原発事故めぐる「初の刑事裁判」で何が問われる?――東電元会長ら強制起訴へ

福島第一原発の事故をめぐって、検察審査会から「起訴すべき」という議決を受けた東京電力の勝俣恒久元会長ら旧経営陣3人について、検察官役の指定弁護士が業務上過失致死傷の罪で、2月29日にも強制起訴する方針であることが報じられている。起訴されれば、原発事故を防げなかったことが罪にあたるのかが初めて法廷で争われることになる。

報道によると、勝俣元会長、武黒一郎元副社長、武藤栄元副社長の3人が、事故を予見できたのに、安全対策をする義務を怠って原発事故を発生させ、避難を余儀なくされた周辺の病院の入院患者を死亡させたことなどが起訴状に盛り込まれる見通しだという。

この事故をめぐっては、検察は不起訴という判断をしていたが、検察審査会が2015年7月に「起訴すべき」と議決していた。今回の強制起訴のポイントはどこにあるのだろうか。原発事故の損害賠償問題に取り組む秋山直人弁護士に聞いた。

●有罪の判断に至るか、予断を許さない

そもそも、検察が不起訴と判断したのに、なぜ強制的に起訴されるのか。

「検察審査会法の規定(2009年5月から施行)によって、検察審査会が2度にわたって『起訴相当』との議決をしたからです。

この『強制起訴』制度は、それまで起訴権限を検察官が独占しており、検察審査会の議決も強制力を持たなかったのを改め、刑事訴追について、国民の意見をより直接的に反映させるようにしたものです」

どのような手順ですすめられるのか。

「次のような流れです。

(1)検察官が不起訴処分→(2)検察審査会が『起訴相当の議決』→(3)検察官が再捜査の上、再度の不起訴処分→(4)検察審査会が再度の審査の上、『起訴相当の議決』。

2度にわたって『起訴相当の議決』がされると、裁判所が指定した弁護士(指定弁護士)が検察官役となり、補充捜査の上で被疑者を起訴することになります。

この『起訴相当』の議決は、国民の中から無作為に選ばれる検察審査員11人のうち、8人以上が賛成することが必要です」

強制起訴後はどのような流れになるのか。

「被告人は身柄を拘束されず、在宅のまま公判が進むのが通例です。今回は、業務上過失致死傷の事件ですので、裁判員裁判の対象にはならず、裁判官による通常の裁判がおこなわれます。

一方で、今回のように、大組織の幹部が『本来果たすべきであった注意義務を果たさなかった』という理由で過失責任を問われるケースでは、刑事責任を生じさせる『過失』があったことを立証するハードルは、一般的にはかなり高いといえます。

刑事裁判の鉄則は『疑わしきは被告人の利益に』です。検察官役の指定弁護士の側で、『被告人に過失があったことが明らかで、合理的疑いを容れる余地がない』と立証する必要があります。

検察官が「『嫌疑不十分』と判断して不起訴としたケースを検察審査会の議決で強制起訴したケースでは、これまでも、無罪判決が複数出ています。たとえば、JR西日本福知山線脱線事故、小沢一郎氏の陸山会事件などです。検察官が2度にわたり不起訴と判断したのを起訴するわけですから、難しいケースが多いといえます。

そのようなことを考えると、今回について、裁判所が有罪の判断に至るかどうかは、現時点で予断を許さないといえます」

●「東京電力の法的責任の解明は十分にされていない」

予想される争点はどのようなものか。

「東電幹部に、大津波によって福島第一原発が浸水し、全電源喪失に至る事故が起きることの『予見可能性』があったか。さらに、東電幹部は、原発事故を防ぐために必要な措置を取ることが可能だったか(結果回避可能性)、といったところになると思います。

強制起訴を決めた検察審査会の2015年7月30日付けの議決書では、こうした争点について、詳細な検討がなされています(インターネット上の『福島原発告訴団』のサイトにアップされています)。

議決書では、原発事故が、ひとたび起きると取り返しのつかない重大事故に発展する危険性があることを重視し、電力会社の幹部には、可能性が低い大津波等の災害であっても、それが発生した場合を想定して備えておかなければならない高度な注意義務が課されるとしています。

そして、福島第一原発の敷地高さを大きく超える巨大な津波が発生することも、事故前の知見からして『予見可能』だとし、安全対策を講じている間は原発の運転を停止するとか、防潮堤を設置するといった対策を取ることで、原発事故を防ぐことも可能だった(結果回避可能性あり)としています」

今回の強制起訴をどうとらえればいいのか。

「福島第一原発事故については、政府事故調、国会事故調、民間事故調などによる複数の事故調査報告書が公表されています。しかし、未だ東京電力の法的責任の解明は十分にされていません。

原子力損害賠償法が、事業者の過失を要件としていない(無過失責任)ため、東京電力の過失を立証しなくとも賠償が受けられることも影響しています。

原発事故の被害者が全国各地で東京電力や国を相手に起こしている集団訴訟では、東京電力の過失責任も現在進行形で大きく争われています。

検察審査会制度により、国民の意見を反映して、未曾有の大事故を起こした東京電力の幹部の刑事責任が公開の法廷で問われることになったのは、社会的に大きな意義があると思います。

刑事裁判を通じて、福島第一原発事故の原因の究明が進むことや、責任の所在が明らかになることを期待したいと思います」

【取材協力弁護士】
秋山 直人(あきやま・なおと)弁護士

東京大学法学部卒業。2001年に弁護士登録。所属事務所は溜池山王にあり、弁護士3名で構成。原発事故・交通事故等の各種損害賠償請求、企業法務、債務整理、契約紛争、離婚・相続、不動産関連、労働事件、刑事事件、消費者問題等を取り扱っている。

事務所名:たつき総合法律事務所

事務所URL:http://tatsuki-law.com




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