「これじゃ何にもでけん」年金生活はつらいよ 3つの仕事掛け持ち シニアの経済事情

広げた手帳にはきちょうめんな字がびっしり。日曜を除いてほとんど出勤日の丸印が付いている。「こうして見ると詰まっとうね。すごいなあ俺も」

武富敏治さん(69)=福岡県粕屋町=は三つの仕事を掛け持ちしている。一度は“隠居”したものの年金は月11万円に届かない。1人暮らしとはいえ「これじゃ何にもでけん」と、また働きに出た。

介護のアルバイトは、慣れない体勢で腰を疲労骨折した。3週間入院して逆にお金が出ていった。今は新聞配達を週3日、シルバー人材センターで紹介してもらった駅の駐輪場管理や公園の掃除を週3日と、高校の戸締まりを週2日くらいしている。

放課後、教室を一つ一つ回って窓を閉める。これが結構きつい。蒸し風呂みたいな校舎を4階まで上り下り。もちろんエレベーターなんてない。「昔は用務員さんがしてたけど、どこも人件費があれやけんね」

それぞれの仕事は1~2時間とはいえ、同じ日に三つ重なることもある。あちこち移動して1日を終えるとヘトヘトだ。こうして月3万~4万円稼いでも貯蓄を切り崩さないといけない。生命保険はとっくに解約した。

「自分は幸い体が動くからいいけど」

「ちゃんと働いて払ってきたとに、何でこんな年金が少ないとかって思うときもある」

現役時代は、企業で健康診断をする臨床検査技師だった。病院で働きながら、夜の専門学校に通って国家資格を取った。「でも給料がようないの。ピラミッドがこうあって頂点がお医者さん、技師はここ」と、指先で描いた三角形の底を指した。

定年後も4年、継続雇用で働いた。「給料はガクッと下がったしボーナスもない。やることは定年前とそんな変わらんとになあ」。さらに労働組合の事務局で1年、65歳ごろまで35年働いた。

大学を出て会社員になったが、辞めてバイトをした時期もある。「2年くらいかな、風来坊よ。でも30過ぎて思い直して。検査技師になって一生懸命に働いたよ」。ほんの少し寄り道したけど、年金を受け取れるだけの保険料は納めた。「それなら生活でけるくらいの金額はないといかんとに、国は削っていきよる。自分は幸い体が動くからいいけど」

「なるようにしかならん」

先のことは考えないことにしている。「なるようにしかならん」。仕事に汗を流し、週1回はなじみの居酒屋で常連客と焼酎を4、5杯。映画館に毎月通い、自主上映サークルでも30年ほど活動している。「男はつらいよ」の寅さんは「自由で何ものにも縛られないところがいいなあ」。少し武富さんと似てますね。「俺は1日が決まっとるけん、どうかな」。自由なら何をしたい? 「ジャズを歌うのとか絵とか、習い事。時間もお金もいるよなあ」

この春、ボランティアを始めた。介護予防サロンで月2回、食事やゲームの相手をしている。「わはは、俺も高齢者、みーんな高齢者。でも人からそう呼ばれると抵抗あるな」

年金生活はつらいよ。でも、寅さんみたいに笑って暮らしたい。

▼シニアの経済事情

働き続けることを望むシニアは多いが、年金などの収入が足りず働かざるを得ない人も少なくない。

内閣府の2017年版高齢社会白書では、家計にゆとりがなく「多少心配」「非常に心配」と答えた人は計34.8%。1カ月当たりの平均収入額は「10万~20万円未満」が32.9%で最も多く、10万円未満という人も計20.2%に上った。例えば福岡市の70歳単身者の場合、生活保護基準は1カ月約10万7000円。シニアの2割以上がそれを下回る収入で暮らしていることになる。

また60歳以上で18歳以上の子や孫がいる人のうち、2割以上が、子や孫の生活費を負担しており、現役世代に頼れない事情もうかがえる。




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