<赤ちゃんハテナ箱>1日3食ともベビーフードは是か非か

手間がかかり、材料にも気を使うのに、ほとんど食べてくれないこともある離乳食。1日3食とも市販のベビーフード(BF)を使ってはだめなのだろうか。安全面や栄養面について、専門家やメーカーに聞いた。

埼玉県和光市の「おやこ広場もくれんハウス」。三浦恵さん(31)がつぶしたかぼちゃを乗せたおさじを口元に運ぶと、生後8カ月の旭陽(あさひ)君がパカっと口を開けた。もぐもぐする様子がほほえましい。料理好きな恵さんはふだん離乳食を手作りし、味付けにはBFのだしやホワイトソースなどを活用している。「外出用や非常用にいくつかストックしています。食べなくてもBFならストレスにならない。うまく組み合わせて使うといいかもしれないですね」と話す。

柳浩代さん(38)は6カ月の舷仁(げんじ)君の食事にBFをフル活用している。「子どもができると忙しくて料理がストレス。ゆとりを持って接したいから使っている。洗濯板じゃ大変だから洗濯機を使うのと同じこと」と浩代さん。2〜3日に1回使うという母親(33)は「使うのに抵抗はないけど、こんなに味があっていいのかや、ビタミンが足りているかは気になりますね」と言う。

BFの市場規模は飲料を除いて約244億円(2015年)。1937年に和光堂から発売された米の粉砕品「グリスメール」を皮切りに60年代に種類が増加し、現在は飲料やパウチ、瓶詰や粉末、成型容器入りなどさまざまな形態がある。少子化にもかかわらず、生産額は微増傾向だ。05年度乳幼児栄養調査では、BFを使ったことがある保護者が95年の66・0%から75・8%に増加していた。最新の15年度調査では普及が進んだため、調査項目にもならなかった。

「赤ちゃんの食べ物は最も安全な食品という目で見られるため、安全はもちろん安心も得られる基準を設けている」。BFを製造・販売する6社で作る日本ベビーフード協議会(東京都千代田区)の土橋芳和事務局長は、業界の自主規格についてこう説明する。

自主規格は、厚生労働省の「授乳・離乳の支援ガイド」や年齢別に栄養素の摂取量の目安などを記した「日本人の食事摂取基準」に準拠して、月齢に見合った品質を設定。微生物量や遺伝子組み換え食品、放射性物質の規制など多岐にわたる項目があり、国内基準だけでなく、食品添加物の安全性に関する専門機関(JECFA)の評価や、国際食品規格(CODEX)にも目を配っている。

添加物は、安定した品質や価格、供給体制のために避けては通れない。豆腐製造に昔から使われている「にがり」や、乳幼児に不足しやすい鉄やカルシウムの強化は最小限使用できるとし、使える添加物はリスト化した。規格は5年ごとに見直すが、最新の知見や規制情報をすぐに反映できるよう、今年からリストの更新は協議会ウェブサイトで随時公開されている。

メーカーは自主規格を守った上で、個別の工夫を重ねている。

「こんなにおいしくていいんですか、とよく聞かれますが、添加物や塩分に頼らない味付けをしているので」と和光堂(東京都渋谷区)の事業本部ベビー&シニア統括営業部の荻原淑子さんは話す。カツオや昆布、チキンなどのだしを組み合わせてうまみを出しているという。

キユーピーは、使用可能な鉄強化などの添加物も使わず、鉄分が多いとされる食品で代替してきた。もともとマヨネーズやドレッシングも添加物をできるだけ使わず、自社工場で製造する方針だという。

日本生活協同組合連合会(同)が3月からスタートさせた離乳食ブランド「きらきらステップ」の冷凍食品、ゆでうどんと国産スケソウダラは添加物ゼロ。うどんは食塩すら使っていない。協議会の加盟社ではないが、自主規格は守った上で、アレルギー対策なども徹底したという。

開発した第二商品本部冷凍食品部調理冷食グループの神津茜美さんは「生協の製品は安全というイメージが強い。家庭で作った物を冷凍するのと同じ味を出せるようにした」とアピールする。今後、おかゆや野菜の裏ごしした野菜のキューブ、幼児向けの手づかみ食べができる豆腐ハンバーグなどを発売していく予定だ。

