<MRJ>のしかかる国産の“過剰な夢とロマン”

MRJ(三菱リージョナルジェット)は納入延期を繰り返すものの、国産初のジェット旅客機として多くの人の期待を集める。しかし現実には、採算性などに疑問はないのか。航空機産業に携わる製造業経営者たちはどう感じているのか。神戸国際大学の中村智彦教授(地域経済論)が報告する。

三菱重工業は5月9日、2017年3月期決算を発表した。債務超過となった三菱航空機など子会社株式の評価損と、同社への貸付金について貸し倒れ引当金を計上するなど約1200億円の特別損失が発生した。

三菱航空機は16年7月に債務超過に陥り、親会社の三菱重工業からの資金支援を受けた。今回はさらに、国産初のジェット旅客機MRJの生産ラインの人員2割の配置転換と、1次下請けとして生産を引き受けるボーイング社のラインでも3割の配置転換が発表された。

◇航空機の選択は航空会社の重要な経営課題

深刻なのは、国産ジェット旅客機として期待されるMRJである。今年1月23日には、5度目の納入延期が発表された。当初予定からは、実に7年遅れとなる。

2月16日午前中には全日空が突然、午後に記者会見を開き「重要な経営課題」を発表するというニュースが流れた。「社長交代」の発表だったのだが、全日空がMRJの発注を見直すのではないかといった臆測が駆け巡り、一時、全日空の株価は7%も下落した。

こうした懸念が生まれたのには理由がある。航空会社の次期主力航空機の選択は、大きな経営課題だ。大型旅客機の操縦や整備は、形式ごとにパイロットや整備スタッフが認証を受ける必要がある。自動車の運転免許を持っていれば、日産であれトヨタであれどんな車も運転できるが、航空機の場合はそうはいかない。パイロットがボーイング777の操縦免許を持っていても、同じボーイング社の787の操縦はできないのだ。

航空会社は、ある形式の航空機の導入を決めた段階で、導入時期に合わせてパイロットや整備スタッフの養成を行う。導入が遅れれば、その期間に使用する航空機をどこかから手当てしなければならない。自動車やバス・トラックのように、適当に代車を探してきて当座をしのぐわけにはいかないのである。

◇契約航空会社から違約金を求められる可能性も

もともとMRJは13年に初号機を全日空に納入予定だったが、延期を繰り返してきた。現在の予定は20年である。延期の要因は機器配置の大幅な設計変更だが、その影響で米国での試験飛行や、型式証明を得る計画が厳しくなっている。さらなる延期も懸念される。

全日空は4月、18年にボーイング737-800をリース調達すると発表した。737はMRJよりも座席数が多いため供給過剰になる可能性があり、全日空の経営への影響も懸念されている。納入延期は、航空会社に大きな負担を強いることになるのだ。

MRJも、納期遅れによる契約破棄や違約金の請求などを受ける可能性もある。現在の契約数は、447機と発表されている。そのうち全日空が25機、日本航空が32機である。何度も延期が繰り返されて大きな負担がかかれば、全日空や日本航空といえども株主の手前、対応を考えざるを得なくなるのではないか。2月に起きた全日空の一件も、ある意味当然である。

ただMRJの契約先の大半は、米国の国内線中心の航空会社である。200機を契約するスカイウェスト航空は、昨年夏にカナダのボンバルディア社と航空機整備で10年間の延長契約をしたと報じられた。MRJとの契約のうち100機は一方的に破棄できるオプション契約だ。予定通り納入されないと見込んでいるのだろう。

MRJの採算ラインは販売数1000機と言われる。契約数は半分にも達していない。さらに納入時期が遅れれば、契約する航空会社から違約金の支払い請求を受ける可能性もある。三菱グループは、航空機部門だけではなく、造船部門でも不振が続き、余剰人員の対応に苦しんでいる。これ以上資金を投入する事業なのかどうか、疑問を持たれても仕方ないだろう。

◇日本に「航空機産業集積」を作り出せるか

国産ジェット旅客機は、「悲願」「夢」ともてはやされることが多かった。しかし、実際に航空機産業に携わる製造業経営者たちに話を聞くと、当初から採算性に疑念を持つ人が多かった。全国各地に「航空機産業集積」を創出するという政府の考えと、現場の経営者との温度差はもともと大きかったのだ。

ある製造業経営者は、「(戦後初の国産旅客機)YS11へのノスタルジーが強すぎる。他国との競合が激しいジェット旅客機にこだわりすぎではないか」と言う。MRJの開発は政府の支援もあり、開発費を国が補助して始まった経緯がある。

ある技術系研究者は、「今さら後には引けないのもわからなくはないが、従来型ジェット旅客機へのこだわりが、若い技術者から新しい乗り物や技術のアイデアを奪ったり、発想を萎縮させたりしているのではないか」と指摘する。

「完成機にこだわる必要はない。これまで培った技術とノウハウで、ボーイング社やエアバス社などに部品や機器類を提供する方が現実的な選択肢ではないか」と言う中堅企業経営者もいる。この経営者は、航空機の製造組み立ては多数の熟練工が必要で人件費が高く、若年労働者が不足する日本では競争上不利だと指摘する。より高度な技術や製造ノウハウが求められる部品や機器類を海外に売り込む戦略が現実的だと考えているのだ。

一方、ある行政関係者は「MRJが暗礁に乗り上げたり、赤字のしわ寄せが各メーカーや航空会社に及んだりして、せっかく育ってきた航空機産業に悪影響が出るのは避けたい」と言う。「正直、三菱航空機がなんとか頑張ってMRJを完成させ、販売できるよう祈るような気持ちだ」と別の行政関係者は語る。

◇国産ジェット旅客機に夢とロマンを感じる人も多いが……

東芝、三菱重工と製造大手企業がいずれも経営不振にあえいでいる。理由の一つは、過去の栄光にこだわりすぎ、将来的に収益性が見込めない事業に固執してきたことにある。いわゆる「サンクコスト」(埋没費用)の呪縛で、各社の経営陣が勇気ある撤退を選択できなかったからだ。

国産ジェット旅客機に夢とロマンを感じる人も多い。民間企業の三菱重工業が三菱航空機の経営戦略をどう見通し、実行していくかも注目されるが、今後日本の産業政策として、政府などの狙い通りにMRJを中心とした裾野が広げられるかどうかが問われていくだろう。




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