どうすれば安全安心 薬の飲み残しを防ぐ 医療費のムダ、健康リスクも

医師から処方された薬を飲み残してしまう「残薬」への関心が高まっている。75歳以上の高齢者の飲み残し分だけで年間約500億円に上るとの試算もある。高額の医療費が無駄になるだけでなく、患者や家族の健康にさまざまな危険を及ぼしかねない。薬の飲み残しはどう防げばいいだろう。

「家に飲み残しはない、と言う患者さんの様子があいまいで、ちょっと変だと思い、『薬を家に持っていってあげるよ』と口実を作って自宅を訪ねました。思った通り、たんすの中に山ほどの薬。こうした例はもう日常茶飯事です」。東京都品川区で薬局を営み、東京都薬剤師会副会長を務める大木一正さんは渋い表情で語る。

調剤薬局大手の日本調剤が2014年、1000人超を対象にインターネットで行った調査によると、処方薬を飲み残すことがあるとの回答は約54%と半数を超えた。

せっかく処方された薬をなぜ飲み残すのか。大きな要因の一つは、薬の種類や量が多いため、整理できなくなってしまうことだ。年齢を経れば、高血圧や糖尿病などさまざまな病気を患うのは珍しくなく、1日20種類以上の薬を飲みながら生活する人もいる。一方、病院では30日分など長期間の薬を一度に処方することも多い。それが数種類に及べば、わけがわからなくなって当然だ。「1カ月分など大量の薬をバサッともらう人ほど飲み残しが多いと経験的に感じます」と大木さんは話す。

また、その薬がなぜ必要かをそもそも理解できていないため、飲まずに放置してしまう例もひんぱんにあるそうだ。

残薬は高齢者に多いと思われがちだが、若い世代も例外ではない。前述の日本調剤の調査では、飲み残すと答えたのは20代女性が最多。次いで20代男性が多く、いずれも7割以上だった。一部の高齢者のように大量の残薬を抱えることはないにしても、仕事や育児で忙しく、外食が多い人ほど、つい飲み忘れてしまう。飲み残しは誰にでもあり得ることだ。

残薬は多額の医療費を無駄にするばかりか、個々の健康上のリスクにつながる。日本調剤の薬剤師、佐々木智美さんらによると、患者が薬を飲まず、それを医師に告げずに隠しておけば、医師は「薬の効果がない」と判断し、より強い薬を処方することもある。その結果、患者の健康にダメージを及ぼすこともあり得るという。

夫が飲み残した風邪薬を妻が飲んでアレルギー症状などの副作用を起こすこともある。同じ風邪でも症状や体質は人によって異なるためだ。保管状況が悪ければ薬の品質が劣化したりもする。

抗生物質のように、決められた日数分を飲み切らなければ効果が出ないことがある薬もある。このような薬を飲まずに長期保管して、自己判断で再び服用したりすればトラブルを招きかねない。

薬の飲み残しをどう防ぐか。大木さんは「まずは薬を理解することが大前提」と強調する。薬局でしっかり説明を受け、十分に納得して服薬することが第一歩だ。

そのうえで、高齢者や多数の服薬を必要とする人に便利なのが、1回に飲む薬を一つにまとめてもらう「一包化」だ。朝は2種類、昼は1種類、晩は4種類など、服薬が複雑になれば飲みにくい。そんな場合、朝昼晩ごとに飲む複数の薬を一つの袋にパッケージしてもらうことができる。医師に相談し、必要と認められれば、薬局に一包化を指示してもらえる。

一包化まで必要ない、と思う人は、市販の「ピルケース」やプラスチック容器=写真[1]、段ボールで作った箱などを利用するのもよい。「朝昼晩ごとに分けたり、『胃の薬』『血圧の薬』など種類別にまとめたりすれば、ぐっと飲みやすくなります」と大木さんは話す。

「服薬カレンダー」=同[2]=の利用もお勧めだ。1カ月や1週間単位のカレンダーで、1日ごと、朝昼晩ごとにポケットがついている。薬をポケットに入れておけば忘れにくい。カレンダーは薬局などで誰でも購入できる。

働く世代などは、スマートフォン(スマホ)の機能を使うと効果的だ。服薬の時間を設定し、アラームが鳴るようにしておく。

スマホやパソコンで利用できる便利なサービスも続々登場している。例えば、日本調剤の電子版お薬手帳サービス「お薬手帳プラス」は現在、約5万人が登録している。「飲み忘れチェック」という項目があり、朝昼晩だけでなく、1週間ごとなど、服薬時間を細かく設定してアラームを鳴らせる。また、同社系列の全国の薬局で調剤された薬ならすべてのデータが自動的にスマホやパソコンに送信されるので、画面上で薬の写真を確認しながら、手元に余っている薬の数を打ち込むことも可能だ=同[3]。これを持参し、医師や薬剤師に示せば相談しやすい。

飲み残した薬はどうすればいいか。まだ使えるとしたら捨てるのはもったいない。常時服用している薬なら、医師や薬局に持ち込み、品質に問題ないか確認してもらおう。使える薬があれば、その分を次回の処方の量から差し引いてもらえば、薬代の節約になる。

「とにかく薬局や薬剤師をもっと活用してほしい」と大木さんは呼び掛ける。4月からの診療報酬改定で、患者の薬を一元的に管理する「かかりつけ薬剤師・薬局」の仕組みが国ぐるみで動き出す。薬局や薬剤師と患者はこれまで「処方箋が入場券」のような機械的な関係といえた。だが今後はもっと密接な関係を築き、薬剤師は患者の薬を総合的に管理して、幅広い相談にも応じることを目指す。

こうした仕組みがスタートするのに合わせ、薬局や薬剤師が患者にバッグを配り、薬を持参してもらって、残薬を確認し、飲み合わせや副作用などをチェックする「ブラウンバッグ運動」も始まりつつある。薬剤師らはこれまで以上に患者の健康に深くかかわろうとしている。この機会に飲み残しの薬を薬局などに持ち寄り、解決の一歩を踏み出してはどうだろう。




http://mainichi.jp/articles/20160317/dde/012/100/079000c