快進撃「かつや」、安くて早いカツ丼の舞台裏 こうして「調理に手間がかかる」を乗り越えた

とんかつ専門店「かつや」が、外食不況どこ吹く風の好調ぶりを発揮している。定番の「ロースカツ定食」は690円とお手頃価格で、商品を注文するとわずか5分でサクサクのとんかつが運ばれてくる。学生や忙しいビジネスマンの心強い味方だ。

「かつや」を運営するアークランドサービスホールディングスの前2015年12月期の営業利益率は14%と高水準。今2016年12月期も営業益予想は32.5億円と過去最高を見込む。店舗数は今年9月末時点で362店まで拡大、既存店の月次売上高もほぼ前年超えを維持している。

強さの秘訣は、期間限定商品である「フェアメニュー」の投入や、既存商品を値引きする「キャンペーン」にある。今年前半のフェアメニューは、「増し増しやさいのチキンカツ丼」「キャベ玉チキンカツ丼」など、量感のあるメニューを投入した。およそ月1ペースでこうした限定商品を投入することで、リピーター客を囲い込むことに成功している。

一方、「キャンペーン」は新規客の獲得を目的に、年に数回、3日〜1週間開催。定食など定番商品を割引価格で提供する。さらに、レジで会計をすると500円以上の商品が100円割引になる券を渡す。かつやの伊藤永社長は「従業員には、割引券は再来店の約束手形だと言っている。財布に割引券を入れてもらえば、期限が切れるころにそろそろ行っておこう、と思ってもらえる」と狙いを語る。

店舗を円滑に運営するためのオペレーションの工夫も見逃せない。一般的に、揚げ物は調理に時間がかかり習熟も求められるなど参入障壁が高い。従来、とんかつ専門店といえば「新宿さぼてん」や「とんかつ和幸」といった中〜高価格帯の店が中心だったのもそうした理由からだ。

そこで、かつやではパートなどの従業員が誰でもカツが揚げられるよう、特注のオートフライヤーを導入している。2〜3年に1度バージョンアップをしていった結果、導入初期に3分40秒かかっていた揚げ時間が、現在は2分45秒になったという。

油の管理にも特徴がある。かつやでは、濾過を頻繁におこなうことにより、油を捨てなくて済む仕組みを確立。常にpH値(水素イオン指数)が安定した状態でとんかつを揚げられるフライヤーになっている。「お客様満足度を上げようと取り組んでいった結果、生産性が向上し、コストダウンにつながった」(伊藤社長)。

これらの取り組みの結果、かつや直営店1店舗あたりの平均月商は右肩上がりで成長。上場初年度の2007年は670万円だったが、2015年に791万円に拡大。2016年は800万円超の着地となる見通しだ。「既存店の売上高が伸びるということは、まだ店が出せるということ。(現在の倍の水準である)700〜800店が一つの目安だと思っている」(伊藤社長)。

近年、国内では年間30店以上の出店を継続しているが、店舗の7割弱はFC(フランチャイズ)店だ。FC店は売上高の一部をロイヤリティとして支払う必要があるが、1店舗運営の場合は5%、10店舗運営すると3.5%というように、同一オーナーが店舗数を増やすとロイヤリティを下げる仕組みになっている。資金力のある地場の有力企業が複数の店舗を持つケースが増えていることが、安定した出店につながっている。

ただこのところ、かつやのライバルになり得る低価格業態が台頭してきた。中でも急速に店舗を増やしているのが、牛丼チェーン大手の松屋フーズが展開している「松のや」だ。同社は、今2017年3月期にとんかつ店を45店出店、店舗数を期末に126店まで増やす計画だ。

ロースかつ丼は490円と「かつや」と同価格で、定食は600〜700円台が中心だ。松屋フーズの瓦葺一利社長は「松のやは成長エンジンとして出店を進めていきたい。業界ナンバーワンを目指す」と意気込む。

さらに、まだ数店舗ではあるが、2016年に入り居酒屋チェーンのコロワイドやファミリーレストランのすかいらーくもとんかつ店を立ち上げた。外食・中食の継続調査を行っている市場調査会社、エヌピーディ・ジャパンによると、とんかつ専門店の市場規模は2015年に1492億円(外食・中食計)で前年比2割増加。同社の東さやかシニアアナリストは、「格安のとんかつ市場は未熟で、高価格の既存とんかつ店からの客を奪うことが可能。揚げ物をしない家庭が増えており、内食や小売からの顧客シフトが期待できる」と新規参入が増えている理由について分析する。

かつやの伊藤社長は「これまでは競合がいるという認識すらなかったが、最近は気にしている。今年は肉へのパン粉や塩こしょうの付け方を時間をかけて研修し、かなりレベルが上がった。他社が真似しようにもできないと思われるくらい、面倒臭いことにどんどん投資をしていくのが差別化ににつながる」と語る。

にわかに盛り上がりを見せ始めた低価格とんかつ業界で、かつやは盟主の座を守ることができるだろうか。




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