派遣労働者の立場は弱いまま 改正法施行から1年も進まぬ支援

派遣労働者の支援策が進んでいない。昨年九月末に改正労働者派遣法が施行され一年余り。企業がどんな業務でも人を代えれば従来の三年を超え派遣労働者を使えるようにする一方、業者に教育訓練を義務付けるなど労働者支援策も課したが、支援策は遅れている。働き方改革を掲げる政府は「同一労働同一賃金」として非正規労働者の待遇改善をうたうが、現状では改正法の定めすら徹底されていない。 

「教育訓練の話は会社からない。会社に聞くと『あなたは法改正前から働いているので対象外』と言われた」。介護施設で派遣労働者として働く東京都福生市の男性(57)は言う。

訓練は無料で年間八時間以上行い、その間の給料も支払われる。法改正で三年で雇い止めになる人が出る心配もあり、不安定な派遣労働者の就職を助ける狙い。実際は全員が対象だが、ルールを知らない業者も多い。厚生労働省が二~四月に千百十二事業所に行った調査でも「実施した」のは36%だけ。政府が実施期限を定めず、ルールもあいまいなことが背景にある。

派遣業界は中小企業も多く、「訓練費捻出が難しい」との回答も四割に。日本人材派遣協会も「充実した訓練には多額の予算がかかり、大手でないと自力では難しい」と指摘。協会は会員企業向けに有料でインターネットを通じた教育サービスを四月から始めたが、受講者はまだ二万人。派遣労働者は九月時点で百四十三万人と三年前から二十四万人増えているが、業界の対応は遅れている。

政府は法改正に際し通勤手当で派遣社員を不合理に差別しないよう指針に明記した。だがリクルートホールディングス、パソナグループ、テンプホールディングスの大手三社に取材したところ、いずれも自社の正社員には支給しているが、あっせんする派遣労働者には払っていないと回答した。三社は「正社員は会社都合の転勤があり、勤務地が選べない。責任の重さも派遣と違う」と弁明する。通勤費は人材情報会社エン・ジャパンの調査(昨年)で六割の派遣労働者が「払われない」と答えており、不支給慣行は続いている。

本給と別に支給された通勤手当は所得税が非課税。だが、自腹で払う派遣労働者はこの恩恵もない。埼玉県の女性(43)は「都内の職場まで月二万円かかり月収の一割。私たちは二重に差別されている」と言う。

長く同じ職場で働く労働者について、直接雇用を企業側に依頼する義務も実際に依頼した業者は34%。

支援策が進まない状況に和光大学の竹信三恵子教授は「派遣会社がよりスムーズに営業できる政策が続いている。期限を設定し、対応しない業者は公表するなど労働者を守る政策を進めるべきだ」と指摘している。

「法改正後、派遣元から教育の情報は知らされてないし、交通費も出ません。この制度は人身売買のようでどこかおかしい」。本紙読者部にも改正法の運用実態についての指摘が寄せられている。

坂口秋子さん(43)=仮名=はバブル崩壊後の一九九六年に大学を卒業。就職が決まらず、派遣社員などで働いてきた。八年前からは都内の大手コンピューター会社で派遣社員としてデータ集計などを担当する。時給はほぼ千六百円で上がらない。手取り月二十万円余でボーナスも退職金もない。「通勤費が出ていないと派遣先の職場の正社員に話すと驚かれた」という。

年末でいまの派遣先企業との契約が切れる。「更新は所属部署の予算次第。来年も仕事を続けられるか心配です」。更新できても改正法で数年後はこの部署では働けなくなる可能性が高い。「できるならいまの職場で社員になりたい。でも派遣が正社員になったのを見たことがないし、どんな教育が必要なのか分からない。結局、人件費を削るために私たちがいる。法律で正社員化の義務付けでもしない限り企業は動かない」 

<改正労働者派遣法> 

2015年9月30日施行。どんな業務でも派遣労働者が同じ職場で働けるのは原則3年。企業が期限を越え派遣に任す場合は別の人を受け入れるルール。3年で雇い止めになる人が出てくる心配があるため、派遣業者に教育訓練義務などを課した。派遣会社は全て許可制で、許可取り消しも可能。




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