生活苦でも差し押さえ 自治体の徴収、滞納者を追い詰めるケースも

困窮して精神的に追い詰められているケースが出ている。「税の公平性を保つ手段」として自治体に認められている権限だが、滞納者への徴収は個々の事情に応じた柔軟な対応が求められる。専門家らは「経済状況に配慮すべき」と話している。

■届いた通知書「死んでも関係ないのか」「血の通った対応を」

「夫が倒れたら生きていけない。一日一日をただ生きているだけ」。

さいたま市の60代女性はつぶやいた。建設会社に勤務する60代の夫と2人暮らし。手取りで約28万円だが、2010年ごろから会社の経営が悪化、一時的に給与が滞った。国保税や住民税を払えず、気付けば延滞金を含め滞納額は300万円超になった。

今年3月、さいたま市債権回収課から「差押事前通知書」が届いた。担当者から月々16万円の支払いを迫られ、払えない場合は給与から20万円の差し押さえに同意する押印を求められた。生活状況は聴取されず、分納も認められなかった。担当者から夫の会社に連絡が行き、7月分から12万7千円が差し押さえられた。

7万円の家賃を合わせて月々約20万円がなくなる。光熱費が払えず、毎回のように督促状が届く。給与前は冷蔵庫の中が空っぽ。女性は高血圧で服薬していたが、病院に行く回数も控えている。「病気になっても病院にも行けない。私たちは死んでも関係ないのでしょうか」

同市北区の新聞配達員男性(68)も25万円の月給から6万円を差し押さえられる。妻(51)は自宅に引きこもりがちで、男性の収入だけが頼り。無年金のため、将来の不安は尽きない。

01年、上司の頼みを引き受けて連帯保証人になったことで、後に返済義務を負った。生活が困窮し、国保税を滞納。月々1万~2万円の分納を続けてきたが、09年に市債権回収課から一括返還か月5万円以上の支払いを求められた。

厳しい生活状況を伝えても、聞き入れられず、滞納額は約131万円に膨れ上がった。妻には「自分が倒れたら、俺のことは放っておいてほしい」と伝えてある。「払えない自分が悪いのは分かっているが、どうか血の通った対応をしてほしい」と訴えた。

■徴収の強化「税の公平性保つ手段」

市収納対策課によると、15年度の差し押さえ件数は国保税で2478件、その他の市税で5073件。5年前の約4倍で、国保税を除く15年度の徴収率は96・7%になった。

同課は「財産を調査した上で、法に基づき対応をしている」と回答。中には、資産があるにもかかわらず税金を納めない悪質なケースもあるといい、「苦しいながらも税を納めている人もおり、税の公平性を保つための手段として差し押さえを行っている」とした。

自治体による徴収が強化した背景の一つが、07年度に実施された国から地方への税源移譲。徴収率がすぐに財政に影響するようになったため、さいたま市以外でも全国の各自治体が徴収に躍起になった。しかし、病気や失業などで払えない状況に陥る場合も。総務省は「滞納者の個別具体的な実情を十分に把握した上で、適正な執行に務めてほしい」としている。

反貧困ネットワーク埼玉の猪股正弁護士によると、滞納者からの相談が年々増加傾向にあるという。「行き過ぎた取り立てで生活が破綻し、生存権が守られていない。生活が困窮している人に対しては画一的な方法ではなく、(自治体は)福祉とつなげる役割を持つべき」と疑問視する。

「住民税の課税世帯でも厳しい生活を送っている人が増えている」。地方税制に詳しい埼玉大学大学院の高端正幸准教授は貧困世帯が増加している現状を指摘する。

その上で、「ルール上、自治体が税を徴収せざるを得ないのも事実だが、個々の経済状況にも当然配慮すべき。根本的な問題は困窮世帯に対する社会保障が機能していないことだ」と話した。

■20日、無料電話相談

地方税や国民健康保険税を滞納する人に対して、自治体による差し押さえが強化されていることから、滞納者を対象とした無料電話相談「税・国保・滞納・差押ホットライン」(0120・022052)が20日午前10時~午後8時に実施される。

中央社会保障推進協議会が主催。埼玉では反貧困ネットワーク埼玉に所属する弁護士らが相談に応じ、生活の立て直しを支援する。

同ネットワークによると、自治体による差し押さえで、病院に行けなくなるなど、生活が困窮する実態が多く見受けられるという。

2009年度から14年度までの国保税滞納世帯は全国で445万世帯から336万世帯に減少しているものの、差し押さえ件数は約18万件から約27万件と1・5倍に増加している。担当弁護士は「困っている方は気軽に相談してほしい」と話している。




http://www.saitama-np.co.jp/news/2016/12/19/10.html