「選挙バトル」ウラのウラ マスゾエの亡霊で安倍自民に逆風直撃!=ジャーナリスト・鈴木哲夫

参院選もいよいよ中盤戦に入った。「自公vs.野党統一」という構図で、見どころは「1人区」の攻防戦だ。ところが、選挙戦の水面下では「マスゾエ問題」が亡霊のごとく“徘徊”し、安倍自民に逆風になっているという。参院選のウラの動きに迫った衝撃リポート―。

参院選公示直前の6月17~19日に各党が行った全国の参院選情勢の世論調査を入手した。結論を端的に言えば、「マスコミの世論調査などに比べて、自民党は決して安穏としていられない結果」ということだ。

どの政党の調査もほぼ同じような傾向を示していた。与党の自公と野党の統一候補が一騎打ちとなっている32の1人区は、12~17選挙区で拮抗(きつこう)していた。

自民党の選対本部は1人区のうち青森、岩手、宮城、山形、福島、新潟、山梨、長野、三重、滋賀、大分、沖縄の12選挙区を「重点区」にしている。ただ世論調査では、このうち東北地区の1人区で軒並み苦戦。3月4日の調査以降、一度もはね返せていない選挙区もある。一方で、中部や西日本の1人区では今回挽回してややリードに転じたところも出てきたが、その差は1~4ポイントにすぎなかった。

「5%は誤差の範囲内」(自民党ベテラン議員)といわれ、自民党にとって決して安心できる状態ではない。

「リードされている1人区は、人気応援弁士や安倍首相に、多ければ2回は入ってもらって必死でやるしかない。17~19日の世論調査から見て、あくまで公示前の時点だが、1人区は最悪で14勝18敗もあり得る。そこまでの危機感を持ってやらなければならない」(自民党選対議員)

一方、野党から見れば、1人区で民進党・共産党・社民党・生活の党の野党4党が統一候補を擁立したことは奏功したと言えそうだ。民進党の世論調査では、1人区で野党統一候補が引き離しているところが七つ。五つでややリードしているほか、3月以降は徐々に自民党候補と差を詰めている選挙区が二つある。

しかし、野党にとって比例区は芳しくない。野党が乱立すれば、投票先が割れて自民党を利することになる。そのため野党間で“統一名簿”を模索する動きがあったが、これに最後まで積極性を欠いたのが民進党だ。

「生活の党や社民党、それに安保法制の際に声を上げた市民団体などは“統一名簿”を提唱したが、民進党の支援団体『連合』が慎重だった。統一名簿で候補者の数が増えると、身内同士で票を奪い合うから組織内候補者などが落選するという内向きの主張だ。しかし、他の野党はそれぞれが票を持ち寄るから逆にパイは広がると説得したが、無理だった」(野党幹部)

その結果、比例は野党支持が分散し、相対的に自民党が有利になることが世論調査からも明らかだ。

今回の参院選の大きな特徴は、安保法制に反対する五つの市民グループが「市民連合」を組織して、野党のバックアップをしている。五つとは、大学生中心のグループ「SEALDs(シールズ)(自由と民主主義のための学生緊急行動)」、「安全保障関連法に反対する学者の会」、学者らによる「立憲デモクラシーの会」、小さな子どもを持つ母親らの「安保関連法に反対するママの会」、国会前デモを主催した「戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会」だ。これらのメンバーが、32の1人区での野党統一候補の応援で街頭に立つなどしている。ところが、比例で“統一名簿”ができなかったことで、運動にもフラストレーションがたまっているという。「SEALDs」の大学生幹部が、公示日に1人区候補の応援活動を終えて東京に戻った夜、私にこう言った。

「候補者の街頭演説について回ったのですが、野党各党の支援者の人たちが比例でそれぞれの党のチラシを配っている。各党のチラシをもらった有権者は、分かりにくいし迷いますよね。1人区で(統一候補を)やれたのに、比例でなぜできないのか。私たちも慣れない運動をやっていますが、これで有権者に伝わるのかなあ、と感じます」

