<科学の目で見る>市販の水素水 濃度はどうなっているのか

水素を溶け込ませた水素水の商品が市場にあふれ、人気を集めるが、気になるのは水素の濃度。濃度の高さを競う数字の競争にもなっているが、はたして手に取って飲んだときに、容器に表示された数値は実際の濃度なのだろうか。

◇数字は「生成時」や「充てん時」

市販されている水素水の商品を見ると「水素濃度1.8~2.7ppm」や「0.3~0.8ppm」などの数字がある。中には「最高7.0ppm」といった商品もある。ppmは100万分の1を表す単位で、1ppmは1リットルの水の中に1ミリグラム(1000分の1グラム)の水素が含まれていることを意味する。

表示をよく見ると、水素濃度の数字の近くに「生成時」や「充てん時」などの表記がある。これは工場で水素を注入したときの濃度で、実際に店頭で買って飲むときの濃度ではない。水素は容器の隙間(すきま)から少しずつ抜けていくので、店頭で買ったときの濃度はそれよりも低い。

では、どれくらい低いのか。水素濃度0.3~0.8ppmのアルミ缶を販売する伊藤園によると、「工場の出荷時から賞味期限(約9カ月間)までに実際に含まれている水素の濃度を示す」という。つまり、出荷から約9カ月たっても、0.3ppm以上は含まれているという意味だ。

市販されている水素水の容器は、主にペットボトル▽アルミ缶▽アルミパウチがあるが、知っておきたいのは、水素の抜け方は容器の材質やふたの有無によって異なることだ。

◇「濃度表示のルールを」

水素の抗酸化作用や装置の研究開発を行うMiZ(ミズ)の平野伸一・取締役(国立成育医療研究センター客員研究員、薬理学)らが市販の商品の水素濃度を調べたところ、ペットボトルはゼロ、アルミ缶は約0.2ppm、アルミパウチは約0.8~1.2ppm、電気分解を利用したアルカリイオン水は約0.1~0.5ppmだった。

別の試験で、ふたなしのアルミパウチで約半年間、濃度が下がっていない商品もあったことなどから、平野さんは「水素はふたや栓からも抜けていく。アルミ容器でふたなしが抜けにくい」と話す。

しかし、いまのところ、水素水の定義がないため、水素が少しでも含まれていれば、水素水といえるのが実情だ。平野さんは「水素水と呼ぶからには、最低でも何ppm以上の水素を含むといった濃度表示のルールを業界で定める必要がある」と話し、水素水の定義も含め、消費者に誤認を生じさせない適正なルールづくりを訴えている。

ややこしいのは、水素は気圧次第でも溶け込む濃度が異なることだ。一般に水に溶ける濃度は決まっており、通常(大気圧)は1.6ppmが上限となる。しかし、工場などで気圧を高めて注入すると1.6ppm以上でも入る。このため、1.6ppm以上の商品があってもおかしくないが、店頭時の濃度はそれより低い。

また、水の入ったペットボトルに水素発生剤を入れて、水素を発生させてすぐに飲むタイプの商品もあるが、これだとふたをして振ると加圧されるため、7ppmでも溶け込むという。

さらに、水の電気分解で水素を発生させる装置も売られている。この装置を使って以前は「アルカリイオン水」といった名で売られていたが、水素が注目されるようになってからは、「還元水素水」や「電解水素水」などの名で売られるようになった。機器としては同じものだ。これらの装置は厚生労働省によって「胃腸の症状改善」をうたえる医療機器の認証を得ているが、こと水素だけに着目すると、水素濃度は一般的に低く、0.1~1ppm程度(機器メーカー「日本トリム」の話)という。ただし、水素水を作るコストは、市販の水素水より安い。

◇健康への影響は不明

水素濃度の高低と健康への影響はよく分かっていないため、水素濃度の高低を評価するのは難しいが、消費者にとって関心が高いのは健康への効果だ。いまのところ、健康な人が飲んだ場合に「美容によい」などの有効性を示すデータはない。ただ、大阪市立大学などの研究報告によると、睡眠の改善や疲労軽減などが期待できる比較的信頼度の高いヒトの試験結果は出てきている。

NPO法人「食の安全と安心を科学する会」の山崎毅理事長は「水素水を市場で売るからには、メーカーは少なくとも機能性表示食品として、消費者庁に届け出て、その科学的な根拠を公開し、消費者に判断材料を示すことが必要だ」と話す。

機能性表示食品は昨年4月から始まった国の制度で、事業者が科学的根拠を消費者庁に届け出てから、市場に商品を提供するもの。すでに300品目を超える機能性表示食品が登場しているが、水素水製品はまだ出ていない。水素の研究ではパーキンソン病など患者への臨床研究は進むが、健康な人が利用する場合はデータがほとんどないだけに冷静さが必要のようだ。

■水素水に関する基礎知識

<1>水素水の定義はない。

<2>効果が研究されているのは水素であり、水自体ではない。

<3>どんな容器でも水素は少しずつ抜けていく。

<4>水素はアルミ容器だと抜けにくいが、プラスチック容器だと店頭販売時にほぼゼロになっている。

<5>水素はキャップからも少しずつ抜けていく。

<6>水の電気分解を利用する機器でつくる水素の濃度は一般的に低い。

<7>水素の常圧の上限濃度は1.6ppmだが、圧力を高めると溶け込む濃度は高くなる。

<8>水素に関する研究論文は400近くあり、そのうち人の臨床試験に関する論文は約20ある。

<9>患者の臨床研究は進むが、健康な人が飲んだ場合の効果に関するデータはほとんどない。

<10>科学的な根拠を公開したうえで販売される機能性表示食品として認められた水素水はまだ存在しない。

ニセ科学やデマ……冷静に分析すれば、おかしいと分かるものでも、だまされないとは限りません。「科学」の視点から日々の生活を見つめ直します。

こじま・まさみ 

愛知県犬山市出身。松本支局などを経て生活報道部。食の安全や健康問題などを担当。「誤解だらけの遺伝子組み換え作物」「新版『スズキメソード』世界に幼児革命を」など著書多数。




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