介護離職が加速 介護「軽度」者への給付打ち切りのシワ寄せ

■自力歩行できない人に「料理、掃除しろ」

年明け早々の1月20日、厚生労働省が「介護保険制度の適用見直し」を検討していることが報道されました。要介護1と2の「軽度者」に対してホームヘルパーが訪問介護で行っていた買い物、調理、掃除といった生活援助サービスを介護保険の給付対象から外すというものです。

見直しの背景には、膨らみ続ける社会保障費の問題があります。

介護保険制度がスタートした2000年。年間3.6兆円だった介護給付費が現在は10兆円を超えました。要介護1と2の人すべてが生活援助サービスを利用しているわけではありませんが(要介護1と2の認定者は現在約181万人いて、そのうちの4割が調理、2割が買い物のサービスを利用)、これを給付から外せば、年に1100億円の削減が見込めるとのことです。

生活援助サービスは以前から「ホームヘルパーを家政婦がわりに使っている」という批判がありました。また、「軽度者」という言葉の響きから、調理などの援助がなくても生活していけるのでは? という考えを持つ人もいました。新聞などで今回の報道を目にした時、「見直しも仕方がない」と思った方は少なくないかもしれません。

しかし、介護現場の事情をよく知る人たちからは「あり得ないこと」と反発の声が上がっているようです。ケアマネージャーのFさんは言います。

「(“要介護”より軽度の)“要支援”の方にも生活援助サービスを利用しているケースがあって、そこが給付除外になるのはやむを得ないといえます。でも、要介護1と2を除外対象にするのはひどいですよ。その方たちがどんな状態か、考えてみてください」

ここで、要介護度の目安を見てみましょう。

要介護1=立ち上がりや歩行が不安定。排せつや入浴に一部介助が必要となることが多い。

要介護2=立ち上がりや歩行が自力ではできず介助が必要。排せつや入浴に一部介助が必要

となっています。

「立ち上がって歩くことが難しくなっている人が買い物に行ったり、食事を用意したりすることはできないですよね。だからこその生活援助です。給付対象から外れるようなことになったら、独居の方や、家族が仕事に行って日中はひとりになる方は途方に暮れてしまいますよ」(Fさん)

■業者の弁当を「自腹で購入しろ」が国の本音か

この改定論には、民間の業者が行っている高齢者向けの配食サービスがあるのだから、調理の援助の代わりにそちらを利用すればいい、という含みもあるようです。

配食サービスは1食500円から700円程度。高齢者向けに栄養バランスや消化の良さも考えられています。また、手渡しする、玄関先まで来るのが困難な人にはテーブルまで持って行くことを原則としている業者もあるようです。

そうすることで安否確認をし、コミュニケーションをとることで孤立も防げるというわけです。このサービス内容を聞けば、生活援助の調理より金銭的負担はやや大きくなるものの、いいこと尽くめという印象を持ちます。

「しかし、現実にはそこまで行き届いたサービスをしている業者は少ない」とFさんは言います。続けて、その理由をこう語ります。

▼理由1

「都市部では配食のクルマを停めるのが難しい場所も多い。配達する人は、できるだけ早く届けてクルマに戻りたいという意識がまずあるわけです」

▼理由2

「また、当然ドアには鍵がかかっている。チャイムを押して玄関先まで鍵を開けに来てもらわなければならず、要介護2の方には困難です。それに認知症の方もおられます」

鍵を開けてもらって食事を手渡しして安否確認、コミュニケーション、というのは理想ですが、配達の人は介護のプロではありませんし、本当はそこまで踏み込みたくないというのです。

「運営する会社だって採算ギリギリでやっていますから、そうしたサービスはできるだけしたくないというのが本音なんです。地域によっては民生委員などがボランティアで配食業者と連携して配達するケースもあるようです。民生委員なら利用者さんと信頼関係がありますから鍵を預かるなどして家に入れますし、会話を通して様子をチェックできますが、民間の業者の場合はさまざまなハードルがあって十分な配慮ができないんです」

つまり、要介護1と2の人をひとくくりにして“生活援助のかわりに配食サービスを利用すればいい”というのは乱暴過ぎるというわけです。

■さらに介護離職者が増えるのは確実

同時に、要介護1・2への生活援助サービスを外すことで大きな影響を受けるのが確実なのは、家族です。すでに大問題となっている介護離職がさらに増えるリスクがあります。

「これまではホームヘルパーの生活援助を頼ることで仕事を辞めずに済んでいた人もいました。しかしそれが介護給付から外されると、その部分を自分が担わなければならず、離職を選ばざるを得なくなるでしょう。国は介護離職者ゼロを目指すという方針を掲げながら、逆に増やす結果につながるようなことをしようとしているんです」

