進歩続くパーキンソン病治療=運動療法、早期から継続を=国立精神・神経センター

70歳以上は100人に1人

発症すると手足が震えたり、動きがゆっくりになったりするパーキンソン病。完治が難しく、進行してしまうと車いすや寝たきりの生活になる恐れがある神経難病だ。だが、治療は近年、目覚ましい進歩を続け、患者の生活の質(QOL)向上に寄与している。その柱になるのは、患者に合った抗パーキンソン薬とリハビリテーションの運動療法だ。

「今は、発症しても7~8年は普通に動けるのが当たり前という時代。そうなるよう治療しなければなりません」。国立精神・神経医療研究センター病院(東京都小平市)で初めて開かれた「パーキンソン病の運動療法研修会」。パーキンソン病治療の専門家である村田美穂院長は、東京を中心に各地から集まった理学療法士や作業療法士、看護師、医師らを前に、適切な治療のあり方を説いた。

パーキンソン病は脳幹の「中脳」から出る神経伝達物質の一種、ドーパミンが減少し、運動の指令が体にうまく伝わらなくなって起きる病気。40歳以下でもまれにかかるが、患者の大半はシニア世代だ。患者の割合は加齢とともに増え、70歳以上では大体、100人に1人に見つかっている。

患者には「四大症状」と呼ばれる特徴がある。(1)動作が遅くなり、少なくなる(動作緩慢・無動)(2)手足やあごなどが震える(安静時振戦)(3)筋肉が強張る(筋強剛)(4)体のバランスが悪く、倒れやすくなる(姿勢反射障害)―といった運動症状だ。便秘や不安・抑うつといった非運動症状を伴うこともある。

腰が曲がって前かがみの猫背になったり、体が片方に傾いたりして、最初は整形外科に行く患者も多い。だが、望ましいのはできるだけ発症早期の段階に、神経内科などの専門医を受診し、治療を始めることだ。

「早期発見に最も重要なポイントは、動きがゆっくりになることで、次いで手足などの震え。姿勢反射障害はある程度進行してから症状が出る」と村田院長。他の病気で服用した薬の副作用や脳梗塞などの影響で似た症状を示す「パーキンソン症候群」の可能性はないか、といった点などを、脳や心筋の画像検査も使って見極め、診断が下される。

「平均寿命はほぼ同じ」

パーキンソン病はかつては、発症から7年程度で死亡するといわれた。だが、不足するドーパミンに変化するレボドパ製剤(L―ドパ)やドーパミンの作用を補うためのドーパミン受容体刺激薬(ドーパミンアゴニスト)の開発により、治療環境は1980年代以降、大きく変わった。

近年も新しい薬が登場し、手術療法を含めた治療の選択肢は増え、「患者の平均寿命はパーキンソン病でない人とほぼ同じ」(村田院長)といわれるほどになった。発症から12~15年たっても、4割は趣味やボラティア活動を行っているとの調査報告もある。

ただし、服薬と並ぶ治療の柱と位置付けられる運動療法は、まだまだ十分に行われていないケースが多く、改善の余地が大きい。「効果があるので、日常的に続ける必要がある。そのことに、もっと気づいてほしい」と同病院身体リハビリテーション部の小林庸子医長は強調する。

昨年の米アカデミー賞授賞式のマイケル・J・フォックス。患者だが長期闘病後に俳優復帰も果たした

運動は患者の特性に合わせて

パーキンソン病の運動療法は、患者の特性に合わせたトレーニングが求められる。

例えば、患者は前かがみになって歩幅が狭くなり、突進するような動きになることがあり、転倒しやすい。転倒すると「また転ぶかもしれない」といった不安が募り、さらに足がすくんでしまう。転倒による骨折の割合は、健常高齢者の3・4倍になるとの調査報告もある。

小林医長は「前傾姿勢が習慣になると、筋肉が萎縮して、姿勢の修正が困難になるなど、気づかないうちに悪循環に陥る。なるべく、体が非常に硬くならないうちにトレーニングを行いたい」と話す。

運動の種類は、筋力エクササイズ、ウオーキングなどの有酸素運動、ストレッチなどだ。同病院は発症早期の患者にもこうした運動療法を施し、病院でのリハビリ期間終了後も自主トレを続けるよう指導する。

トレーニングのポイントは、大きく分けて3点。(1)腹筋のように曲げる筋肉(屈筋)よりも、背筋などの伸ばす筋肉(伸筋)を使うこと(2)偏った姿勢が癖にならないよう、良い姿勢とのずれがないかチェックすること(3)力を抜いてリラックスすること―だ。

楽しく続けられる工夫を

患者が意欲を持って楽しく自主トレを続けられるような工夫も大切だ。今回の研修会では、▽良い姿勢かどうかをスマートフォンで動画撮影し、見てもらいながらトレーニングする▽「お風呂で背中を洗いやすくなった」といった成果や数値で改善効果を意識してもらう―といった方法が紹介され、小林医長は「家族も、背中が丸まっていると指摘するだけでなく、どう直すかアドバイスし、ほめることで参加してほしい」と話した。

リハビリテーション医療の現場では、脳卒中のような急性発症疾患への対処が優先され、神経難病患者への対応には限りがあるのが現状。一方で介護保険は、症状がある程度重くならないと使えない。そうした中、発症早期からの運動療法をいかに定着させるかは大きな課題。「自主トレを1人で続けるのは難しい」という声に応え、医療保険や介護保険外のサービスとして、患者向けの運動教室を展開する動きもある。

日本神経学会は今春にも、パーキンソン病治療の新しいガイドラインを公表する。薬の効果を100%生かすためにも、処方箋通りに服薬した上で、規則正しい生活を送る。そして、運動不足に陥ったり、うつや不安によって症状が悪化したりしないよう注意し、適切な対応を取る―。こうした望ましい治療を普及させ、治療効果をさらに改善していくため、現場の模索は続く。




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