<交通事故で脳損傷>専門病床もっと 物言えぬ夫の思い代弁

交通事故による脳損傷で意識が戻らない「遷延(せんえん)性意識障害者」を受け入れている独立行政法人「自動車事故対策機構」の専門病床。手厚い看護やリハビリで、全く反応がなかった最重度患者の4人に1人が同障害から脱しているが、全国には8カ所290床しかない。「もっと増やしてほしい」。家族らは物言えぬ大切な人に代わって訴える。

「お父さん、調子はどう?」。京都府舞鶴市の病院。市内に住む江上寿美子さん(55)はほぼ毎日、仕事を終えると夫直(ただし)さん(57)を見舞う。3年前の交通事故で遷延性意識障害になった直さんは目を開けたまま、反応しない。それでも寿美子さんは体をさすり、タオルで顔や手の指を丁寧に拭き、一日の出来事をゆっくり語りかける。

直さんは2014年7月、オートバイで帰宅中、右折しようと減速したところ、後続の乗用車に追突されて頭を強打し、脳を広範囲に損傷した。乗用車を運転していた70代の女がブレーキとアクセルを間違えたのが原因だった。女は有罪判決が確定したが、寿美子さんは「何不自由ない家庭」を失った。身長180センチと大柄で、風格を感じさせる調理師だった直さんの手足は棒のように細くなり、体重は30キロも落ちた。どんな声をしていたのか、忘れそうになることもある。

回復を願う寿美子さんは事故後、インターネットで遷延性意識障害のことを調べていて、専門病床のことを知った。「交通事故障害の専門病院なら道が開ける」と期待した。だが、自宅から一番近いのは大阪府南部の泉大津市立病院の委託病床(16床)。車で片道約4時間かかり、とても日常的には通えない。「夫の日々の様子が分からなくなるのはとても不安。リハビリをするなら一緒に頑張りたい」。そう考える寿美子さんは専門病床への転院を決断することができなかった。

「全国遷延性意識障害者・家族の会」(約300家族)は各都道府県に1カ所は専門病床を開設するよう、国土交通省や機構に陳情を続けてきた。桑山雄次代表(61)は「先駆的なリハビリ医療で26%の脱却率を達成している実績は素晴らしい」と評価する。

一方で、桑山さんが問題視するのは地域格差だ。「四国や、江上さんが住む舞鶴市のある日本海側には1カ所もなく、近畿圏でさえ泉大津の16床しかない。明らかに偏りがある。自宅から通える距離なら入院させたいという家族は潜在的に多い。5床程度の小規模でもいいから、専門病床をできるだけ増やしてほしい」と要望する。




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