政党ではなくマスコミの世論調査では比例投票先は自民党が35%(『読売新聞』17~19日)、30%(『毎日新聞』18、19日)などとなっている。野党が比例で統一名簿を作れなかったツケが、相対的に自民党優位につながっている。

また、1人区以外の複数区では、自民党の世論調査によると、例えば北海道、千葉、神奈川などで自民党の2人目の候補と野党候補が最後の1議席をめぐって激しく競り合い、現時点では野党にリードを許しているところもある。

こうしたことから、参院選の全体の勝敗は、比例は自民優位、対して1人区や複数区などの選挙区で野党がどれだけ議席を占めるかという構図になってきたといえそうだ。

ところがここへきて、6月17~19日の各政党の世論調査の中の一部の数字で、自民党に予期せぬ大きなショックが走った。

東京地区での内閣支持率が、支持と不支持が逆転し、不支持が支持を2ポイント上回ったというのだ。

逆転の理由はズバリ、「マスゾエ問題」。自民党幹部が「辞めて、いなくなっても、まだ取りつかれているような気分だ」と話すように、まるで亡霊扱い。舛添要一・前東京都知事の問題をいまも引きずっているというのだ。

今年3月に舛添氏の高額な海外出張費が批判されて以降、公用車で温泉別荘通い、加えて、国会議員時代の政治資金疑惑として家族旅行や食事代、美術品や漫画の購入などに使っていたことが次々に明らかになった。舛添氏は「二流のホテルに泊まれるか?」「ルール上問題ない」などと突っぱねたことで、逆に世論に怒りの火がついた。その後、いくら謝罪を繰り返しても「言い逃れのために頭を下げているだけ」と受け取られた。6月6日には舛添氏が雇った「第三者」と銘打った二人の弁護士とともに記者会見したものの、「不適切な支出はあるが、違法ではない」と政治資金規正法をタテに法的な問題はないと説明。

舛添氏を応援して当選させた自民党都議団は当初、様子見だったが、厳しい追及をしないことに批判の目が向けられた。「都連や都議会の自民党控室に抗議電話が殺到」(都連関係者)し、「党本部の参院選の世論調査などにも影響し始め、支援者からは『これでは選挙運動をやっても無党派を説得できない』という悲鳴に変わった」(1人区自民党議員)のだった。

そこで、官邸や自民党本部が党都議団に「舛添氏の辞職」を強く要請。都議団も「参院選に迷惑をかけられない」(都議団のドン、内田茂・元議長)と舛添氏本人に辞職を迫った。最大の後ろ盾だった自民党都議団が見放したことで、舛添氏は辞職願を提出したというのが経緯だ。

舛添氏の辞任でホッとした自民党の都議団幹部の一人は直後に、「政治家というのは、辞めればそれが最大の決断であり責任を取ったことになる。いろんな疑惑についても都議会での追及はこれで終わり。武士の情けということだ」と語ったが、それで世論は収まらなかった。

舛添氏が都議会最終日に辞任を明らかにして以降、都庁には1回しか顔を見せず、記者会見もなし。先の総務委員会集中審議で約束した資料提出などもほったらかし。そして、自民党の「これ以上追及しない」との姿勢に、マスコミは「責任を果たしていない」「逃げ得」と連日報道した。つまり、マスゾエ問題は何も終わっていない、ということを図らずも政党世論調査の内閣支持率が証明したのだ。

「舛添さんが辞任を明らかにしたのが6月15日。世論調査はその後の17~19日。普通なら潮が引いたようになるはずですが、東京は都知事選もあることから、マスゾエ問題が何度も持ち出される。それにしても、東京で内閣支持率が逆転したのは最悪のタイミング。この数字は、官邸と党本部、そして東京都連の一部だけで共有し、外には漏れないよう対応したのですが……」(前出・自民党選対議員)

いずれにしろ自民党は、「“舛添氏を抱えた自民党”というイメージを少しでも払拭(ふつしよく)し、参院選への影響を最小限に抑えたい」(同)とさまざまな手を打ち始めている。

その一つが、参院選と候補者選びなどが並走することになった7月14日告示、31日投開票の“出直し都知事選”への対応だ。クリーンで新鮮な候補を擁立して、世間の記憶を舛添氏から遠ざけたいという狙いである。