▼「報道されていない」介護保険適用除外も

続けてFさんは、こんな「聞き捨てならない」話をしてくれました。

「今回は報道されていませんが、実はもうひとつ、軽度者に対する保険適用除外が検討されているものがあるんです」

聞けば、その保険適用除外品というのは、介護用ベッド、車いす、スロープ、歩行器といった福祉用具の貸与や手すりをつけるといった住宅改修とのこと。このことが検討されていることは、一般の人はほとんど知りませんが、介護業界では全員が知っていて危機感を持っているそうです。

「これ(軽度者に対する保険適用除外)って普通に考えて変なんです。要介護3以上の重度者は寝たきりだったり、在宅での介護は難しくて施設に入所せざるを得なかったりという状態です。ベッドは別としても、車いすや歩行器を借りたり手すりをつけても使えなかったりする人たちです。要するに、車いすや歩行器などは、(要介護3未満の)まだなんとか立ち上がったり歩けたりする軽度者にこそ必要なもの。それを給付から除外するというんですからわけが分かりません。重度者はほとんど利用していない現状に加えて、軽度者も結果的に利用できなくなれば、介護費用を大削減できると考えているのかもしれません」

これが介護給付適用除外になると大変なことになるそうです。要介護1と2の軽度者は重度者になる前に踏ん張っている状態。手すりや歩行器の助けを借りて歩くことで状態が回復する可能性もあります。

また、介護の利便性を追求して進化した福祉用具によって家族などの介護者が助かっている部分も大きい。私も父親の介護を通して実感しましたが、電動で寝床を上下できたり、上体を起こせたりといった機能によって不慣れな介護が、無理なく、よりスムーズにできたという感覚があります。

■ベッド、車いすが介護保険対象外になる

そうした福祉用具が介護保険の給付から外され、自己負担になったら……。大半の家庭は、経済的にも維持することが難しく、用具を返品するしかなくなるでしょう。

となるとどうなるか?

介護保険適用で成り立っていた福祉用具レンタル会社の経営が窮地に陥ります。より良い介護のために知恵を絞った福祉用具の開発もストップがかかるかもしれません。

また付随することですが、福祉用具レンタル会社では返品されるであろう大量の用具をどう保管するか、あるいは処理するかで頭を悩ませているそうです。

肝心の要介護者が置かれる状況も心配です。

たとえば、介護の利便性が満載された介護用ベッドが使えなくなったら、寝床に寝かされるわけです。上体も起こせず、上下動もできない寝床では十分な介護はできません。レンタルできる福祉用具には床ずれ防止のマットもありますが、それもなくなれば床ずれの心配もあります。

福祉用具とそれを利用する家族によるサポートでなんとか軽度者でとどまっていた人が重度化する状況に置かれるリスクがあるのです。財源が厳しいからといって、こんなことになったら本末転倒ではないでしょうか。

実はFさんにこの話を聞いていた時、長年のつきあいのあるTさんというケアマネージャーが同席していました。Tさんは、この話にとどまらないといった感じで加わりました。

「軽度者といわれる要介護1と2の人たちは、もし今回の改正案が実施されたら、介護保険料を払ってきて何でこんな目に遭わなきゃなんないんだと思うでしょうね。国の財源が厳しいのはわかっています。が、それでこれまで受けてきたサービスが受けられなくなるのは辛過ぎます」(Tさん)

■「国は介護保険料を上げる意義を説明すべき」

では、どうしたらいいのか?

「削減ではなく財源を増やすことを考えるしかないのでは、と思います。つまり、介護保険料を上げる決断をする。介護保険料は40歳以上が払っていますが、プラス1000円、あるいは500円でも大分違う。政府は社会保障費として消費税を上げていますから、そんなことを言い出したら大ブーイングでしょう。『消費税を上げておいて、介護保険料もかよ』と。でも、必要な介護サービスが受けられなくなる現実があるのですから、国民に頭を下げ、福祉財政が厳しいので応分の負担をお願いしますと言ってほしい」(Tさん)

介護は、今の日本の大きな課題。

反発は覚悟の上で、「国民全体が支えなければならない」ということをアピールするためにもあえて介護保険料を上げるということを政府がやらなければならないのではないか。と、考えるTさんだが、「そんなことを(政治家が)言うと選挙に負けるからなあ。無理か……」。

でも、ただ単に要介護の軽度の人に対しての援助や支援を打ち切れば、高齢者世代だけでなく、その子ども世代からも総スカンを食らうことを政府や国はよく考えるべきではないか。

何はともあれ「軽度者」という表現にごまかされてはいけないということです。

先ほども述べた通り、実際の症状は決して軽度とは言えませんし、また軽度だからといって介護保険から除外される流れには疑いの目を持った方がよさうです。




http://news.goo.ne.jp/article/president/life/president_17452.html