入店拒否も…聴導犬わずか67頭、盲導犬の1割にも満たず 改善訴え

音のない世界を恐れ、外出を控えがちになる聴覚障害者にとって、聴導犬は暮らしに希望を与える存在。利用者は「幸せと充実した日々を運んでくれた」と話す。だが全国でわずか67頭と、盲導犬の1割にも満たない。理解不足から入店を断られるケースもあるという。一般社団法人「日本聴導犬推進協会」(埼玉県ふじみ野市、河野滋代表)は、聴導犬の育成と広報活動を行う県内唯一の団体。職員は「聴導犬が当たり前に受け入れられる社会になってほしい」と願っている。

■不安軽減へ

住宅街の民家の一室で、聴導犬の訓練が行われていた。ピピピピピ…。床上に置かれたタイマーが鳴ると、3歳の雑種犬「さんた」は走って音の元へ行き、音源を確認した。すぐに訓練士に駆け寄って鼻で体にタッチ。訓練士が手話で「何?」と聞くと、タイマーの元へと誘導した。電話の着信音のほか、サイレンや車のクラクションなどの危険音―。あらゆる音に対応できるよう、2~3年の訓練を経て聴導犬が誕生する。

捨て犬だったさんたは生後3カ月で協会に引き取られ、訓練を重ねてきた。晴れて、来年から聴導犬として活躍する。「殺処分される犬たちも救うことができる」と協会の秋葉圭太郎さん(35)。現在協会にいる6頭は人懐こさなど性格を見極め、保健所や動物愛護センターにいる捨て犬などの中から選ばれている。

前身の団体を含め10頭の聴導犬が協会を「卒業」して活動している。協会を通して書面による取材に回答した利用者は、聴導犬との暮らしによる日常の変化を実感していた。

「音がない世界で、常に周りに注意を払わなければならず神経をすり減らしていた」。東京都練馬区の松本江理さん(47)は、聴導犬と暮らす前の生活を振り返る。協会によると、聴覚障害者の中には、コミュニケーションをうまく取る自信がないことから、人との接触を避けて引きこもる人も少なくない。

松本さんが聴導犬と出合ったのは1995年。それまで、自分のできないことばかりを数えていたが、聴導犬が音を教えてくれる安心感から外出の機会が増えた。聴導犬を連れていることで、周囲の人が気付き、駅の放送をメモに書いて教えてくれたことも。「人の助けを得やすくなり、自由に出掛けられる生活に変わった。聴導犬が私に幸せと充実した日々を運んでくれた」

■低い認知度

一方、利用者は聴導犬の認知度の低さを痛感している。誤解を恐れ、利用を断念する人もいるという。2008年から聴導犬と生活する所沢市の東彩さん(46)は「飲食店などへの入店の際に、ペットを連れた非常識な客だと勘違いされ制止されることが多い」と語る。耳の障害は見た目では分かりにくく、犬種や大きさもバラバラの聴導犬はペットと間違えられる場合がある。

認知度が低い要因の一つは聴導犬の少なさだ。全国で約970頭が活躍している盲導犬に対し、聴導犬はわずか67頭。いずれも育成費は寄付によって賄われているが、知名度の低さから盲導犬に比べ資金が集まりづらい。1頭当たり約300万円の育成費がかかり、訓練スタッフも不足している。こうした状況の中、聴覚障害者のニーズに、育成のスピードは追い付かない。秋葉さんは「年に2頭を輩出するのが限界。体制が整えばもっと早く、多くの聴導犬を育成できる」と嘆く。

「知らない人が多いなら、自分が行動することで、多くの人に聴導犬の存在を知ってほしい」。東さんはそんな思いを胸に、今日も聴導犬と新しい場所に出掛けている。

聴導犬や寄付に関する問い合わせは、日本聴導犬推進協会(電話049・262・2333)へ。




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