高齢者に多い大動脈弁狭窄症 症状なく進行…早期発見重要

心臓の弁の一つである大動脈弁の開きが悪くなり、血液の流れが妨げられてしまう「大動脈弁狭窄(きょうさく)症」。加齢に伴い、弁が硬くなることが原因で起こることが多く、高齢化により患者数が増加している。無症状の期間が長いが、進行すると突然死につながる恐れもある。専門家は「動悸(どうき)や息切れを感じたら、早めの受診を心がけてほしい」と話している。

東京都北区の無職、伊藤清一さん(90)は今年5月、階段を上ったときに胸が苦しくなったり、食事の後に胸焼けがしたりするようになった。不安に思い受診すると、大動脈弁狭窄症と診断された。

医師からは、「重症なので早期に治療しないと突然死や心不全の可能性がある」と告げられた。「突然のことで驚いた。知らないうちに症状が進んでいてショックでした」と伊藤さんは振り返る。

8月にカテーテルで人工弁を留置する手術を受けた。経過は良好だという。伊藤さんは「胸の重苦しさがなくなった。高齢でもできる治療法があってよかった」と話す。

心臓内には血液の流れを一方向にするために4つの弁がある。肺で酸素を受け取った血液は、左心房、左心室を経て、大動脈弁を通り、大動脈に送られる。この大動脈弁の開きが悪くなるのが大動脈弁狭窄症で、「心臓弁膜症」の一つだ。

大動脈弁狭窄症のなかでも特に多いのが、動脈硬化のような変化が原因で起きるケース。東京ベイ・浦安市川医療センターの渡辺弘之・ハートセンター長は、「加齢により新陳代謝が悪くなり、大動脈弁が石灰化して硬くなってしまう」と説明する。

日本では、65歳以上の大動脈弁狭窄症の罹患(りかん)率は2~3%で、患者数は65万~100万人と推定される。

主な症状は動悸や息切れ、胸痛、呼吸困難など。進行すると、心不全や突然死につながる可能性もある。渡辺医師は「ゆっくりと進行するので無症状の期間が長く、あまり運動をしない高齢者は症状に気づきにくい」と話す。

大動脈弁狭窄症は、自然に治ることはない。慶応義塾大医学部循環器内科専任講師の林田健太郎医師は「自覚症状が出たときにはすでに重症化しているケースが多い。進行する前に、治療を受けることが大切」と指摘する。

聴診と心臓超音波検査で診断がつく。症状が軽い場合は、服薬で症状を緩和したり、心臓にかかる負担を軽減したりする。

「症状が重く、根本的に治すためには手術が必要」と林田医師。従来の外科手術は、心臓と肺の機能を代行する「人工心肺」を使い、胸部を開いて心臓を切開し、悪くなった弁を人工弁に取り換える。ただ、高齢者には負担が大きく、持病がある場合など手術が難しい人も少なくなかった。

そこで最近、注目を集めているのが経カテーテル大動脈弁治療(TAVI)だ。脚の付け根や肋骨(ろっこつ)の間からカテーテルを入れ、折りたたまれた状態の人工弁付きの編み目の筒(ステント)を心臓に運び、人工弁を留め置く治療法だ。高齢者や、持病があって開胸手術が難しい人が対象。体への負担が少ないため回復も早く、入院期間も1週間程度と比較的短い。

林田医師は「TAVIにより、ハイリスクの高齢患者も治療ができるケースが増えた。早期に治療した方が心臓の機能回復が早いので、早期発見が大切」と話している。




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