イヌ、ネコも「メンタル」になる=ペット病めば、飼い主ショック

「理由もなくほえたり、かみついたりする」「突然決まった場所で排せつしなくなった」―。飼い主の家族と同じ存在のイヌやネコが突然理解できない行動を取り始めたら、どれほどショックだろうか。そんな変異を病気として捉え、治療や研究に携わっているのが東京大学附属動物医療センター (東京都文京区)の行動診療科だ。

「ペットとして長年飼育され続けたイヌやネコが、飼い主との間に突然生じるトラブルは、大きな問題になる」。同科を担当する獣医動物行動学研究室の武内ゆかり教授は「治療に当たる側として分かるのは、イヌやネコも人間と同様、心を病むことがある。ただ、治療は可能だ」と強調する。

イヌ、ネコも「メンタル」になる=ペット病めば、飼い主ショック

攻撃的行動で受診

受診理由はイヌもネコも、飼い主や周囲へのかみつきや引っかき、ほえたてなどの攻撃的行動が多い。ただネコについては、決まった場所に排せつしなくなる「トイレ問題」で悩んでいる飼い主が多いが、なかなか受診には至らないようだ、と武内教授は分析している。問題行動の背景は多様で、スムーズに対処法が見つかる場合もあれば、ペットの生育経過の問題が影響し、投薬などの治療を続けていかなければならないケースもあるという。

「簡単な症例を挙げると、四六時中窓に向かってほえたり、攻撃的な姿勢を示したりした『患者さん(ペット)』の治療だ」と、武内教授は優しい笑顔を浮かべながら話す。飼い主によく聞くと、交通量の多い通りに面した窓のそばに寝床が置かれていた。そこで、寝床を別の部屋に移したところ、症状が消えたという。ペットとは言葉を介しての意思疎通ができない。症状が改善し、飼い主が「なんだ。これでいいのか」と思うこともあるようだ。

ネコも心の病に

早い離乳は問題

その一方で、時間をかけて診察を積み重ねる必要があることもある。「イヌは生まれてから一定期間は親やきょうだいと一緒に暮らす中で、互いにルールを学んでいく。その前に新しい飼い主に引き渡されてしまうと、十分な社会性を構築することができず、飼い主や周囲のイヌとの間に良好な関係を築けなくなるのは人と同じだ」と武内教授。口の周りやお尻の周りのにおいをかいだりすることで、イヌ同士のルールを学ぶ。強くかめば、母親からしかられる。「幼い時に早く離乳してしまうと、後の行動に影響を及ぼす」

人間であれば、言葉を介したカウンセリングによって問題点を浮かび上がらせる。ペットに問題行動が生じた場合、飼い主とペットの日常生活の様子を聞いたりペットが家族に加わった日からの歩みを掘り起こしたりする。治療に際しては、薬を使って「患者」の精神を安定させ、信頼関係を再構築するためにしつけにも似た手法での「認知行動療法」を積み重ねて関係の再構築をしていくこともある、という。

過度な干渉避ける

ペットが雷を怖がるときは、雷の音源が入ったCDを使って、小さな音から徐々に慣らしていく。場合によっては、薬も用いる。飼い主の過度な干渉が、ペットの問題行動を誘発することもある。イヌやネコが眠たそうにしているときに触ったりなでたりすると攻撃され、けがをすることも。特に小さな子どもの場合は、注意が必要だ。

ネコで最も多いと考えられるのは、排せつの問題だ。海外の場合は、「もう耐えられない」と獣医師に相談したり、(収容施設である)アニマルシェルターに持ち込んだりするという。一方、日本人は自ら解決できる問題についてはお金を出してまで受診しない傾向がある。「日本人は忍耐強い。家中をネコのトイレだらけにしてもよいという飼い主もいる」と武内教授は話す。より問題なのは、常同行動だろう。同じ所でぐるぐると回る。光や影を追い続ける。毛布やセーターなどがボロボロになるまで吸い続ける。体の部位をなめ続けて、そこが脱毛してしまうことも。人間で言えば、強迫性障害に類似すると考えられている。

イヌやネコにも、加齢に伴う認知障害がある。イヌがいつもいる部屋から別の部屋に行って戻って来ない。ネコが昼夜の別なくずっと鳴き続けるといった症状がそれだ。大型のイヌは比較的寿命が短いが、チワワやダックスフント、柴犬などの小型・中型犬はより長生きする。それだけに、認知障害のリスクは高まる。

新分野の動物行動学

行動治療法は、武内教授が留学した米国などで20世紀末から少しずつ理解が広がった。同教授の帰国前後から日本でも研究が始まり、その臨床部門として行動診療科が発足している。同科には専任スタッフを置いているが、診察後のフォローなども必要なため、新患の受け付けは週に2~3件が限度。このため2カ月程度の予約待ちのイヌやネコがいるという。

治療にはできるだけ多くの情報を治療前から収集する必要がある。受診前に飼い主が記載・提出する問診票は犬用と猫用それぞれA4判9ページ。問題行動についても同様で、内容や頻度だけでなく、行動を起こす際に共通するきっかけがあるか、行動に出る対象は決まっているのか無差別なのか―などを時系列に沿って克明に記入する。

診察で活用されるのが「動物行動学」だ。動物の行動や習性の研究はかつて「生態学」とも呼ばれてきたが、現在では動物の行動を社会行動学的な手法も採り入れて解析する比較的新しい学問領域だ。このため、一般の獣医師の間にはまだ十分に浸透しているとは言えない。武内教授は「一生懸命勉強している獣医師も多いので、ペットの問題行動が気になる場合は、私が会長を務めている日本獣医動物行動研究会のホームページで、行動治療に理解のある最寄りの獣医師を探して受診してもらいたい」と話している。日本獣医動物行動研究会のURLは(http://vbm.jp/)。




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