「すい臓がん」は、なぜ増加が食い止められないのか?

7月31日、大相撲の元横綱千代の富士の九重親方(61)が東京都内の病院で死去したことが報じられました。現役時代、その技の美しさと圧倒的な強さに憧れを抱いた世代の一人として、心から哀悼の意を表します。

報道によると、九重親方は去年すい臓がんの手術を受け、その後は職務に復帰したものの、最近になって転移が見つかったとされています。

実はこの「すい臓がん」という病気は、検査や治療の技術が進歩した現代においても治癒が難しい、とても「やっかい」ながんなのです。

余り知られていないことですが、いまがんで亡くなる人は減り続けています。

亡くなる人の数自体は増え続けているのですが、それは高齢化の影響が大きく、年齢の影響を排除すると、がん全体の死亡率は年々減り続けているのです。主要ながん(胃がん、大腸がんなど)の死亡率を見ても、男女ともにおおむね横ばいか、減っています。

ところが、「すい臓がん」は数少ない例外の一つです。下のグラフの赤線で示されているのがすい臓がんの死亡率なのですが、そのほかの部位のがんが横ばいか減っているにもかかわらず、増え続けていることがわかります。

いったいなぜ、すい臓がんで亡くなる人だけが、増え続けているのでしょうか?

すい臓がんの治療が難しい理由の一つは、早期発見の手だてが少ないことです。

胃を半透明にして見てみると、すい臓の全貌がわかります。すい臓は血糖値を調整するホルモンなどを出す臓器で、胃や肝臓などと比べても見劣りしないほどの大きさです。

すい臓はX線検査(レントゲン)では調べることができません。

また、胃や大腸などと違い口と直接つながっていないため、胃カメラなどで調べることもできません。

さらに困ったことに、すい臓がんになっても初期には強い自覚症状がないといわれています。そのため、すい臓がんは早期発見が難しく、発見されたときにはすでに周りの臓器に転移してしまっており、治療が難しいケースも多いのです。

詳しい理由は不明です。ただ、日本消化器学会のホームページによると、糖尿病や慢性すい炎などの病気の患者さんでは、すい臓がんになるリスクが上がるかもしれないということが指摘されています。

運動不足や食生活の変化などにより、近年、糖尿病になる人は増えているともいわれていますので、こうしたことが増加の背景にかかわっているのかもしれません。

いま、すい臓がんの早期発見を目指す取り組みが世界各地で進められています。日本でも、国立がん研究センターの研究グループがすい臓がんの簡易検査キットを開発中と報じられています。今後近いうちに、早期発見を容易にする検査法が見つかるかもしれません。

でも知りたいのは、「いま」何か気を付けることはないのか?ということですよね。

先述の日本消化器学会のホームページでは、すい臓がんで病院を受診した人の「最初の症状」について調べた結果を公開しています。

腹痛、黄疸(皮膚や目が黄色くなること)、腰背部痛などが挙げられています。こうした症状が出た時に早めに医療機関を受診すれば、早期に発見できるかもしれません。

ただ、皮膚や目が黄色くなったりしたら病院で相談するかもしれませんが、おなかや腰が痛いだけで「すい臓がん」を疑うのはなかなか難しいかもしれないな・・・。という気もしてしまいます。

だとすると大切なのは、自分がすい臓がんになりやすいタイプかどうか?ということを知っておくことかもしれません。もし自分がなりやすいタイプだとしたら、上記のような症状がないかどうか気を付けておくメリットが、より大きそうです。

上記の日本消化器学会ホームページでは、すい臓がんのリスクが高い人について次の表のようにまとめています。

もちろん上記に該当するからといって、「すい臓がんになる!」と心配しすぎる必要はありません。

でも、これほど検査や治療の技術が進歩した現在でも、亡くなる方の増加を防げない「やっかい」な病です。

上記の表に該当する方もしない方も(該当するものが複数あるような方は特に)どうか少しでも、この病気に関する知識を持って下さることを切にお願いいたします。

市川衛

医療ジャーナリスト

(いちかわ・まもる)NHKディレクター/京都大学医学部非常勤講師。

00年東京大学医学部卒業後、NHK入局。医療・福祉・健康分野をメインに世界各地で取材を行う。16年スタンフォード大学客員研究員。【主な作品】(テレビ)NHKスペシャル「腰痛 治療革命」「医療ビッグデータ」ためしてガッテン「認知症!介護の新技」など。(書籍)「脳がよみがえる・脳卒中リハビリ革命(主婦と生活社)」「誤解だらけの認知症(技術評論社)」など。医学ジャーナリスト協会会員。




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