重い障害の我が子もおしゃれを 母起業「病児服」販売へ

障害や病気で医療ケアが必要な子どもにもおしゃれな服を着てほしい。そんな思いから、重症心身障害の息子のために服を作り続けてきた女性が起業した。「病児服」と名付けた服は、ボタンを全部外すと1枚の布のようになり、色やデザインにもこだわっている。6月から本格的に販売を始める。

東京都品川区の奥井のぞみさん(33)の自宅を訪ねると、長男伊吹(いぶき)君(6)がいるリビングに案内された。伊吹君のこの日の装いは、青と赤のボーダー柄のシャツに紺色のカーディガン。ズボンは迷彩柄だ。

奥井さんの手作りで、実は全部つながっている。ボタンが両肩から袖口まで、おなかと内股部分にもあって、外すと1枚の布のようになる。人工呼吸器をつけ、胃ろうもつけている伊吹君も簡単に着替えられるよう工夫されている。

「伊吹はしゃべれないけど、すてきな服を着ると表情が良く見えてくるから不思議。本人も家族も着替えの負担が減る病児服でおしゃれを楽しむことが、同じことの繰り返しになりがちな介護のアクセントになる」と奥井さんは話す。

伊吹君は生まれてくるときに突然心拍が低下して21分間心停止し、蘇生した。NICU(新生児集中治療室)に入って3カ月目、初めて服を着ることになり、新生児用の肌着を看護師が伊吹君に着せてくれたが、点滴の管が外れないように、そして脱臼しないように袖を通すのは大変そうで、ハラハラしながら見守ったという。

もっと脱ぎ着しやすい服はないかとネットなどで調べてみたが、障害児用の服を扱う店はわずかだった。同じ医療ケアが必要な親たちと情報交換をしたが、サイズやデザインに満足していないまま着せているという人もいた。

「満足できるものがないなら、私が作ろう」。市販の型紙を切り貼りしながら考え、腕や首を通さずに着られる今の形にたどり着いた。約1カ月後に初めての手作り肌着が完成。看護師も安心して着替えがさせられると喜んでくれた。「私の作った肌着を着た伊吹を見て、初めて親らしいことができたと思いました」

同じように医療ケアが必要な子たちにも着てほしいと、2年前に起業。機能的で、重ね着風のものやかわいらしいデザインのものを1点ずつ作ってきた。

今年2月には品川区主催の女性起業家のビジネスコンテストでグランプリを受賞。量産してくれる工場も見つかり、無地の肌着「イブ ベーシック」(身長60センチ用が税込み3750円、同85センチ用は同5500円)の販売を6月から本格的にスタートさせる。

価格を抑えたデザイン性の高い服も、型紙作りや縫製をしてくれる数人のハンドメイド作家らの協力を得て、今後増やしていく予定だ。次男(5)の服を選ぶときは、子ども服店で商品を見比べて「これ、かわいいな。似合うかな」と選べる。「そんな当たり前が、どんな子の服でもできるようになってほしい」と願っている。

商品の注文や問い合わせは、奥井さんのブランド「palette ibu.(パレット イブ)」にメール(ibu.cuddly@gmail.com)で。

人工呼吸器などの医療ケアが日常的に必要な子どもは、厚労省の研究班の中間報告によると、2015年5月時点で全国に推計約1万7千人(0~19歳)いる。

重症心身障害児・者にとっての快適な衣服を研究する日本女子大学の多屋淑子教授(生活工学)は、「ほぼ寝たきりの人や意識がない人でも、常に体に触れ、脱ぎ着する衣服のストレスを減らすことは大切。また、おしゃれの選択肢が広がることは、本人と介護者の生活の質に関わることです」と話す。




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