地家屋調査士に多額の費用を支払い、調査や手続きをしてもらう必要があります。

地価の高い低いにかかわらず、相続した後に土地を売却するつもりなら、親が元気なうちに、登記名義人と境界確定について親に協力してもらいながら調べ、手続きや準備をしておきましょう。相続人たちが親と付き合いがあれば、手間賃を求められることなく、スムーズに手続きを進められるかもしれません。

親が資産家でないなら、相続対策は…

都心の「勝ち組エリア」の不動産を相続する人は、高額の相続税がかかる可能性があるので、親からの生前贈与や遺言などの制度を駆使して、税金対策をすることが多いようです。

では、地方の「負動産」を相続する場合はどうでしょうか。

相続財産については「基礎控除額」というものがあり、〈3000万円+(600万円×相続人の数)〉までは相続税がかからない、と定められています。

仮に相続人が兄弟2人なら、親が残した不動産の評価額と、預金など金融資産の合計額が4200万円までなら相続税はかかりません。敷地が100坪くらいの大きな家であっても、地方の場合は課税対象とならないケースもあるようです。

では、親が残してくれる金融資産が500万円程度、実家の価値が100万円程度であれば、相続対策は何もしなくても良いのでしょうか?

答えはNO。もし、あなたの実家が「売ることも貸すこともできない『負動産』」なら、何も対策をしなかった場合、あなたが生きている間、ずっと固定資産税や補修などの費用、火災保険料などを支払い続ける必要が生じ、「年に数万円から数十万円の赤字」を抱えることになります。あなたが処分できないまま亡くなったら、妻や子どもにその赤字が引き継がれる可能性もあるのです。

相続放棄は「負動産」に効果あり

そうした事態を避けたいなら、「親が元気なうちにやっておくべきこと」があります。

現在の法律では「不動産の所有権は放棄できない」ことになっています。例えば自動車などの「動産」は所有権を放棄して捨てることができます。しかし、不動産だけはどうやっても捨てることができないのです。

ところが、合法的に「捨てたのと同じ効果」が得られる方法が一つだけあります。それは「相続放棄」です。相続を放棄すれば、その財産は国が引き取ることになります。司法統計によると、相続放棄は15年に18万9381件と、それ以前の20年間で3倍に増えています。

相続放棄は相続の発生(被相続人の死亡)を知った日から3か月以内に、預金などの「プラスの財産」も、借金などの「マイナスの財産」も全てを放棄すると宣言し、家庭裁判所に書類を提出すれば、相続を免れる制度です。

しかし、親が亡くなってからたった3か月の間に、財産をすべて放棄するという判断をするのは実際には容易ではないケースもあるでしょう。

例えば親が自営業で、銀行から多額の融資を受けていることが明らかな場合などは、借金の方が資産よりも多いことが明白で、すぐに相続放棄を決断できるでしょう。しかし、一見、金融資産が多く、親の全ての財産を相続しようと考えていても、親が知らない間に「友人の借金の連帯保証人」になっていた、というケースもないとは限りません。

親が元気なうちなら、連帯保証の有無や「どこにいくらの預金がある、借金がある」などを聞いておくことができます。親に、財産のことについて話を持ちかけるのは気が引けるかもしれませんが、話し合っておかないと将来、大変な目に遭いかねないのです。

「実家をどうするか」早めに検討を

さらに、実家に兄弟も含めた相続人が誰も住まない予定なら、親が元気なうちに「実家をどうするか」を親や兄弟姉妹全員で検討しておくべきです。

実家の引き取り手がいない場合、親が自分の葬儀費用と、ゆとりを持って余生を送れる生活費を確保したうえで、使い切れずに残りそうな預金などを生前に少しずつ子供たちに贈与しておく方法があります。

贈与する相手一人について年間110万円までは贈与税がかからないと定められています。親があらかじめ子どもに贈与税がかからない範囲で金融資産を少しずつ贈与しておき、親が亡くなったら、相続人の子どもたちは「相続放棄」をするという方法です。

「遺贈」という選択肢

「特定遺贈」という制度を活用することもできます。遺贈とは、「遺言によって被相続人の財産を特定の者(必ずしも相続人である必要はない)に亡くなった時に無償で譲る」ことです。

遺贈には「包括遺贈」と「特定遺贈」があります。包括遺贈は財産を特定できず、「負動産」や借金も含めて遺贈しなければなりませんが、特定遺贈であれば、親は譲りたい財産を特定して子どもに譲ることができます。

例えばあらかじめ、親に「〇〇銀行の預金は息子である一郎に遺贈する」というような遺言書を書いておいてもらいます。

そして、親が亡くなって「負動産」を受け取りたくない場合、相続を放棄するのです。遺贈には相続税がかかりますが、金融資産が最低でも3600万円ない限り、非課税となる可能性が高いのです。(ただし、相続放棄しても、遺産の管理義務がなくなるわけではありません。民法には、相続を放棄した人が土地・建物などを管理しなければならないとの規定があります)

相続対策は「親のため」でもある!

ただ、親に借金があると、債権者が「借金を引き継がず、一部の財産だけ遺贈するのは信義則違反で債権者を欺く行為だ」と異議をとなえるケースもあります。最高裁でも、遺贈とは異なりますが、死因贈与(亡くなったら財産を贈与する契約で、遺贈に似た制度)の場合に「債権者に対抗できない」とした判例があります。

「負動産」である実家についても、生前に親が固定資産税などを滞納していると、徴税権者の自治体との間でトラブルになる可能性も否定できないことを指摘しておきたいと思います。

実家などの「負動産」を相続する予定がある人なら、「親が、自分が亡くなった後のことを話すのを嫌がる」などと目をそむけず、きちんと説明し、元気なうちに「将来の『負動産』をどうすべきか」をよく話し合ってください。自分たちに合う対策を考えておけば、結果的に親を安心させることにもつながるのではないでしょうか。

藤戸 康雄( ふじと・やすお )

相続・不動産コンサルタント/ファイナンシャルプランナー。1961年生まれ、大阪府出身。慶應義塾大学経済学部卒業。大手コンピューターメーカー、コンサルタント会社を経て、バブル崩壊後に大手住宅ローン保証会社で不良債権回収ビジネスに6年間従事、不動産競売等を通じて不動産・金融法務に精通。その後、REIT(不動産投資信託)上場準備会社、外資系不動産投資ファンドのアセットマネージャー、不動産投資ベンチャーの役員等、数々の不動産関連企業で活躍。1級ファイナンシャルプランニング技能士、公認不動産コンサルティングマスター、宅地建物取引士。




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