<無知の知 「てんかん」という現実>序章 治療の現場で(1) 13歳、発作と闘う

有病者が100人に1人とされる「てんかん」。

誰でも発病する可能性があるにもかかわらず、多くの患者はてんかんを公言できないでいる。学校や就労など、さまざまな場面で差別や偏見を感じながら生活している人は少なくない。「無知の知」。そう語り真理を追究した古代ギリシャ哲学の祖・ソクラテスはてんかんの持病を抱えていたといわれる。私たちはこの病気について何も知らないのではないか。偏見が無くならないのも無知であるが故ではないのか。てんかんを正しく理解するために、無知を認めることから始めたい。

画用紙を切り貼りしたカラフルな絵が小児病棟であることを示していた。

静岡市葵区の国立病院機構静岡てんかん・神経医療センター4階のエレベーターホール。2017年11月下旬、県立中央特別支援学校の院内学級「おおぞら」に向かう小学生に交じって、岐阜県の中学1年の男子生徒(13)の姿があった。にぎやかに教員の迎えを待つほかの子どもたちとは違い、発作に備えて壁にもたれかかり、腕を母親(41)に抱えられて。

男子生徒のてんかんの症状は17年秋に大きく変わった。6歳で発症。薬で発作が抑えられていたが、9月の体育祭が終わると頻発した。バスケットボールの部活動中に意識を失って倒れ、あごを6針縫った。部活動を休ませようとした母親に対し、男子生徒は「レギュラーを取られたくないから」と間近に迫った新人戦に出場することにこだわった。薬を増やし、母親が練習に付き添った。この頃、発作は1日30~40回あった。

男子生徒は左前頭葉に発作の原因がある「部分てんかん」。10月4日に入院した同センターで、主治医から、病変を取り除く外科治療ができる可能性があることが伝えられた。薬で発作が抑えられない患者で「部分てんかん」の場合、手術によって50~80%の確率で発作が消失するとされる。「手術をしたい」。男子生徒は迷わなかった。

母親には息子の「早く治したい」という思いがひしひしと伝わってくる。体力を落とさないようにと、病室でトレーニングをする。ゲームがしたいと言われて貸してあげたスマートフォンには病気や治療の検索履歴が残っていた。病気を理解し、向き合おう―。強い意志を感じる。

ただ、どこへ行くにも何をするにも付き添いが必要。常に隣にいる母親は思う。「思春期なのに、私と一緒なんて嫌やろうね」

そんな病院生活で、男子生徒が唯一、楽しみにしていることがある。院内学級の体育の授業。授業の後に教員とバスケットボールをする。シュート練習では、「もう1本」「あと1本」と熱中してしまう。同年代との会話がほとんどない生活で、この時ばかりは仲間とのプレーの一つ一つを思い出す。

手術は2月中旬に決まった。手術を終えたら、「自転車に乗ってショッピングセンターに行きたい」。数カ月前まで友達と過ごしていた、何げない日常に戻りたい。

<メモ>

てんかんは大脳の神経細胞が一時的に過剰に活動することによる発作が反復する脳疾患。どの年代でも発症する可能性があり、全国に100万人の患者がいるとされる。

患者は、大脳半球の一部分が興奮して発作を起こす「部分てんかん(局在関連性てんかん)」と大脳の大部分もしくは全体が興奮して発作を起こす「全般てんかん」に分けられる。さらに、脳に何らかの病変がある「症候性」と、病変がなく一部に遺伝が関連すると考えられる「特発性」に分類される。患者の7~8割は服薬で発作が抑えられ、薬で効果が得られない2~3割の難治性てんかんの患者には、外科治療や食事療法などが検討される。

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