「知事選の第一ステージは『蓮舫待ち』でしたが、次のサイコロは自民党に投げられた」

と話すのは、安倍首相に近い自民党幹部だ。

「民進党は、都知事選で東京選出の参議院議員、蓮舫氏擁立で早々と動いた。彼女は圧倒的な人気で強い。ウチも小粒候補では勝てない。ところが、参院選の出馬直前だったから彼女がどちらに出るか、それが決まるまでは動けなかった。結局、彼女は参院選出馬を決めたので、次はウチが決める番になったということ」

自民党の有力候補は、6月25日現在、東京選出の衆議院議員、小池百合子・元防衛相、総務事務次官を退職したばかりの桜井俊氏に絞られてきた。桜井氏は人気グループ「嵐」のメンバー、櫻井翔の父親だ。

「本命は桜井氏だ」と官邸の首相に近い関係者は言う。

桜井氏は、早くからポスト舛添に名前が挙がっていたが、記者団の前で「そんな話は来ていない。光栄だがあり得ない」と否定。しかし、前出の関係者は言う。

「桜井氏はエリートで飄々(ひようひよう)とした人柄で、候補として申し分ない。本人は否定しているが、ハナから受けますなんて言うはずがない。総務省のかつての上司だった菅義偉(すがよしひで)官房長官(元総務相)や安倍首相が頭を下げれば断れないだろう」

また、総務省OBはこんなウラ事情を明かす。

「官邸や霞が関は、予算も潤沢で絶大な権限を持つ東京都知事をコントロールできないで困っていた。青島幸男氏に始まり、石原慎太郎氏、猪瀬直樹氏、そして舛添氏と一家言ある人物が続いた。東京五輪を前に、中央とのパイプ役でコントロールできる人物を都知事にしたい。そこで桜井氏に白羽の矢が立った。また、桜井氏は電波行政に携わりテレビ界との関係も良好。メディア露出などでは好意的に扱ってくれるだろうという思惑が、官邸や自民党にはあるのではないか」

自民党や官邸は、6月の25、26日に知事選の候補名を並べて、「誰がふさわしいか」という世論調査を有権者(東京都)に対して実施。それを集計した上で、6月30日をメドに「桜井氏の人気が高い」(前出の関係者)として、菅官房長官か安倍首相に示したうえで、正式に出馬依頼するのでは、と見られている。実際、「ポスター作製や選挙準備を考えると6月中がリミット」(都連幹部)だ。

もし桜井氏が断れば、「東京選出の自民党議員らから出馬待望論のある小池氏という流れになるだろう」(同幹部)という。

一方、民進党幹部は、「今度は『蓮舫待ち』ならぬ『桜井待ち』だ」と言って、こう続ける。

「桜井氏出馬が決まったら、次はこちらが後出しで考える。正直言って、蓮舫氏以外に最適な人物は見つかっていないが、参院選とリンクさせるため『野党統一候補』になるだろう。共産党や社民党、生活の党と話し合いたい」

現段階で名前が挙がるのは、片山善博・元総務相(前鳥取県知事)、元日弁連会長の宇都宮健児氏らだ。「彼らが統一候補になれるかどうかは未定。具体的に野党間の話し合いが動き出すのは自民党候補が決まった後だ」(同幹部)という。

だが、自公vs.野党統一という各政党の丸抱え候補の対決や党利党略が見えてくると、無党派の多い東京では「無党派の第三極」の候補が出てくるケースが多い。

「2011年に出馬した東国原英夫・前宮崎県知事や、先日引退したばかりですが、橋下徹・前大阪市長らが最後の最後に出て票をかっさらう可能性はある。東国原氏はオール与党の石原慎太郎氏に挑んで169万票も獲(と)っていますからね」(前出・都連幹部)

こう見ると、マスゾエ問題は“亡霊”のごとく、水面下で参院選をかき回している。続く都知事選も一層、混沌としてきた。




http://mainichi.jp/sunday/articles/20160627/org/00m/200/002000d