イラク IS襲撃の「3000人虐殺 白日の下に」

過激派組織「イスラム国」(IS)が2014年8月、イラク北部シンジャルでクルド系少数派ヤジディー教徒の集落を襲撃した。「異教徒」を口実に多数の女性を「性奴隷」として強奪し、支援団体によると男性ら3000人以上を虐殺。クルド勢力は15年11月に街をISから奪還したが、住民は戻らない。蛮行の矛先となったヤジディー教徒の人々は、実態を白日の下にさらそうと動き始めた。

「約50人の男性が1列に並んでひざまずき、頭の後ろで手を組むと、背後からIS戦闘員が自動小銃を乱射した」。シンジャル近郊で拘束されたキチ・アモシロさん(44)が大量虐殺の様子を証言した。「私は端にいて弾が当たらなかったが、死んだふりをして倒れた。ひざまずいたときは頭が真っ白。家族のことさえ考えられなかった」

シンジャルを制圧したISはヤジディー教徒女性を拉致し、外国人戦闘員をISに勧誘するため「妻」として利用した。クルド自治政府の治安部隊ペシュメルガ兵士は「やつらが欲しかったのは若い女性だけ。それ以外は殺害した」と説明する。

崩壊した民家、塀を埋め尽くす弾痕、焼け焦げた車……。5月中旬、シンジャル中心部は治安部隊の車両が通るぐらいで、人通りはなかった。郊外の草原には多くの遺体埋葬地があり、弾痕とみられる穴が開いた頭蓋骨(ずがいこつ)など無数の人骨、ジャージーやライター、入れ歯まで散乱している。

「できれば忘れてしまいたい。何も話したくない」。ISの「性奴隷」となり、逃走したジャリダ・シェバンさん(36)は、イラク北部ドホーク郊外の難民キャンプで口をつぐんだ。多くの生存者が共有する思いだ。

それでもヤジディー教徒は、生存者から被害の聞き取りを開始した。米国の大学の協力も得ながら、どこで何を体験したのか、一人一人記録する。国際刑事裁判所(ICC)にも調査を要請した。

一神教の宗派ヤジディー教は歴史上、たびたび「邪教」扱いされてきた。支援団体「ヤズダ」の北イラク事務所代表ジャミール・ガニム氏は、オスマン帝国時代から何度も「民族浄化」の迫害を受けたが、何一つ記録が残っていないと話す。

「今度こそ文書として残し、イスラム過激派の実態、民族の悲劇を後世に伝える必要がある」。国際社会が悲劇を共有することこそが、新たな悲劇を繰り返さない唯一の道だ。そう信じている。




http://mainichi.jp/articles/20160606/k00/00e/030/190000c