高知県内に「歩車分離」式信号が増加 周知や障害者対策が急務

「あれっ、青に変わってないっ」―。交差点に足を踏み入れたものの、驚いて後ずさりした人も多いのでは。歩行者だけ渡れる時間を設けた「歩車分離」式の信号が高知県内で増えてきた。事故防止が目的だというが、周知も準備もまだまだ足りていない。大丈夫か。

6月9日の夕刻。高知市桜馬場の小津高校の南西にある交差点に立ってみた。ここは4カ月前、「歩車分離」式に変わったばかり。

すると、5分もたたぬうち、信号待ちをしていた男性がいきなり交差点内へと自転車をこぎだした。目の前の信号は赤のまま。

追い掛けて話を聞いた。帰宅路で毎日通るという男性は「歩車分離? そんなふうになったなんて知らなかった。知らないと逆に危ないのでは」。

結局、約1時間のうち、4人が信号に反して交差点を渡った。

「歩車分離」式とは、信号の点灯時間をずらせることで、車と歩行者を分けて道路を進ませる仕組み。「東西の車」「南北の車」を進ませた後、車をすべて止め、歩行者は東西南北の横断歩道のどこでも渡れる時間が設けられる。

しかし、さきほどの信号無視をした人たちは、目の前を東西に流れていた車が止まり、次は自分たちの南北の信号が青になると早合点して進みだしていた。実際、次に青になるのは南北の車だけで、歩行者らが渡れるのはその次―。

交差点の近くに住む男性(66)が言う。「(歩車分離を知らずに見切り発車をする)車の信号無視もたまに見るよ」

歩車分離式は、車の右左折時に歩行者や自転車を巻き込むリスクが減るとして、警察庁が2002年、全国で整備を進めるよう指針を出した。

高知県警交通規制課によると、高知県内では2016年3月末までに高知市内の50カ所を含む82カ所を整備。高知県内の場合、幹線道路が多い東西方向は車と歩行者を同時に進め、次に南北に車のみを通し、最後に東西南北に歩行者が進める一部分離型が目立つ=図参照。

2015年度は冒頭の高知市桜馬場など8カ所が加わり、ぐっと増えた印象だ。全交差点に占める導入率は5・4%で全国平均の4・2%を上回る。で、肝心の事故は減ったのか。

交通規制課が効果として挙げるのは、高知市追手筋1丁目の繁華街にある交差点。2013年度は3件あった事故が、歩車分離後の2015年度は1件になったという。

車と歩行者を分けるので、歩行者が被る事故を減らす効果はありそうだ。一方で、信号待ちの時間が長くなり、渋滞が生じやすいデメリットもある。さらに懸念を強めているのが視覚障害者の団体だ。

「高知県視力障害者の生活と権利を守る会」の副会長、正岡光雄さん(78)が言う。「歩車分離式だと、私たちは赤信号でも渡ってしまう。盲人は置いてけぼりですか」

視覚障害のある人は交差点内を車が行き交う音で信号の色を判断する。歩車分離式では、視覚障害者の横で止まっていた車が進みだしても、歩行者信号が「青」とは限らないからだ。

「守る会」などは歩車分離式が目立ち始めた2012年以降、高知県や高知県警に対し、歩行者信号の色を「音」で教える音響装置を各交差点に設置するよう、繰り返し求めてきた。

装置は、歩行者信号の東西方向が青のときは「かっこう」、南北方向は「ぴよぴよ」と鳴り、視覚障害者の大きな助けになる。しかし、高知県内82カ所の歩車分離式で装置があるのはわずか26カ所だ。

警察庁の指針は歩車分離式にする際に、地域の住民や視覚障害者団体に事前に説明するよう求めるが、高知県視覚障害者協会の会長、恒石道男さん(66)は「説明はないし、障害者は地域だけで生活するわけでもありません」。

進む整備、遅れる周知―。高知県警交通規制課の岡潔次長は「その点は課題だと思う。周知は各署任せになっていた」といい、今後、効果的な啓発方法を考えるという。

現状をどう見るか。交通工学が専門の高知工科大教授、熊谷靖彦さん(71)は「事故防止の効果は高い」と、今後も歩車分離を進めるべきという立場。ただし、「周知が徹底されてこそ、分離の効果も高まる」とも。いい仕組みを、うまく使う方策が求められている。




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