がん予防に「和食信仰」の落とし穴 食生活気にする人ほど陥りやすい?

がんになってもいたずらに恐れる必要はない時代が来ているのはわかった。それでも罹患しないに越したことはない。予防医学の最前線はどうなっているのだろう。

「○○が、がん予防にいい」と聞けば、飛びつきたくなる気持ちもわかる。だが、そこには誤解も多い。正しい知識こそががんを防ぐというのは、国立がん研究センター社会と健康研究センター・センター長の津金昌一郎氏。

「がんは老化現象のひとつであり、長生きすればするほど発生しやすくなる、高齢者にとってはありふれた病気ともいえるのです。それでも、がんになる人とならない人がいるのは遺伝的要因より環境的な要因、つまり生活習慣の違いが大きい」

1990年から現在まで、国立がん研究センターが中心となって、食生活や生活習慣、健康状態との関連を追跡調査した「多目的コホート研究」が行われてきた。さらにその他のデータも組み合わせて導き出されたのが、日本人ならではのがん予防法だ。

「がん予防として科学的根拠(エビデンス)をもって認められているのは、『非喫煙、節酒、塩蔵品を控えるなど食生活の見直し、活発な身体活動、適正なBMI』という五つの生活習慣です。仮に五つすべてを実践できなくても、一つ実践するごとに、男性では14%、女性では9%ずつ、がんの発生リスクが低下することがわかっています」(津金氏)

生活習慣の中でもっとも注意すべきなのはたばこ。40〜69歳の男女9万人を対象に8年間追跡したコホート調査では、喫煙者は非喫煙者よりも肺がんリスクが4〜5倍、何らかのがんにかかるリスクは1.5〜1.6倍高いという結果が出た。一方で、禁煙した人を対象に、たばこをやめてからの年数で肺がんの発生率を調べてみたところ、やめてから時間が経つほどリスクは低くなり、20年以上になると、非喫煙者とほぼ同等になることがわかった。

「長年吸っているからいまさらやめてもムダ、ということはありません。一般的に、喫煙者は非喫煙者より寿命が約10年短いといわれていますが、禁煙すれば、寿命も延び、発がんリスクも下がる。喫煙者はなるべく早く禁煙に取り組むことです」(同)

また、周囲の人々の発がんリスクも確実に高めてしまう「受動喫煙」も問題だ。日本では、受動喫煙と関連する病気の死亡者数が年約1万5千人。だが、屋内禁煙の法制化も含め、先進国の中で対策がかなり遅れていることを津金氏は懸念する。

「喫煙していない女性約3万人を13年間追跡したわれわれのコホート調査では、非喫煙者に多い肺腺がんを始め、すべてのタイプの肺がんのリスクは、夫が非喫煙者の場合と比較すると、夫が喫煙者の妻の発がんリスクは約1.3倍でした。喫煙者が多く集まる居酒屋や喫茶店などにいる人々、そこで働く人々も、リスクは高くなります」

飲酒の影響はどうか。

適量の飲酒は、心筋梗塞(こうそく)や脳梗塞の予防効果が期待できる半面、食道がんや大腸がん、女性では乳がんのリスクを高めることは確かである。

がん発生との関連が特に深いのは、お酒の種類ではなく、飲酒の「量」だ。アルコールを分解する過程で、アセトアルデヒドという物質が生成されるが、このアセトアルデヒドには発がん性があることが確認されている。欧米人に比べて、その処理能力が低い日本人は、飲酒によるダメージを受けやすいため、過剰飲酒をするとDNAの修復がうまくいかなくなり、がんになりやすいという説もある。

とはいえ、日本人の喫煙率(量)や飲酒率(量)は減っており、健康志向の高まりから、運動習慣やBMI値などへの意識も変わってきた。昭和のころに比べ、がん予防法にのっとった生活習慣ができている人も増えている。だが、日本人の食生活には意外な落とし穴がある。

「イソフラボン含有量が多い豆腐や納豆などの大豆食品、食物繊維の多い野菜や根菜の煮物などは、がん予防効果が期待できる和食。食生活を気にしている人ほどそうした和食信仰に陥りがちですが、実は伝統的な日本食には塩分過多という欠点がある。たとえばファミレスでみそ汁や塩鮭、漬物などの朝定食を食べると摂取する塩分は約10グラム。これをハンバーグライスにすると3グラム程度になります」(津金氏)

過剰な塩分摂取は胃がんや脳卒中のリスクを高めることが明らかになっている。ちなみにWHO(世界保健機関)が推奨する塩分量は1日5グラム未満だが、和食が根づいている日本人には難しい数字。減塩と食物繊維を意識して、バランスのいい食事を心がけることが大切だ。

その中には、肉食も含まれる。

「食の欧米化、特に赤肉(牛肉、豚肉、羊肉)が大腸がん増加の要因と考える人もいますが、多くの日本人は欧米人ほど赤肉を食べていない。むしろ昔は少な過ぎて脳出血や感染症などで命を失っていたと考えられます。われわれのコホート研究からは、大腸がんや心筋梗塞のリスクを大きく上げずに、脳卒中のリスクを下げる飽和脂肪酸の摂取量の目安は、1日20グラム。これはコップ1杯の牛乳と2日に1回150グラム程度の赤肉で取れる量です。野菜や魚だけでなく、肉も食べる。理想の食事は、欧米化された日本食です」(同)

また、一時期大々的にメディアに取り上げられた「コーヒーの抗がん作用」。津金氏は1日3〜4杯のコーヒー摂取はベネフィット(利益)ありと見る。

「肝臓がんや子宮体がんのリスクを下げるというエビデンスはかなりそろってきました。インスタントコーヒーや缶コーヒーでも同様です。ただ、クリームや砂糖の量は控えめに」(同)




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