一方、栄養バランスはどうなのか。「同じものだけ与えるのはダメです」と、栄養士でもある和光堂の荻原さんは指摘する。ベビー用品店などで開く栄養相談会では「うちの子はこの味のベビーフードが好きで毎日買っている」という声を聞くという。そんな時はまず、いろいろな種類のBFを与えてみることからアドバイスする。少なくとも(1)主食(2)主菜(肉、魚、豆腐などたんぱく質)(3)副菜(野菜)の三つがそろうこと、和洋中など味のバリエーションを意識してもらう。和光堂だけでも飲料などを含め約240品目扱っており選択の幅はある。「手作りでも豆腐ばかり与えている人がいる。ベビーフードでも手作りでも、選択眼が大切」と荻原さんは言う。

キユーピー家庭用本部加工食品部育児・介護チームリーダーの師田努さんは、月齢差や個人差、1食分で必要な栄養素がすべてまかなえるわけではないことに注意するよう促す。血液や脳の発達に必要な鉄分は9カ月ごろから特に必要になってくるため、鉄分を含む食品を追加した方が良いという。製品の裏に栄養バランスを示したレーダーチャートがある場合は参考にし、不足する栄養を補う1品を添える工夫が必要だ。

一方、日本ベビーフード協議会の40年史をひもとくと、日本に米国製BFが上陸した当初、消費者や現場の小児科医、栄養士らは「離乳食は手作りで」との信念が強く、「BFを使って赤ちゃんを育てるとインスタントの赤ちゃんになる」と言われて泣いた母親もいたと書かれている。日本では一種罪悪感のようなものを抱えて利用している人も少なくないが、専門家はどう考えるのか。

「食事は食欲という本能を満たす心地よい時間。食べさせる時に親が必死だと食事を楽しめなくなる。乳幼児期は食事を楽しむことが大事だから、必要ならばBFを使ってもいいと私は思う」。相模女子大の堤ちはる教授(母子栄養学)はBFの利点と配慮すべき点を踏まえたうえで上手に使うようアドバイスする。

離乳は段階を追って訓練することで食べる能力を獲得していく過程だ。そのため、最初は米粒が半粒混じっているだけで口から出してしまうこともあり、裏ごしなど丁寧な調理が必要だ。しかし手間の割に、赤ちゃんは気分次第で食べてくれないこともある。親は「なんで食べてくれないの」と怖い雰囲気を醸し出してしまいがちだ。

逆に赤ちゃんは、親がひとくち食べて「おいしい、食べてみて」と言うと「これは食べても大丈夫」と安心して食べるようになるという。手作りを食べてくれなくて落ち込むよりは、BFを活用して「あ、この製品はおいしくないのね」と自分の料理以外のせいにした方が、親子ともにストレスがたまらなくて良い面があるという。

一方、配慮すべき点は製造過程での、加圧や加熱処理によって素材の味が均一になっていること。例えば肉じゃがは手作りすると肉やイモ、タマネギといった素材ごとの味が残りやすいが、加圧や加熱処理をすると均一に味が染み、すべて「肉じゃが味」になってしまいがちという。具も月齢が進むと軟らか過ぎるものもあるので、適した固さにゆでた野菜をBFに混ぜて咀嚼(そしゃく)力の発達を促した方がいい。

また、最低限の食品と栄養、調理の知識も身につけたい。朝も昼も野菜を食べなかったら夜は野菜を多めに、2日肉が続いたら今日は魚にといった配慮や彩りを意識するだけでも食材の数が増え、バランスが取りやすくなる。作らなくてもきんぴらは油を使うなどの調理法を知っておくことで、高カロリーだと判断して選択の材料になる。

堤教授は昨年、行政の管理栄養士からBFを使う親が多いと嘆く声を聞いた。「親が追い詰められて修羅場になるよりいいのではないの」と話すと、その栄養士自身も「そう思えば気が楽になった」と話したという。15年度乳幼児栄養調査では5歳未満の子を持つ親の6人に5人が食事について悩みを持っていた。堤教授は「食の悩みを解決することは、子育て支援に直結する」と話す。

いなだ・かよ 

2005年入社。社会部在籍中の13年に第1子を出産した。就職活動や東京都庁の担当を経て、16年から生活報道部。シニアや介護、子どもの話題を担当している。




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